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山の温泉とエルフ通信



何やら奇妙な匂いを感じる。



もう僅かな高山植物っぽい草しか生えてない延々と続く岩の坂道。

やがてガチな登山になる手前くらいの場所で私は足を止める。


くさい…

と、ミトンちゃん。


そだね、でも、なんか懐かしいような…

硫黄か!温泉の匂いだ!


テンションが爆上がる。


そうか、そうか、温泉だ、温泉か、どこだ、どこにある…


私は犬のように匂いを嗅ぎながらグルグルと歩き回り、

その結果、眼下に苦労して通り抜けたウルシャのジャングル大パノラマを望む、

白濁した温泉群を発見する。



なんて素敵!



でっかい水たまりと小さい水たまりがいくつか。湯煙が立ち上っている。


天然の大浴場であった。

着替える場所もないし、周囲はただの岩場なので、ちょいと殺風景に過ぎるが。

それにしても大浴場だ。


無意識のうちに服を脱ごうとして、ビン!と引っかかる。


あ、そか、これ脱げないんだったわ。

んーし、しょうがない。

このままドブンといくか。


なあ、賢者の石、何してる?

この臭い水たまりに入るつもりか?

意味なく服汚すの良くない。


おーミトンちゃんよ。

これは私の生まれた世界で、温泉というものだよ。

お湯にゆったりと浸かって、身体の疲れを癒すものなのだよ。


賢者の石、疲れたりしないぞ?


い、いや、精神的な、疲れをほぐすと申しますか、

ほら、私、考えてみたら、こっち来てから風呂に入ったことすらないじゃない?


必要ない。

汚れたら魔法で綺麗になる。

わざわざ臭い水に入りたいなんて、海の中に何ヶ月も入ってたのに。



うるさーい



私はお湯の温度もよく確かめずに、ドブンと飛び込んだ。


…うん、こりゃ、確かに。

ただの温かい臭い水だわ。


血流というものがない私の身体に、

温まってほっこりするとか、身体の凝りがほぐれるとか、

そういう効能が効くわけもなく。


絶景を眺めながら、ただひたすらにコポコポ煮られる温泉卵のような気分を味わうのであった。


これはなんか違う。

違い過ぎる。


ろくに湯温も確認しなかったけど、これ、5、60度はありそうだね…

ホントに温泉卵になりそうだよ…


私はガックリと肩を落としながら温泉から出て、再びトボトボと歩き始める。


ミトンちゃんが臭い臭いと文句を言う。

身体中のあちこちで洗浄の魔法陣がピコピコと反応してるような気がする。


悪かったよう。もうしないよう。

しかし温泉すら楽しくない世界か。

しんどいなあ。



最初の山脈を超えた。

更なる山塊が連なるのが見える。


とても美しい景色だ。思わず柏手を打った。

さて、下山しますかね。


よっこらよっこらと降りていたのだけど、思い切ってドーンと飛び降りた方が早いかも、と思い至る。

ミトンちゃんから、服が傷むからやめろ、とキツめのお叱りをいただいてしまったので、よっこら降りる。

急ぐ旅でもないし。


ずっと下を向きながら降りていたので、ネックレスの変化にすぐ気がついた。


エルフの里でカルブーンさんにもらった秘術の籠められたネックレスだ。

呪いの首輪ともいう。

すっかり存在を忘れていたが、淡く光っている。


何だ?


確か…コレ、翼竜のクレーム専用だよね?

翼竜のやつ、何かしでかしたか?


通信が始まった。すごい。


破滅の獣人か?


いや、せめてイーブ様の下僕のミトンって呼んでくださいますかね?

カルブーン様ですよね。


生きているのだな?


はあ。

何ですか?翼竜に何かありましたか?


ふう。まさか本当に生き残っているとは。どうして生きてる?



いや、言い方。


どうしてって言われましても、まあ、いろいろありましたからねえ。


そうだな、いろいろあったようだな。


…私の行動を監視でもしてました?


しないはずがなかろう。


そんなもんですかね。


お前には聞きたいことが幾つかある。

しかし私たちが聞きたいことのみを聞き出すという訳にもいかないだろう。

対価として、お前の知りたいことを幾つか教えよう。

この通信だと、声しか聞こえんからな。


…それは、対面であれば情報は一方的に取り放題なのに、無念だ、って意味ですかね?


そうだ。

残念であるし、危険もあるが、重要度を比較すると、やむを得ない判断と言えるだろう。



…いや、天然に無礼だわ、エルフって。

もー何なの?こいつ。そうだ、じゃねーよ。ムキー!

戻って、聖なる森を荒らしたい衝動に駆られるわ。


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