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画家のソリタ   作者: Suzura
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謎の画家



この日も朝から忙しかった。


タレントを見送り、雑務を熟し、目まぐるしく撮影が終わった。気付けば昼を超え、息吐く間もなく働いていた。

「小山くん、先メシ行ってきなよ」

「ありがとうございます!行ってきます」

メシを食べるタイミングを逃していた俺に声をかけてくれたのは3つ年上のアキラさんだった。

「ったく、甘やかすなよ、下っ端を…。俺等の頃なんか」

俺等の直属の上司である葛西さんは、相変わらずアキラさんの横で不機嫌なオーラを放っていた。


(悪い人じゃないんだけどな)

葛西さんは所謂、時代に合わないパワハラ気質の人だ。しかし仕事は出来るし数字を取るので、なんだかんだ上もパワハラを咎められないらしい。パワハラ気味ではあるが、番組制作に対する心意気とスキルは誰よりも抜きん出ていた。現にこうしてチーフプロデューサーを務めている。


中途採用で入社し、テレビ局に勤めて約2年が経っていた。 



「戻りました!」

「遅えぞ!メシに時間かけすぎだってんの」

「すみません」

メシを食べ終わり戻ると、案の定葛西さんの怒号が飛んできた。

「会議やるから、来い!」

葛西さんの号令の元、息吐く間もなく、会議が始まった。


会議はいつも突然始まる。資料も何も準備していない中、会議室すらない。ホワイトボードを引っ張り出し、葛西さんとアキラさんが準備した資料で大枠が決まる。前の会社ではありえなかった話だ。業界が違ったとはいえ、始めはこんな感じなのかと圧倒された。


「次、このコーナーでは……」

アキラさんの進行で会議はつつがなく行われる。大抵、内容は企画書の段階で面白いのでスタッフは誰も意見しない。これに関しては葛西さんのパワハラが原因ではなく、葛西さんとアキラさんの企画が純粋に面白いからだった。 


(2人的には意見してほしいみたいなんだけど、しないほうが数字が良いんだよな……)


一度、あまりにスタッフが意見しない為か、若手のスタッフにコーナーの企画を任されたことがある。アキラさん曰く、葛西さんたっての希望だったらしい。葛西さんが定年退職した後、スタッフが育っていなければ番組が終わってしまうからという理由だった。


葛西さんなりの親心で始まった若手の企画は、どれも成績を残せぬまま、ひっそりと終わった。

「おい!」

「はい!」

体がビクッと反応する。

「話聞いてんのか!」

「すみません」

「このコーナーに出てもらう為の取材交渉を小山、お前に頼む」



この時ばかりは話を聞いておくべきだったと後になって後悔した。





◯●




謎の画家Solitaについて調べ始めた。


「お疲れ様」

パソコンに向かい、渋い顔をしていた俺に缶珈琲を差し出したのは、千夏先輩だった。

「Solitaさん、何にも情報ないんだね」

千夏先輩はそう言うと、缶珈琲の蓋を開けた。

「だから葛西さん俺に任せたんですかね。めんどくさいから」

「どうなんだろね。ま、勉強にはなるから頑張ってみな」

「はーい」  

千夏先輩は俺の肩を叩くと缶珈琲を片手にどこかへ去ってしまった。


Solitaについての情報は全くと言っていいほどなかった。SNSもなければ、メールも電話もない。インターネット上に情報が無いのだ。


(バズったきっかけが無断転載の投稿か……)


月に1度だけ開かれる個展で撮影された1枚の絵がSNSで拡散された。神秘的な色使いと惹き込まれる何かは瞬く間に人々を虜にした。


(Solita……何者なんだ)


メディア露出は全く無い。メディア露出がうちが初になる可能性も十分にあり得る。話題性は十分だ。


(個展に行ってみるしかないか)


その投稿によると、個展が開かれる日は10日後のようだった。

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