表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/68

タシュクの町2

とりあえず泊まる場所を決めるか。

ねえ、オートマタちゃん、どこかお勧めの宿屋とかある?


ない。


そ、そうかい。この前来た時はどこに泊まったの?


獣人一人じゃ宿屋なんて泊まれない。そもそも入れてくれない。入る必要もない。


そうかい…


前に来た時も用事が全部終わらない内に夕方になった。

この町いちいち面倒くさい。

店が閉まったら、あの辺の木の上に隠れてた。


そうかい…

もうじき日も暮れるみたいだし、私もそうするかね…



人の目を盗んで、私はこっそりと木によじ登り、誰にも見られない辺りの枝に腰を下ろした。




長い夜になるだろう。

眠れもせず、お腹も空かず、トイレに行く必要もなく、ヒマを潰すものもなく、

ただひたすらに太陽が昇るのを待つ夜…



いや、耐えられるかあ、んなもん。ヒマ過ぎるわ。



私は人通りが減ったのを見計らって、スルスルと木から降りた。


考えてみりゃ宿屋なんて泊まんなくて良かったわ。

ご飯も食べない、水も酒も飲まない。

風呂にも入んないで、ただの素泊まりの客なんて、

獣人じゃなくてもイヤがられるわ、そんなもん。

それにしても、隠れ家から出てきたの、早まったかなあ、

こんなに酷いとこだとは思わなかったよ、ほんとに。

けど、出ないとこんなとこだってわからない訳だしね。

考えてもしょうがないわ。


とりあえずこの町の中心はあのデカい塔でしょうねー

どうせ昼間は観光なんてしてらんないだろうから、夜の内に見ておきましょう、うん。


オッケーヒーウィゴー!



ガキン!


ガキン?


何だ!こいつ!硬いぞ!


…いつの間にか、背後から斬られてた…

袈裟斬りで肩から真っ二つだよ、これ、普通なら。

容赦ねえー


しかも子供だよ、いくつだよ、この子。

12、3才?なんでこんなガリガリの栄養失調っぽい子供に、容赦なく斬られるかなあ…


ナイフを抜きかけて、どうしようもない脱力感に襲われ、バッグから適当に貨幣を取り出した。

さっきおっさん達に盗まれたから、小銭入れにはもう入ってない。


バラバラと地面に撒いて、もっと腕を磨いて出直しな、と言い捨てて歩き去ろうとした。


オラァ!と更に斬りかかられた。

それはないでしょ、と言いたい。

さすがに避けた。


振り返ると増えてた。5人もいる。



持ってるもん全部出したら許してやるよ、この獣人!


ニヤニヤと笑いながら、弓で照準をつける子供が言う。


許しなんかしねえよ、バラバラにして喰ってやるよ、獣人!


頭割って脳みそ啜ってやるよ、獣人!感謝しな!




こ、これは酷い。



何だろ、こういう都市の恵まれない子供を手懐けて、

云々とかって物語の王道だと思うんだけど、

コイツらが懐いてくる未来が全く浮かんでこないよ、神様。

何だよ、脳みそ啜ってやるよって…



ビュウとあっさり弓矢が放たれた。


いや、持ってるもん出すまで待たんのかい…


ツッコミにもキレがなくなる。



オラァ!とみんな一斉に斬りかかってくる。また無駄にチームワークが良いなぁ。



私はされるがままだった。


頭上からの派手な攻撃はフェイクで、頭上攻撃を避けた足元攻撃が本命。

そこから更に、足元担当の陰から躍り出るショートソードがお腹を突き、

勢いのまま、腹部を切り裂く、という見事なコンビプレイ。


私は頭への攻撃の時点で、避けきれず、ロングソードが直撃、剣は折れた。

足元への攻撃も直撃、相手がバランスを崩してコケた。

腹部へのトドメの一撃は、抱きついてこられたので、反射的に掴んで後ろに放り投げた。


少年強盗団は呆然としていた。


そりゃそうだ。

剣が通らない相手には遭遇したことないだろう。

てか、さっき攻撃してダメだったろ。少しは学習して欲しい。


ふと気付いた。


咄嗟に放り投げた男の子の首が変な角度に曲がっていることに…

アレ?これは・・・もう動かないっぽいですね・・・



うっ、うわーという叫び声と共に少年強盗団は逃げ出した。


私もパニくって逃げ出した。


私と同じ方向に逃げた子供がいた。足元担当の子だ。


ひっ!ひぃー


と、私を見て、変な方向転換をして、壁にぶつかりそうになる。

あ、危ない!と、私は袖を掴んで、引っ張ろうとした。


男の子は変な体勢で、私から逃れようとし、足をもつらせて、

頭から壁の角に突っ込んでいった…

当たりどころは非常に悪く、頭蓋骨陥没のスプラッターな事故現場と化した。

痙攣してる。


私の頭割って脳みそ啜ってやるって言ってた子か…

呪いの言葉って跳ね返るもんだねえ。ナムナム。


言ってる場合か。


私は再び逃げ出し、路地裏であれこれ悩んで、結局、元の木の上に戻った。



反省した。

割と深刻に反省した。


私がヒマにまかせて行動するとロクなことにならないのではなかろうか?

ちょいと観光しようとしたら、殺人事件が二件ですよ?犯人は私ですよ?

こういうとこだとわかってるんだから、朝まで待つべきでしょ?


結局、木の上に逃げ込んでさあ。


てか、明日の朝には指名手配されてたりしないかなあ。

無事に町から出られるかなあ…

なんか無理っぽい予感がヒシヒシとするなあ。



本気で男の隠れ家から脱出したことを悔やみ始めた。


うん、明日、本屋を探して、マップとか買ったら、この町を出よう。

せめて獣人が差別されないとこへ行こう。心の平安が欲しいわ。激しく。



ねえ、オートマタちゃん。

本屋の場所って知ってるよねえ?


知ってる。


そっか、明日、町が動き始めたらマップと子供向けの簡単な教科書買うからさぁ、案内してよ。


わかった。


ねえ、勇者とか賢者とかの情報って、誰か知ってると思う?この町の人で。


城主ならたぶん知ってる。


その城主さんって会えるかなあ?

あの塔に住んでる人?


そう。

賢者の石なら、会おうと思えば会えると思う。


マジで!会ってみたい!

どうすれば会えるかな?


城の兵隊を皆殺しにする。


ん?


スピードが必要だけど、昼間は城主の間に城主いる。

そこまで会う兵隊、皆殺しにする。たぶん会える。


あ、はい。


けど、会えても城主、獣人相手に話しなんてしない。

賢者の石が話しかけたら自殺する。穢れるから。


お、おう…


だから、城主に会えても情報は取れない可能性高い。


そ、そうね。そうだよね。

ふー


賢者の石、悲しんでるか?


いや、悲しんでは、ないかな…

反省してるよ、うん。


あんまり悲しまなくてもいいぞ。


そうかな?

ま、アイツらが勝手に攻撃してきたんだしね。


人間の子供の魔石なんて、銅貨2、3枚にしかならない。

ゴミみたいなもんだから、置き捨ててきても問題ない。

むしろ、ばら撒いたコインの方が勿体なかった。


いや、魔石の話なんてしてねえよ…



悪いのは私なのだろうか?それともこの世界なのだろうか?


ねえ、オートマタちゃんはどう思う?やっぱり私がいけない?

なんか人殺した罪悪感みたいのが、あんまりないんだよね。

私が石になっちゃったからかな?


返事はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