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モルヒ山への旅1



私はリューク川の水底を歩いている。


アマリク北の辺りの住人の皆さんがパニック状態だったのだ。

そりゃそうかな、とも思うが、非常に殺気立っておられる。

私が噂話を聞いてみようと立ち止まったりするだけで、殴りかかられたり、因縁をつけられたりするのだ。


強盗に遭う回数も増えた。


川沿いの道は通行量も多い。

しかしこの道を避けて、別の道を探そうにも、川から離れるのは怖い。


思案した結果、そうだ、川の中歩いていけばいいじゃん、ということになった。


移動速度は間違いなく遅くなったが、道に迷わないのは良い。

なんといっても、人とすれ違わない。


最初は岸辺を歩いていたのだけど、

ヒマな子供達に見つかって、変なサカナがいる!と後をつけられたり、

投網を投げられて捕獲されそうになったりしたので、川の深いところを歩くようになった。


そうすると、今度はワニのデカいのに丸呑みされたり、

魚のデカいのに上半身を咥えられて、引きちぎられそうになったりするのだけど、

私はもはや丸呑みされることに関してはエキスパートと言える。


スパッと敵を切り裂いて、プハと脱出し、また上流へと歩き続けた。



川が流れているので、上流がどちらか悩まなくていいのも、グッドな点だ。

行く川の流れはたえないのである。



川底歩きの旅は順調であった。

時々、上陸しては、すれ違う人に現在地を尋ねた。

田舎者の河童になったような気分だ。


川は何度も合流や分流を繰り返していたので、何度か川を間違えてしまったけれど、

リューク川から大きく逸れることはなかった。



アマリクから川の町リゴルドまでは、普通に歩いたら、1ヶ月程度の道のりらしい。

私の足だとどれくらいだろう。

リゴルドの町とは、幾つかの川の合流地点であり、川のモノ、山のモノが揃う美食の都らしい。


何それ、羨ましい。


このように旅は順調であった。

しかし、私は水底を歩いているうちに、深刻な事態が進行しつつあるのに気づかされた。



ミトンちゃんの存在が薄くなってきている。



最初の違和感は反応が鈍いことだった。

話しかけてみても、何だか眠そうなのである。

そしてよく甘えるようになった。

甘えてくれるのはすごく嬉しいんだけど、どうにも違和感がある。


やがて話しかけても返答がないことが、少しずつ増えていく。


どうしたの?なんか調子悪いね?

と、聞いても、わかんないとしか答えない。


以前なら、返事すらせずに、冷たい空気を漂わせるだけであったろう。

やはり何かおかしい。何かが変わりつつある。



考えてみると、心当たりは幾らでもあるのだ。


イーブ様の仇を討った。

男の隠れ家を維持する仕事はもうない。

これ以上、この世にいる必要がない。

早くイーブ様の元に行きたい。


こう思われていても、しょうがない。


オリハルコンを通じて、私と意思を交わしやすくなった。

それは、ひょっとすると、イーブの術式を少し書き換えることになったのかもしれない。

いや、そもそもイーブの術式自体が寿命を迎えているとしたら?


ミトンちゃんが存在している立場の脆弱さを改めて思い知らされる。

イーブ様に縫い付けられているだけなのだ。

誰もミトンちゃんのメンテナンスなどできない。



ミトンちゃんがいなくなったら、どうしよう。



私は足元が崩れるような気分になる。

怖い。

本当の意味で一人ぼっちになるのが、本当に怖い。


早くケルマンに会わないと。

私は旅の終わりを予感している。

ケルマンに会って、ケリをつける。


ひょっとすると殺し合いになるかもしれない。


それでもケリをつけて、そうして…


その後はどうするのだろう。



あまり深く考えないようにしていたけど、私はこれから何をしたら良いのだろう。


草原に戻って、竜の子たちの保母さんをやるのもいいかもしれない、と思っていた。


イシュタルトの行方を探して、獣人孤児院のお手伝いをしてみるのも悪くない、と思っていた。


でも、私が関わることで、破滅を迎えたら?

否定することができない。



やはりピラリヤ山脈か深海に戻って、意識を手放すしかないのだろうか。


本当に手放せるのだろうか?


ずっと寝てて、たまに目を覚まして、いつになったらこの世界は終わるのだろう、と思いつつ、また寝る…


そんなの耐えられる気がしない。永遠の監獄ではないか。

しかし関わるもの全てが破滅するのなら、何かを好きになっても虚しい。

愛着を持つことが、その対象を壊すことになる。


本当にどうすればいいんだろ。


ケルマンに会えば、本当に解決するのだろうか…




リゴルドの町は川の中からでもわかった。

複数の川が集まって、少し湖のようになっている。

その湖のような場所から、溢れた水がリューク川になるのだ。


リゴルドの町には立ち寄らない。

どうせロクなことになんないし。

美食の都か。いいなぁ。


しかし食事をしてもどうせ味などしないわけし。


食事といえば。

私はやっと思い出した。


ねえ、ミトンちゃん。


なに?


そう言えば、よく覚えてたね、ネフタルにトドメを刺したあのオリハルコン水のこと。

私、アレのことすっかり忘れてたや。

ゼリーみたいになってたもんね。

やっぱり相当ヤバい水だよね、アレ。


!!


おお、久しぶりにすごいびっくりされた。


ミトン、ずっとアレ秘密兵器だと思ってた。

覚えてないだけとか全然思わなかった。

賢者の石すごい頭いいって思ってたけど、

やっぱり賢者の石すごいバカ。


うう…

そ、それでね?

今からケルマンのとこ行くじゃない?

あれ、また用意した方が良いよねえ?

けど私、あんな風に逆立ちできない気がするんだよねー

バトルの最中にさあ。


アレ入ってる時、ミトン、ずっと少し気持ち悪かった。

秘密兵器だと思ってずっと我慢してたのに。

アレの入れっぱなしは良くないと思う。

すぐ出さないとダメ。


ご、ごめんね。

そっか、ダメか。

どうしようかな。

なんかあった時に、オリハルコンのナイフだけで仕留められるかな?


ただのヒトでしょ?


そうかな?


たぶんそう。

強いだろうけど、ヒトだから賢者の石なら大丈夫。


なるほど、堕天するとこういう扱いか。

そりゃ誰も気にしないわ。

ケルマンの心境やいかん、であるね。


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