ウルシャの森を抜けてピラリヤ山脈へ
初心に戻って、地道に地上を歩くことにした。
やっと歩くリズムが掴めた頃、ふと思い出した。
ねえねえ、ミトンちゃん。
海の中でさぁ、私、毒を撒いてたらしいけどさ、自覚ないんだけど、なんで毒が出たんだろう?
わかる?
…賢者の石が悪いこと考えたから…
全身から毒が出た…
悪いこと?
何だっけ?
!!!
おお?
私そんなにびっくりするような事言った?
賢者の石、世界を滅ぼすって言ってた。
何百年かかっても全ての生き物殺すって言ってた。
そしたら全身から物凄い毒がブワッと湧いて出た。
ミトンすごく怖かったのに…
なんで覚えてないの!
んはー!
そ、そうだったの?
てか、そうね、そんなこと考えてたわね、うん。すっかり忘れてたわ。
だって、ジャングルに着いてから、しばらくの間それどころじゃなかったでしょ?
そっか!全ての生き物をぶっ殺すんだった。
すっかり忘れてたわー
信じられない…
てか、こんなジャングルの木を全部伐り倒すとか面倒くさくない?
いや、想像するだけで、面倒くさくて死にそうだわ。
…
そっかー賢者の石って深く絶望しきっちゃうと、毒を吐くのかー
こわーい。
オリハルコンの製法とかより、賢者の石の性質を知る方が先かもしんないわねー
…
あ、あら?
ミトンちゃん?
ミトンちゃんは深く深く拗ねてしまい、しばらくは口をきいてくれなくなるのだった。
森の木が少しずつ低くなり、やがて、茂みと平原がメインというような地形に至った。
標高が上がったためだと思える。
平原というより高原という表現が正確だろう。
眼前に巨大な山塊が見えてくる。
とても広いけど、ぐるっと山に囲まれてるから、盆地というべきなのかもしれないな…区別ってどこだ。
空気が澄んでいる。夜を通して歩き続け、迎える朝日が神々しい。
柏手を打つ。
真っ暗な海の底を移動する不安に比べて、陸上移動の何と楽で美しいことか。
魔物に喰われるのでさえ、娯楽に思えてしまうほどだ。
生暖かい巨大な狼の腹を切り裂いて脱出しながら、私はそう思うことにした。
平原を歩いていると、集団で狩られることが多い。
狼っぽい連中に囲まれたりした時に、念話を飛ばしてみるのだけど、反応が返ってきたことはない。
私の念話がダメなのか、相手のレベルが低いのか。
森の猿たちと似ていて、集団が殲滅するまで立ち向かってくることが多い。
私はこの世界に馴染んできている。
闘志を持つモノとは相手が死ぬまで戦うべきなのだ、と知った。
中途半端な情けは良くない。また準備を整えて、再び襲ってくるだけだ。
敗者は空に還るべきなのだ。
地図によると、この辺りに狼っぽい何かがいるはずなのだけど、
それらしいモノに遭遇しないまま、山の麓に辿りついた。
ひょっとして、さっきの大きい狼?
いや、そんなことないだろうな。
アレはせいぜい雑魚の王ってとこでしょう。
地図に描かれるなら、せめてコロさんよりグレートな存在であるはず。
わざわざ地域ボスを探そうとも思わないので、そのまま山越えに挑む。
そういや、レイコロちゃんズは元気にしているのかな。
挑むといっても、海底山脈を歩いていた時と大して変わりはない。
海底生活、たぶん3ヶ月くらい。
私はもうベテランクライマーと自称できるレベルにあると思う。
いざ!
いやあ、落ちること落ちること。
落ちたところで、大したことないくらいに思ってるせいもあるが、岩が脆い。
海中と違って、反応が少しでも遅れると、あっという間に滑落してしまう。
やがて手や足をドリルっぼく使って、岩にガツガツ穴を穿ち、
そこを拠点に登るというロッククライミングから少し遠いような近いようなテクニックを身につけてから、
スイスイと進めるようになった。
そこらの岩より私の身体のほうが、はるかに硬い。
フフン、わたしってすごーい!
と自慢気に山登りしていたのだけれど、
そもそも魔法のある異世界に転生しておいて、一体、何をしているのか?という気分になり、
とても虚しくなった。
瞬間移動とか、飛行艇とか、空中歩行とか、ねえ。
こんな、ただひたすら歩いてる物語なんて読んだことないよ、ホント。ねえ。
イーブ様の隠し部屋をよく確かめずに、簡単に捨てた罰が当たっているということなのだろうな。
その通り!
うわ、びっくりした。
相変わらずイーブ様のネタには食いつきが良いなあ、ミトンちゃん。




