オリハルコンの精製
あっさりと切られたカルブーンとのエルフ通信の後、私は思考に沈んだ。
賢者の石とは、この世の理から外すもの、か。
魔力除去装置ってことか。
魔力を除去することにより、魔術の影響を受けない物質になるってことか。
なるほど、私が賢者の石の素材にふさわしい訳だ。
なにせ元々この世界のものではない。
最初からこの世界の神々の恩恵など受けていないのだから。
そして、愛用のアダマンタイトのナイフをじっと見る。
曝すって何だ?
ずっと持ち続けて、愛用してるのに、このナイフはオリハルコンにはなってない。
なってないと思う。
曝す…
直接当てるということか?
私はふと浮かんだ考えを実行してみる。
すなわち、ナイフを半分くらい口の中に入れてみたのだ。
飲み込んでしまうと怖いので、しっかりと刃を噛みしめ、
ぼんやりとこれからの方針などに悩みつつ、
待つことたぶん1時間程度。
試しに恐る恐る取り出してみると、ナイフを飲み込んだ部分がガッツリと変色していた。
ナイフの下半分はこれまで通りの白銀色。
そして、ナイフの上半分は淡く鈍く金色に光っていた。
こ、こんな簡単な事だったなんて…
ね、ねえ、ミトンちゃんいる?
…何?
なんで機嫌悪いの?
あのさ、イーブ様の男の隠れ家にアダマンタイトってあった?
このナイフの他に、さ。
さっきのエルフは分かってない。
アダマンタイトは精製できる。
天然のモノに比べると、しなやかさに劣るけど、
イーブ様は人工アダマンタイトを自分で作ってた。
男の隠れ家にいっぱいあった。
剣とか鎧とか盾とか杖とか、いっぱい。
このナイフはほんのお遊び。
マジですか…
さすが大賢者ですね…
そう、イーブ様はカッコいい。
そして私は賢者の石なのに、本当に頭が悪いよね。
何も考えずにあの部屋から出たのが、この躓きの全ての始まりなんだね、本当に…
私が悪かったのかあ…
そうだよねー
改めて思い知らされたけど、全部、私のせいなんだなあ…
オリハルコンの精製方法がわかっても、素材が手に入らないんじゃ、しょうがないよね…
私はあまりに落ち込み過ぎて、座り込んでいた岩から転がり落ちてしまうのだった。
痛くないけどね。
転がり落ちて、立ち上がった私は、とりあえずナイフを全部オリハルコンにすることにした。
恐る恐る、ぬるりとナイフを全部飲み込んでみる。
意外と空間が広い。
ってか、もっと大きいモノでも入るのかもしれない。
ナイフを持ち、コネコネと慎重に掻き回してみても、壁のようなものに当たらないのだ。
口の中に入らないといけないので、細長いモノに限るかもしれないけど、長い剣でも問題なく入りそうだね、こりゃ。
なるほど、オリハルコン製造機だわ、私の身体。
どういう仕組みになっているのだろう。どうやったら調べられるかね…
今度、どこかの町に着いたら、剣を飲み込む大道芸とかやってみるかな?
なんのために?
そんな事を考えていて、5分から10分くらい経過したので、一度、試しに抜いてみた。
すでに完全に染まり切っていた。
染まっているってのも、妙な表現なのだけど、一番しっくりくる。
マジか、こんなあっさりと染まるのか、さっきなんて一時間も我慢して咥えてたのに…くそう。
カルブーンの野郎、何が3日だよ、5分じゃねえか、5分。
くそうくそう。ああでも、賢者の石の大きさにもよるって言ってたっけ?
規格外に巨大な賢者の石ってことなのかも、私って…
それにしてもどうしよう。
アマリクの図書館で調べなければならなかった最大の謎があっさりと解明されてしまった。
てか、本当にエルフの里で教育してくれれば助かったのになー
無駄な行動をせずに済んだし、そしたらタンネルブの町も無事だったろうし。もーあーあーもー
いや、教育される前にバラバラにされちゃうか?
されちゃうと思う。エルフ信じちゃダメ。
イーブ様はそう言ってた。
そうかい。
それにしても、旅の目的がなくなっちゃったねえ。
アマリク行くの、どうしようか?
どっか別の場所に行ってみよっか?
アマリクに行く。
エルフ、イーブ様が死んじゃってたこと知ってた。
アイツら性格悪い。聞かれないことは話さない。
教えてくれてもいいのに。
勇者アリアラのパーティって言ってた。
そいつら探して、責任取らせる。
だから、アリアラとかいうの探す。
お!そうだ。
そう言えば、そんな事も言ってたね。
そうだね、アイツら全部知った上で、あの対応だったんだよね。
確かにお腹真っ黒だわね、エルフって。
いや、カルブーンさんは後でお父さんに教えてもらったのかもしれないね。
あのエルフの長老の性格がエグいだけなんじゃないかと思うな、なんとなく。
エルフ信じちゃダメ。
それは確かにそうかも。
フツフツと怒りに震えているミトンちゃんは放っといて、私は地味に下山を続ける。




