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タシュクの町1


日が傾きかけた頃、タシュクの町が見えてきた。

壁にぐるりと囲まれていて、大きい塔のようなものが見える。

ここまで遅れたのは、途中で会った馬車を避けたりしてたせいもあると思う。

しかしながら、やっと着いた。


これでお布団で寝られる…って思って、そんな必要などないことに気づく。

食事をする必要すらないのに。


私は何をしに町に来たのか?


やめよう。

とりあえず入ってから考えよう。


いや、そうだ!知識だ。


勇者とか魔王とかマップとか!

まずはこの世界のルールを習得するのだ!

そうだそうだ。あと、ついでに文字も学びたい。

金ならある。時間もあるだろう。


うん、少しワクワクしてきた。



町に入るには行列に並ぶ必要があるようだ。

町を囲んだ壁と堀の向こうに門らしきモノが見える。

門前に入城待ちの行列がある。


列に並んで大人しく待っていたら、後から来たおじさんに、実にナチュラルに割り込まれた。

私が並んでいるのが見えないのか?と思えるレベルでナチュラルだ。

あの、すいません、私も並んでいるのですが?

と声をかけたら、チラリと見られたが、そのまま無視された。


びっくりした。

何というか、衝撃的だ。

怒るとかより呆然としてしまう。

なんだこいつ。



獣人だから差別される。しょうがない。とオートマタの声がする。


ええええええ


衝撃を受けていると、また別のおじさんに割り込まれた。

みな、全く私が見えていないかのように振る舞う。

私の後ろに並ぶ者がいない。



いや、これじゃ永遠に入れないでしょ?


そのうち入れる。

間隔を空けないのは大事。

けど近づき過ぎると攻撃される。

フードちゃんとかぶる。人のふりする。

並んでる人の仲間っぽく見えるように努力する。


いやいやいや…


タシュクは特に獣人差別ひどい。

面倒が多いから、あまり来たくない。


う、うーむ…



私はこれ以上割り込まれないように努力しつつ、

かつ、揉め事にならない程度に列に並びつつ、ふと考える。


この世界はどこかおかしい、と。

誰も私を助けてくれない。

助けを期待するわたしがおかしいのだろうか?



出会ったのは怖い神様、いきなり攻撃してくる悪人と中ボスっぽい魔物。

導き手がいない。

恋の予感なんて全くない。

オートマタちゃんは役に立たなさ過ぎるし、そもそも声でしかない。

いや、可愛いんだけどね。



私は神の啓示を受けた賢者の石だ。

この世界を救う重要な存在であるはず。

その割に、この扱いはいかがなものか?

なんかハードモード過ぎはしませんかね?

もう少し友好的な登場人物とか、カッコいい戦友とか、ね?そういう…

うーむ・・・



そんなことを考えていたら、私の順番が近づいてきた。前の人たちの様子を観察してみる。

顔を見て、銅貨を3枚払って終了のようだ。にこやかにお話をしてる人もいる。

銅貨一枚はどのくらいの価値なんだろう?とか思ってたら、オートマタちゃんから警告がきた。



ご主人様のお使いで本を買いに来たって言って。


ん?


ご主人様のお使いじゃないと獣人じゃ入城できない。


お、おう、そうなの…

ホントに差別エグいなあ。



順番が来た。


ご主人様のお使いで本を買いに来ました!


目を合わせてもくれない…

無言で皿を差し出された。

チャリンと銅貨3枚を皿に載せる。

他の人はちゃんと手で受け取ってたのになぁ。


想像してたより傷つきながら通り抜けようとしたら、足んねえよ!と棒で突かれた。

バランスを崩し、ヨヨヨと倒れたら、周囲の皆がゲヘヘヘヘと嘲笑う。


こ、これはキツいわ。いっそコイツら皆殺しにしてやろうか…



薄汚い獣人を町に入れるんだぞ、銅貨3枚でどうするんだ?銀貨3枚だよ!



おーう。


我慢我慢。

オートマタちゃんが気楽に言う。


そっか、我慢我慢か…


申し訳ありませんでした。

と、銀貨を小銭入れから差し出すと、

その辺にいた連中がワラワラと寄ってきて、小銭入れに手を突っ込んで、お金を盗んでいく。


もう…何なんだよ、こいつら、マジでもう…


挙げ句の果てにお尻を蹴られて、転がされて、さらに嘲笑われた。


不用心過ぎ。

と、オートマタちゃんが冷たく言い放つ。


わ、私が悪いのかい?!


最初から銀貨1枚出して、これしか持ってませんって言わなきゃダメだった。

お釣りを返してくださいって言ったら、お前に渡す釣りなどあるか、で通れた。


言ってよ、それ、先に。


どっちにしろ、お金払えば通れるし、お金なんかいくらでもあるから、気にしなくていい。

入城目的の申告を間違えたら、入れない。


プライドの問題なんですよ…



このようにして私は更にこの世界が嫌いになったのだった。


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