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内陸ルートのキャラバン隊3


さて、つまりは私の仕事ぶりが認められた、という話なのだった。

今後の私の身の振り方会議により、お仕事が増えたのである。


オオカミ獣人のカシラの一人、ヘンリックさんは、

私がクルクルと魔法剣士ラベルのお世話をしている様子を見ていて、

羨ましくてしょうがなくなったらしい。


あのお世話係をオレのとこにも派遣しろおお!と暴れているらしい。



で、その暴れている様子を見ていた、同じくオオカミ獣人のカシラの1人、ハーゲンさんも、

あの死ぬほど臭くてしょうがないガガースを風呂に入れさせろ!

あのネコにきっちりとあいつを消臭させろおお!


と、こちらも暴れ始めたらしい。



ガガースさんとはヒト族な運転手グループのトップである。

全然お風呂に入りたがらない人で、水の節約と言いながら、

お風呂に入るのを断固として拒否しているらしい。

すれ違うだけで不愉快になる、とのことだ。


ガガースさんは運転席で隣に座らざるを得ないウシ獣人さんたちにも、

かなり嫌がられているらしいのだが、頑として風呂に入らない。


ウシ獣人たちは不満を言わないけど、ある日突然ブチキレる可能性が高いので、

これを機会に、今のうちに何とかしよっか、と意見がまとまったらしい。



やっぱり人が集まると、何らかのトラブルって起きるもんよね。

このキャラバンは皆んな仲良しな方だと思うんだけどな。


そういうことで、魔法剣士ラベル、オオカミ獣人ヘンリック、風呂嫌いガガースの三人のお世話を同時進行で行うことになった。

お給金三倍だそうだ。


金は余っているが、やる気は出る。

いろいろと考えてみないといけないことがあるのだが、とりあえず置いといて、身体を動かしたい。



ラベルもそうだが、役職付きは個室がある。

ヘンリックさんの部屋を完璧にお掃除して、いつでも摘める軽食をセットしてみた。

ついでにお花も飾っておいた。


ガガースさんのお部屋は完全に汚部屋である。

どこで寝ているのか、いったい。

部屋全体の臭いもキツい。

ガガースさんの鼻って何のためについているのだろう。


ゴミと使えるものに分別し、非番のガガースさんの部下に捨てさせた。

いい迷惑だとは思うが、私は責任とらない。


風呂場までみっちりとゴミ溜めだったので、

クレーム主のハーゲンさんに状況を説明して、少し猶予をもらう。


ハーゲンさんは少し潤んだ目で私を見て、チップを弾んでくれた。

イエイ。



そうして最後に魔法剣士ラベルの部屋の手入れをする。

もう数日間に渡って、手を入れているので、それほどなすべきことはない。


ラベルさんはソファで寛ぎながら、本を読んでいる。


この人は護衛、治安維持の責任者で、荒事以外に出番はない。

基本的には、だけど、あくまで。


そして意外なことに文化人なのである。

様々な魔法を駆使することができる、いわゆる器用貧乏タイプで、

特化してない分、幅広い知識と技能を持つ、とのことだ。


読書してる人って初めて見たな、そういや。



お部屋のお片付けが終わると、有能なラベルさんは優雅にお茶を勧めてきた。


おおう、文化人。

しかし、お茶かあ。

液体を体内に入れるとどうなるかは、試したことないなあ。


コンクラーダ号で水飲んで、すぐにペッと吐き出したいことあるけど、

あの頃は賢者の石の使用方法知らなかったからなあ。


全然気にしてなかったけど、アレもオリハルコン水になってたのだろうか?

なんか怪しい健康食品みたい。


割とだらしない生活をしてて、足がすごく臭いラベルさんは、

部屋が整い、足の臭いが改善されてくると、何となく貴族っぽい雰囲気を醸し出すようになった。


ボーボーだった髭をちゃんと剃る気になったようで、顔もよく見ると、それなりに整っている。


元々は良いとこのボンボンだったのかもしれない。

召使いが居ない生活をしたことがない、とかね。



獣人たちと話をしようとして、全然相手にされなかったそうだな。


あ、そうなんですよ。

オオカミ獣人さんたちにしか話しかけられなかったんですけど、

あの人たち、私のこと完全に無視するんですよ。

ひどくないですか?


