沼る 2
ある日の部活終わりのことだった。
この日は鍵当番だった。戸締まりを終え、私は鮮やかな橙の夕陽を見ていた。もう1人の鍵当番が、赤羽だった。
「よし、行こうか」
「はい」
私達は、美術室がある3階から職員室がある1階まで共に下った。道中、もう皆帰っていたため周りには私達しかいなかった。
(気まずい…)
赤羽は良い人だ。話していて楽しいし、周りもよく見えている。相手に悟らせないように気を配る。相手の観察が頗る上手いのだ。今までの様子からよく分かる。
だが、2人きりともなれば話は違う。
私は心なしか気まずい気持ちで歩いていた。
そんな私の気まずそうな顔に気付いたのか、赤羽が話しかけてきた。
「そーちゃんってさ、なんで美術部入ったの?」
(そーちゃん?!)
初めて呼ばれたあだ名である。
「えっと……絵がもともと好きだったのもあるので」
「そうなんだ。良いね」
「赤羽先輩はなんでですか?あんまりイメージないっていうか、サッカー部とか居そうな、あ」
つい漏れ出た言葉だったが、私はすぐに後悔した。
赤羽が珍しく真顔だったのだ。
「ああ、えっと、すみません」
「いや。確かにって思って」
「失礼すぎました」
「大丈夫だよ。……」
(怒らせた……)
「すみません」
「俺、こんなんだけどあんまり体力なくてさ。運動部入れないんだよね」
「そうなんですか」
「うん。小学生の頃まで病気がちでさ。体力なかったんだよね。中学に上がる時に引っ越してきたから皆あんまり知らないけど、学校通うのも一苦労だったから」
「……」
「想像つかないでしょ?」
「はい」
赤羽はフッとどこか自嘲的に笑った。
「中学入って、少しずつ学校通えるようになって、嬉しかったんだよね。だから、必死に皆と仲良くなろうとしたけど」
赤羽はどこか切ない顔をしていた。
"その容姿ゆえに、中身を見てくれる人がいなかった"
赤羽はまた自嘲的に笑った。
赤羽の横顔は夕陽に照らされ、赤く染まっていた。
その姿は不謹慎にも美しかった。
(私なら寄り添えるかもしれない)
まだ続きます