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砂漠で実験


あ!


思い出した。

紅茶!

飲むふりできないから、飲んだ紅茶。

体内に入れたままだわ。


どうしよう。

どうしたら取り出せるかな。


わわわ。



逆立ちしてみれば?


お、そうだね。

ミトンちゃん、冴えてる。


私は逆立ちしてみた。

が、出ない。


あれ?残ってない?

吸収しちゃった?



いや、ちょっとだけどある。

もう少しそのまま。



ボッタン、という感じで、水滴が落ちた。


足元の砂、いや手元の砂?が、ずわん、と消滅した。



わわわっとなったが、そのまま落ちた。5メートルくらい落ちた。

クレーターみたいな穴の底で、私は呆然とする。


濃縮された?

カップ一杯の紅茶の濃縮で、これだけの砂が消えて無くなった?

何それ…


日が暮れるまで、まだ時間もある、

ラベルさんの砂漠の緊急袋から水を取り出して、実験を繰り返してみることにした。


結果。


時間経過が威力の決め手であるようだ。

入れてすぐ出すと、ほぼただの水。

10分くらいから少しずつオリハルコン水になる。

反物質水とでも命名すべきかもしれない。


砂に触れた瞬間、砂ごと消滅する。

この世界の理から外してしまうということだろうか。


同じ量でも30分ほど入れておくと、濃縮が始まるようで、

消滅させる砂の量が関数的に上がっていく。

これは怖い。けど、何かに使えそうだ。


砂は消失させてしまうようだが、生き物相手だとどうなるのだろう。

自分の身体で試す勇気は出ないな、さすがに。


デカい魔物でも出て、私を丸呑みにしてくれないものか…

砂漠の定番、サンドワームとか、ドーンと。


非常用の武器として使うにしても、逆立ちしないと出せないのが欠点だな。

なんか良い手はないだろうか…



ふと、どれくらい入るのか気になったので、グビグビ水を飲んでみた。

一週間分くらいの水が入ったところで、怖くなってやめた。

ど、どうなってんだ、この身体…

リッター換算したら20リットルくらい入ったんじゃなかろうか。

剣くらいなら楽勝で収納できるな、こりゃ。

身長より長いものも入りそう。

そういう空間なんだろうな。

生物、例えばネズミなんか入れてみたら、どうなるんだろう・・・


ふと気づくと、日が暮れそうになっている。広大な地平線に半分ほど太陽が落ちている。

いっけない、ちょっと夢中になりすぎてた。慌てて走り始める。



夜のうちに先行しているキャラバン隊を無難に追い越して、内陸ルートに乗り直す。

平坦で走りやすい。

道に迷わないというところが実に良い。


ジグキャラバン隊を追い越して、そのままずっと走り続けた。

砂漠の道が快適で、なんだかドライブしてるような気分だ。

止まるのがもったいないような気分。


ので、4日でクミンに着いた。

私、頑張った。

しかしながら、町に立ち寄るわけにはいかないだろう。

残念ではあるが、かなり大回りをして町を迂回、さらに走り続けた。

懸賞首だもんね、なんせ。


クミンを超えて、しばらく進むと一気に緑が増えた。

チラホラと道沿いに農村が現れ始めたので、目立たないように、道の端をゆっくりと歩くようになった。


正直、もう人に関わるのが怖いのである。

馬車や荷車とすれ違いそうになると、隠れてやり過ごすようにしていたのだが。


なんかこのあたりやけに平和で長閑なのである。


荷馬車同士がすれ違う時に、挨拶しあい、そのまま少し話し込んで、笑顔で別れていく。

普通と言えば普通なのだけど、この世界に来て、こういう感じは初めてなので、少し面食らう。


虎の獣人や狼の獣人が呑気に一人旅をしているのを見ることもある。

何の警戒もしていない。


通行人も増えてきて、すれ違う度に隠れていると、前に進まなさそうになってきて、

私は少し背中を丸めて、目立たないように歩き続けるようになった。



やがて川が見えてきた。

珍しかったので、思わず立ち止まって、川船の往来を眺めていた。

ふと我に帰り、周囲を警戒してみても、私に気をとめる者など誰もいないのである。

自意識過剰な人みたいな気になって、少し恥ずかしくなった。


ひょっとして、タシュクとかタンネルブとかの西の方が治安悪すぎただけ?

最初に、この辺の東の町に転移してたら、難易度がだいぶ低くなってたんじゃないかしらね…



川面を眺め、物思いに耽る。

来し方行く末。

行く川の流れはたえずして。



堕天したケルマンって、今どこに居るんだろう。私のことなんて覚えてないのかな。

どうでもいい存在ってわけでもないと思う、思いたいんだが。


もう死んでいなくなってるんだろうか…

消滅しちゃってる?のかな。


けど、死んだんなら、堕天って言い方にならないんじゃないかな…

堕天…天から堕ちて、人間界、すなわちこの世界に居るってのが、普通の解釈よね?


誰も堕天したケルマンが今何してるかなんて気にしてなかったな…

元神様なのに、冷たいよねえ。



やがて日が落ち、すっかり暗くなった。

真っ暗である。

川の音は絶えないけれど、本当に川の水が流れているのか、私にはよくわからなくなった。



夜を徹して歩く。


道がちゃんとしてる。盗賊にも遭わない。

住民たちはちゃんと夜は寝ているのだ。ちょっと羨ましい。


やがて朝になり、人がガヤガヤと集まる街道沿いの船着場に着いた。

五艘くらいの大きめな川船があり、人と荷物の積み込み中である。



へーと眺めてたら、

おう!そこのちっこいの!

と、声をかけられた。


私?

キョロキョロしてしまった。

私だろうな。


お前だよ、どこ行くんだ?


ア、アマリクに参ります。


そりゃいい。

予約の団体が来ねえんだ。

安くしてやるから、乗ってけ。

金あるか?


幾らですか?!


銀貨8枚って言いたいが、3枚でいいや、乗ってけ。


はい!



銀貨3枚を払うと、船の後部の荷物置き場の端っこに絨毯が敷かれた。



ここがお前の場所だ。

名前は?


ミ、ミットと申します!


ミットか、ずいぶん男らしい名前だな。


す、すいません。


お前の名前が何だろうが、かまやしないよ。

荷物はそれだけだな。

食糧は?


保存食がまだ二週間分くらいは。


そりゃ準備がいいな。

水はデッキの後ろだ。好きに飲んでくれ。腹壊すなよ。

アマリクのどこまで行くんだ?


どこ…図書館の近く?


中央だな。

季節外れの嵐でも来なきゃ、3日で着く。

昼過ぎ、夕方までには着くな。

寝るなよ。寝過ごしても戻ってやったりゃしねえからな。


客引きの船員さんはウインクした。

いつものジョークなのだろう。クスッときた。


あと、盗みは厳禁だ。

捕まえたら身ぐるみ剥いで、簀巻きにして、川に流すのが決まりだ。

脅しじゃないぞ。


モノを盗んだりなどいたしません!


そうだろうな、育ちが良さそうだ。

けど、たまにいるんだよ、そういうやつ。

盗むんなら陸でやった方がいいぜ。せいぜい袋叩きだ。

ウチの船内で盗むと、問答無用で殺すからな。


ケンカなら好きにしてくれ。

ただ、あんまりうるさいと、船長から川に放り出される。

死にゃしないが、船賃の損だ。荷物も没収になるな。

船長の機嫌を損ねるようなことすんなよ。怖いぞ。


ケンカもしませんよ…

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