何を聞きたかったんだ?


いや、なんでこのキャラバン隊って、こんなに獣人率高いんですか?とか、

出身どこですか?とかですかねえ。

世間話ですよ。


ふーん。

このキャラバン隊は、オオカミ獣人たちが冒険者や商人として独立するための訓練所みたいなとこになってるからね。

何かあったら、すぐぶん殴られるし、よそ者とは会話してくれないと思うよ。

よくは知らないけど、禁止されてると思う。

それに君も小さいとはいえ、女性だからね。


へえ?


こうなっているのは、ジグ親方の人柄という要素もある。

なぜかオオカミ獣人にボスと慕われるんだ。

本人も不思議がっているよ。


はー


ほとんどのオオカミ獣人たちの出身はアデリー高原のどこかだ。

細かいことまでは知らんが、あの辺りの里からあぶれて、メカンの町に流れ着く。

そこでこのキャラバン隊の仕事を斡旋された、という流れで此処にいる者ばかりだろう。

牛や鷹はスカウトだね。特殊技能だ。


そのメカンとはどこでしょう?


オアシス都市群のひとつだ。

アデリー高原の南と東はウルシャの森。北はピラリヤ山脈だ。

アデリー高原は西にしか出口がない。


ピラリヤ山脈に沿って、西に進み、山脈が途切れた所を北に進むと、

砂漠のオアシス都市メカンに着く。


そういう町さ。

アデリー高原の出口にしてモル砂漠への入口だ。


キャラバン隊はメカンで使い捨ての獣人を雇う。

獣人たちは使い捨てられないように知識と技術を身につける。

砂漠の常識だよ。


このキャラバン隊はそういう意味では変わってる。

獣人を使い捨てないからな。


はー

解決しました。

獣人は一般に人間と交わる仕事には不向きだ、と教わったので、

このキャラバンが少し不思議だったのです。

ありがとうございます。


ちなみに僕はアマリクの出身で、勇者アリアラは昔馴染みだ。

もっとも僕の実力が足りなくて、彼にはついていけなくなったけどね。



紅茶を吐き出しそうになった。

我慢したが、代わりに尻尾が毛羽立つのを自覚する。


どうした?

勇者アリアラの情報を求めているんじゃなかったのか?


な、何のことですか?


確信を持った今でもまだ少し信じられないが、破滅の獣人とは君のことだね、ミトン?



あまりの不意打ちに、尻尾がバタつくのを抑えられない。


君は嘘をつけないね。

誤解しないで欲しい。

僕はケルマン神に信仰、とまではいかないけど、深い共感は持っていた。

あんなことになって、本当に残念に思っている。


それにアリアラは確かに大きな失敗をしたけど、その報いは十分に受けたと思っている。

アリアラの暗殺からは手を引いてくれないか?



いや、ちょっと?


良い奴なんだよ。確かに今は少し荒れてるけど、根は本当に優しい良い奴なんだ。

もうケルマンに果たす義理などないだろう?



いや、ちょっと、ちょっと待って。

わたし勇者アリアラを暗殺するなんて、カケラも考えたことないんですけど!


なら、何のためにアリアラの情報を求める!

余りにも的外れだろう。

ティグルの里にアリアラを知る者などいるはずもない!

なぜランクルサットを殺した!

君は、誰から、どういう指令を受けて行動しているんだ!


すっと立ち上がると、ラベルさんはズラリと剣を抜いた。


私は頭を抱えた。


ラベルさんは明らかにティグルの里で起こったことの詳細な情報を握っている。

テキトーなことを言ってみた過去の自分を殴りたい。



んーいや、ほんと、ちょっと待って。

もう少し冷静に話し合いましょ?ね?


ラベルさんと戦ったりしたくはないです、わたし。

剣を収めてくださいよ。ね?


お互いの情報のすり合わせをしてみませんか?

私の話を聞いてみては貰えませんか?ね?



問答無用。



うわーん、お前もそうなのかよー!



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