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アデリー高原の獣人の里1


やがて深い深い渓谷に辿り着いてしまった。

これは面倒くさい。

しかも本気で深い。

対岸まで直線距離で2、300メートルくらいなのに、はるか彼方の底まで降りて、

すごい急流っぽい川を渡って、もう一度登る。


面倒くさいが過ぎる。

何とかならないものかは。


1.上流に上がる。

渓谷が細長くなって飛び越えることができるかも。


2.下流に下りる。

谷が途切れて平原になり、歩いて川を渡れるかも。


うーむ、と悩んで、私は川を下流に向かって歩いてみる事にした。


ふらふらと渓谷に沿って歩いたり崖を乗り越えたり、たまに谷底を覗きこんで、

深ーい怖ーいキャキャと平和に観光気分に浸っていたのだけど。



お?

橋がある…


橋…は期待してなかったなあ。

人が居るってことだもんねえ。

しかもアレ結構に立派な吊り橋ですよ。

これ、当然、管理してる団体があるでしょうし、通行人から通行税くらいは取ってるよねえ。

そもそも獣人を渡してくれたりするもんかしら?


私はそそくさと岩陰に身を隠し、少し考えてみることにした。


まず、渓谷に飛び降りて、逃走する心構えをする。

またミトンちゃんに叱られちゃうから、あんまり服を痛めたくはない。

けど、私から見えるということは、相手からも見える。

私が先に見つけただけだ。


このアドバンテージを何としても活かしたい。


私はおそらく普通の旅人が来るルートから、かなり外れた道を通っている自信がある。

警戒されて当然だろう。


やあ、こんにちは、かわいい獣人さん。

どこから来たのかな?


なんて牧歌的な世界ではないと思う。

そうだったら本当にいいのにな、とは思う。



怪しい奴は、まず殴る。

それから少し考えてみる、という世界なのだ。


正直言って、渓谷に飛び降りたくはない。

何のためにここまで迂回してきたのか。


お金だったら払うから、橋を渡らせてもらえないかなー

無理だろなー


私は岩陰に身を潜めて、周囲を観察しつつ、しばらく悩み、思いついた。


まず渓谷をロッククライミングで少し降ります。

そのまま見つからないように平行移動して、橋の下へ、橋の裏側をつたって、対岸へ。

そして、登っても見つからなそうな地点まで、また平行移動。

無事、通過。


素晴らしい。これで行こう。

私って頭良いわー


そうかな…


うるさいうるさい。



私はそっと渓谷の壁を伝って、えっちらおっちらと、ロッククライミングで橋に近づいていく。


が、あっさりと見つかってしまう。ガッデム。


盲点であった。

橋の両側に衛兵はいるものなのだよね、うん。

そりゃ、向こう岸からは丸見えだよ、わたし。


向こう岸にワラワラと橋の見張り役さんたちが集まって、私を指差して、何か話し合っている。


あれ?!

獣人だよ!あの衛兵たち。

狼っぽい獣人たちだ!



なんかいるぞー


と、橋の向こう側から警告の声が響き渡る。

渓谷だけに。ごめん。


矢が対岸からビュンビュン飛んでくるけど、届かずに途中で落ちる。

いや、さすがに谷の向こうからここまでは届かないでしょ?

と、思ってたら、真上からもビュンビュン矢が降ってきた。

私の位置を知らせてたのか、なるほど。


狼の獣人の橋だったら、お話したら、普通に通してくれたかも。

それに、なんで夜まで待たなかった?

暗闇だったら、たぶん見つからなかったぞ。


ええい、ミトンちゃんはうるさいうるさい!

てか、アドバイスが遅い!



石だ!いや、もっとデカいやつ持って来い!


何だこいつ!ネコのくせに壁をスイスイ歩けるぞ!気持ち悪い!トカゲみてえだ!


とにかく落とすぞ!油あったか?それも持ってこい!



私の真上くらいに集まってきた狼の獣人さん達が、好き放題なことを言ってる。


石が降ってきても、岩が当たっても、油みたいなもの垂らされても、

私は問題なくロッククライミングを続け、橋の裏側に飛び移った。



まずい!止まんねえぞ、このネコ!突破されちまう!


隊長に報告あげろ!


妙なネコが里に入ってくるぞ!



私は木製の吊り橋の裏側を四足歩行で、落ちたりしないよう、ソッソッと慎重に渡りながらも、

里、という言葉に耳が立った。

この先、オオカミ獣人の里ってことか?


私の脳内で、イーブ様マップの虎や狼のガオーと、獣人の里が結びついた。


なるほど、この辺には、獣人の里が幾つかあるって意味か、あれ。

地域ボスのことじゃなくて。

なるほどなるほど、って、わかるか!そんなもん!


獣人の里かー

行ってみたい気持ちはあるな。


イシュタルトは滅茶苦茶な連中みたいなこと言ってたけど、

実際、会って話してみないとわかんないことあるしねえ。


ポヤンと考えながら移動していたら、足を踏み外して落っこちそうになった。あぶないあぶない。



無事、対岸近くまで橋を渡った。

もちろん、警備の獣人さん達が大騒ぎをしているのだけど、もう気にしないことにした。

橋から崖へジャンプ。

そのまま崖をよじ登り、獣人の里警備隊の皆さんと対峙する。


岩の谷間の底の小道、という感じの道を皆さんが決死の覚悟でガードしているので、

その反対側にある岩山に向かって走り出した。


狼の獣人さん達は、意表を突かれた顔をして、しばらくは持ち場を守っていたけど、

慌てて何人かが班になって、何班かが一定の距離を保ちつつ追跡してくる。

なんか獣人だって割に統率がとれてるなあ。

狼さんだからかねえ。


まあ、さすがにこんな奇妙な侵入者を放ったらかしにしておく訳にはいかないだろうね。

面倒くさいけど、しょうがない。

そのうち撒けるでしょ。


断崖絶壁の岩山に辿り着いた。

そそり立つ壁である。


このまま頑張って登ると、追跡者さん達に、完全に姿をさらすことになるが、

間違いなく逃げ切れるだろう。


迂回してると、振り切れないかもしれなくて、捕まっても怖くはないけど、

オオカミ獣人さん達と、おそらくは非常に不本意な出会い方をすることになる。


登っちゃえ。

見られたって構やしないし、もう十分見られてる気もするし。


えいや、と断崖に取り掛かり、黙々と登る。

ふと下を見ると、狼さんたちが、ポカンと私を見ているのがチラリと見えた。


よし、ついてこない。そりゃそうか。来たくても来れない。


そのまま、えいやえいやと登り続け、岩の頂上、ってか峰、というようなところに着いた。

夕日が暮れつつある。


不思議な岩だ。

屏風岩というのだろうか。

巨大なそそり立つ一枚のまな板という感じの岩だ。

そして降りるのにすごく苦労しそうな垂直な崖の下に巨大な建造物群が…


なんか・・・どうやら、この下、ここが獣人の里だね、きっと。うん。

獣人の里を避けて逃げたはずなのに、なんで里に着いちゃってるのかな。

しかもコレ里の中心部って感じね、うん。


下でなんか大騒ぎになってる…



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