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海の山の頂上



不意に鈴の音が聞こえた気がした。


私は我に帰って、岩を砕いていた手を止める。


幻聴?



いや、聞こえるぞ。


と、ミトンちゃん。だよね?


近づいてくる。



くぐもって聞こえるが、確かに鈴の音。

なんかこう、サンタっぽいシャンシャンした鈴の音が、彼方から聞こえてくる。

音のやって来る方に目を凝らしてみる。


赤や緑のネオンっぽい何かが光っているのが見えた。

いや、サンタ?マジサンタ?


そのサンタっぽい何かはすごいスピードで私のいるところへ一直線に向かってくる。

私は少しオロオロして、身を隠す場所を探すが、あろうはずがない。

海底山の頂上だ。


転がり落ちて逃げるという選択肢もあったが、何かが来るのを待つことにした。

今より状況が悪くなるとは思えない。


すごい勢いでやってきたその何かは、サンタではなく、巨大なイカだった。イカかよ。


透明な身体を赤と緑にギラギラ点滅させている。

鈴に聞こえた音は、近づくとズゴーズゴーという呼吸音なのか、水を排出している音なのか、

よくわからないけど、とても可愛くない音になった。


そのまま通過していく。



ん?行っちゃうの?!


と思ったら、急ブレーキをかけて、グググと曲がり、ふよふよとこっちに来た。

小回りが効かないタイプなようだ。



毒を撒いているのは貴様だなー!!


巨大なイカは私の前にピカピカ光ながら仁王立ち?すると、辺りが震えるような巨大な念話を放った。


えと?ど、毒?

何言ってんだ、このイカ。


イカの胴体から、カッコいいおっさんがニョキっと生えてくる。


うわ、キモ!!


生えてきたおっさんが適量なヴォリュームの念話で語りかけてくる。


貴様のことはザグリンから通知があった!

海の深いところに転がり落ちていったし、特に害もないようだったから、放っておいたらこのざまだ!


貴様、何をたくらんでおる!

海を殺す気かあ!!



いや、落ち着きなさいよ、誰だか知らないけど。

私だっていい加減イライラしてるんだからね。

殺せるもんなら殺してみればいいじゃない。


私が海の深いところに落ちて困ってるのを知ってて、

助けてくれないような人と話すことなんてないと思うんだけどね。



な、なんだとー

貴様、我を何だと思っておるか!

リョウモン様の第7の使徒。

ナダール海の支配者にして深海の王ケトーンとは我のことであるぞ!



深海の王なら、もっと早く私のこと助けられたでしょうよ!

私がここ何ヶ月か、どんな思いで海の底をズルズル彷徨い歩いてたと思ってんのよ!


貴様の思いなど知るかー

とにかく毒を流すのを今すぐ止めろー

リョウモン様が、なんか気持ち悪いと仰せられておるのだぞー!



知らないわよ!

何だよ、なんか気持ち悪いって!

連れて来いや!そいつ、ここに。ムカつくなあ。



巨大イカのケトーンが少しキョトンとした。



お前、自分が何言ってるか、わかってるのか?

リョウモン様をここに連れて来い?正気か?

当たり前だが、リョウモン様にも我らの会話が届いておるんだぞ?


だから知らないって言ってんでしょ!

私はもうイライラが限界だって言ってるでしょ!

用がないんなら、とっととどっかに行きなさいよ!


毒なんか流してねーわー

私のこと助けてくれる気がないヤツとなんか話しする気になんないのよ!



きっ、貴様!

見ろ!あの魚の群れを!

何も知らずにこっちに突っ込んで来てるだろ。



あら、本当だ。

小魚の大きな群れが、大型の魚の群れに追われて、こちらに来ている。


が、途中でバタバタと暴れて、プカーンという浮いていく。

追って来ていた大きい魚も同様に、上にスーッと浮き上がっていってしまう。


あらら…あら?

あれ、私のせいなの?


そうだと思う、とポソっとミトンちゃんが呟く。



そっか、私のせいか。

そりゃ悪かった。

ケトーンさん、ごめん。

私のせいで魚が死んでるっぽいけど、なんでそんな事になってるのか、私もわかんないんだけど?


そんな言い訳が通るかあ!馬鹿者ぉ!


んな事言われましてもねえ。

てか、魚が死のうが私の知ったこっちゃないしね、そもそも。



ハッ!かしこまりましたあ!



わ、びっくりした。


なんかイカのケトーンが電気ショックでも受けたかのように、ピンと直立する。

なんだこいつ大丈夫か?



リョウモン様からご命令が下った。

お前は海から追放だ。二度と来るな。

ザグリンには正式に苦情を入れておく。


だが、諍いを起こすほどの事ではない。

陸の面倒を海に投げるのはやめろとケルマンにも伝えよ。

とのことだ。


ねぇ、リョウモン様って何なの?海なの?



イカのおじさんケトーンの顔から表情が抜け落ちた。



う。

ちょっと常識外れな質問をしてしまったのかもしれない。

しかも初対面の偉そうなイカに。

不味かったかな…



おじさんはニョニョニョとイカの胴体に消えていく。


もはや会話は無用。

来るがよい。

と、巨大な念話が辺りに響いた。


お、バ、バトルか?負けねーぞー


シュルっとイカの脚が私を捕まえる。


うや!


大人しくしておれ。


と言うと、ケトーンはズゴーズゴーと音をさせながら、凄まじい速度で泳ぎ始めた。

水圧がすごい。視界の水が歪んで、何も見えない。



ジェット気流のような水圧に耐えつつ、運ばれること10分程度。

その間、私は丁寧にケトーンに念話で話しかけてみたけど、返事は一切なかった。

私の念話による話しかけ方がダメなのか、イカが返事をする気がないのか、よくわからない。


ミトンちゃんに意見を尋ねてみたが、ミトンちゃんからも返答なし。


さっき、ポソと忠告してくれた時も、すごくビビってるみたいだったから、イカが怖いのかもしれない。


あーもーヒマだなーと思い始めた頃に、ケトーンが下に潜った。

え?下?

と思ったら、急浮上していく。


勢いをつけているのだろうか。



ドーンと水面から飛び出した。


おー



潜水艦から発射されるミサイル、何だっけ?あれ、4文字でICBMじゃない方…

あんな感じでイカは巨大な身体で、ズビューと空中に打ち上がっていく。


夕方であるようだ。

茜色と紫が混ざって、空は美しく、明るい星が見え始めている。


綺麗だなーすごい高ーい。

お空見るの何ヶ月ぶりだろ。

などと考えていたら、頂点に達した。


イカはグルリと向きを変え、二度と海に来るな!と警告しながら、私を発射した。



いや、ちょっと!雑すぎない?!


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