内陸ルートのキャラバン隊4
一瞬であった。
魔法剣士ラベルは己の身体を強化、同時に刀に重力魔法を付与することにより、
凄まじい速度で剣を振り下ろす必殺の秘技を放つ。
音より速い渾身の一撃。
私に見えるはずがない。
私の体を真っ二つにする筈の剣は、当然だけど、ペキーンと折れ飛んで部屋の壁に刺さった。
それから音が聞こえてきた。
剣が振り下ろされるゴゥという轟音、キャキーンという剣が折れる鋭い音。
折れた刀身が壁に突き刺さるズドムという低い音、私の周りを流れていく風。
座って紅茶を頂いている体勢のままの私には、何が起きたのか、さっぱりわからなかった。
ぽやんとラベルさんを見上げているだけだった。
後でミトンちゃんにどういうことだったのか、コンコンと教えてもらうことになった。
お説教と言うかもしれない。
え?今の何?
頭に何かがすごい勢いで当たったよね?
折れた剣を呆然と眺めるラベルさん。
意味がわからず、ポヤッとしてると、ふわっと身体が動いて、ラベルさんにボディブローを放った。
あ、こら、やめなさい!
ミトンちゃん!
遅かった。
身体をくの字にして悶絶している魔法剣士ラベル。
す、すいません、つい。
一応、謝ってみたけど、聞こえてるかな…
内臓が破裂したりしてないといいけど。
かなり手加減したから、多分、大丈夫。
そお?
痛くて苦しいだけ。
弱いくせに調子に乗るから。
そ、そお…
回復魔法など使えない私は、あちこちと走り回り、
ようやく傷薬と痛み止めを入手し、ラベルさんの部屋に戻ったのだが、
すでにラベルさんは自分の回復魔法で復活していた。くそう。
しかしながら、メンタルまでは回復しなかったようで、頭を垂れて、床を見つめている。
どうやら深刻に反省してくれてるようだ。
私が傷薬を持って駆け込んで来たのに気づいたラベルさんは、ホロリと涙を溢した。
意外と涙もろいよな、この人。
僕の剣とは何だったんだろうな。
全てを捧げてきたつもりなんだけど、それでも、それでも…
こんなに足りないんだな。
回復魔法すら使えない獣人に手加減されて、あげく心配してもらうなんて…
ウッウッウッと本気泣きが始まってしまった。
うわーめんどくせー
メソメソと泣くラベルさんを座らせ、念のため痛み止めを飲ませて、お話をしてみる。
あのーですね、私は自分のことを破滅の獣人、ではないと思っているのですよ。
アレはね、エルフの人たちが勝手にそう呼び始めただけなんですよ。
だいたい私に関する噂って、全部エルフの人たちが勝手に広めてるだけで、すごい迷惑なんですよ。
ケルマンの使徒とかってのも誤解なんですよ。
確かに、ケルマン神だった頃に、一度お会いしたことはありますけど、ホントにそれだけですよ。
正直、何かしてもらったわけでもないし。
連絡を取る手段とかないし。
メソメソと俯いていた、ラベルさんの顔がガバと上がる。
驚愕しているようだ。
あ、あれ?
なんか間違えた?
な、何を言ってるんだ?
ケルマン神だった頃にお会いしたって…
君は、かつて、天界の住民であった、ということかい?
堕天使だ、と…?
ギャー
地雷踏んだー踏み抜いたー
なんか相当マズいことペロっちゃったみたいー
わーどうしよー
もう殺しちゃった方が良いんじゃない?
ミ、ミトンちゃんはお黙りなさい!
私は目を閉じて、少し考えた。
できるだけ嘘のない、ぼかしたストーリー…
実は、私、ケルマン神にお会いする前に、何をしていたのか、よく覚えていないのです。
記憶を奪われているのだと思います。
気づいたらケルマン神の部屋に居て、それから追放されました。
その後、イーブ様に拾われ、師の身の回りのお世話をしておりました。
今の私は世間知らずな獣人です。それだけの存在なのです。
イーブ様はお亡くなりになる直前に勇者アリアラのパーティに参加しておりました。
アリアラさんを探しているのは、イーブ様のお話を聞きたいからなのです。
ラベルさんが、さりげなく私の尻尾を観察しているのに気づいた。
ちっ。
なんか完全に見抜かれてるな。
尻尾をスイっと背中に隠す。
ふふッとラベルさんが笑った。
確かに嘘はついていないようだった。
あまりに荒唐無稽で、正直、全く信じられないけれど。
だが、そうだったのか…堕天使か…
なら、しょうがないか…
ふ。
堕天使と剣を交えることがあるなんてね。
ふふ。
な、なんかヤバい方向に自信回復されつつある気が…
イーブか…知らないな。
もっとも僕がアリアラのパーティを離れた後のことはよくわからない。
アリアラは今アマリクに居るよ。
本人に話を聞くのが良いのかもしれないね。
町の酒場で聞けば、どこに居るかすぐわかるだろう。
なんせ有名人だからね。




