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タンネルブ2


いろいろ準備をして、いざ行列に並ぶ。

しばらくぼんやりと並んでいたら、当たり前に割り込まれた。


知り合いかもしれない、

そんなことある訳ないけど、念のため見上げると、

戦士風に装備を固めた若者に、思いっきり獣人をバカにした目で、

なんか文句あるのか、と言われた。


もう特に文句を言う気もなかったので、無言で顔を伏せたら、

後ろの地味な商人風のおじさんに、おい、知り合いか?と聞かれた。


いいえ、違います。


おじさんは割り込んで来た若者を、無言のまま、流れるような動作でボコボコに殴り倒して、

列の外に放り出した。


あ、ありがとうございます。


てか、そこまでしなくても…ねえ。


どっかの田舎から来た世間知らずだろう。

弱いくせに決まりを守らないとどうなるのか、教えてやるのが、大人としてのマナーだ。

そうは思わんか?


そう言われるとそんなもんですかね。


弱い者こそルールに守られているということをキチンと学んでおかねばな。

この程度で済んで良かったってもんだ。

ルールを破りたいなら、それに相応しい程度は強くあらねばならん。


はーカッコいいですねー


…お前もずいぶんとのんびりしたところから来たようだな。

お使いだろうが、騙されたりせんようにな、と言ってもな…

買い物は初めてか?


はい。


帰ったら、きっと主人に叱られるだろうが、

主人もお前が騙されたり、盗まれたりする事がわかっていて、

使いに出していると思うぞ。

経験というものだ。

失敗してもあまりクヨクヨするなよ。

同じ失敗を繰り返さない事が大事なのだ。


ほーなるほど。

ご忠告ありがとうございます。


まあ、それ以前に生きて帰れるかどうかだな…


気をつけます…




私は獣人なので、このように親切にしていただいたことなどございませんでした、

というようなお礼を言ってみたら、

お前に親切にした訳じゃない。

割り込まれたのは、お前の後ろに並んでいたワシも同じことだ、と非常に素気ない返事をされた。


何となくシュンとしていると、

何を買いに来たのだ?と聞いてくれる。


塩と胡椒と、お金が余れば、果物の砂糖漬けを言われております。


ククッとおじさんは笑う。


良い主人のようだ。

本当に最初のお使いだな。

ワシも小僧の頃は、そんなもんだったよ。


何としても、お金を余らせることだな。

果物の砂糖漬けは、お前へのご褒美となるのだろう。

腕の見せどころだぞ。


はーなるほど。


世話好きっぽいおじさんはただ待っているのもヒマだから、などと言い訳をしつつ、

あれこれと話をしてくれる。

近寄ってはいけない地区。

通りを一本隔てるだけで、危険度が一気に跳ね上がること。

美味しそうな店の周りにはワナが多いこと。

店に注意を引かれ、無防備な客を狙って悪事を働くのは簡単なので、

安全を確認しながら慎重に近づくように。


塩と胡椒の相場。

信用できる商人の特徴、騙そうとしてくる商人の手口。

スリに遭わないための心構え、強盗に目をつけられないための心得。


異世界の歩き方というより、

治安の悪い国の繁華街の歩き方を

おじさんにみっちりと叩き込まれた。


あ、そういえば、タンネルブに図書館はありますか?


そんなもんある訳ないだろ。


あ、やっぱり。


何で図書館なんぞに興味があるんだ?


いえ、ちょっと文字をご主人様に教わりまして…

本が山のようにある場所と聞きました。


そりゃあ…本当にいい主人だな。

心してお仕えすることだ。

次があるなどとは思わないようにな。


図書館とはどこにあるモノなのでしょう?


ふむ。

この辺りだと、すぐに思いつくのは、エルフの里、カンチネラ。

ただ、エルフの里は近くても決してたどり着けん。

エルフに招待でもされん限りな、ハハハ。


ははは、そうでしたか。


距離は遠いが、確実なのはフンバルト王の都、アマリクの図書館だろうな。

アマリクは自由の都だ。

フンバルト王の機嫌を損ねるようなことをしない限り、何をするのも自由だ。

その分、いつも混乱している。

めちゃくちゃな町だよ。

お前の主人次第だが、いつかお前でも入館できることがあるかもしれないな。


あと、ヌブチャク族の都、ケハン。

武の都として名高いが、魔物の資料や戦術、魔道具、武具の錬成に関する資料を集めた巨大な図書館がある。

武の都は職人の都でもある。

技能を極めるなら、先人の技術を学ぶため、一度は行くことになるはずだ。


言語や美術に関する本ならローエン王の天空城、パルンだな。

もっとも、飛竜を使役し、収納魔法を駆使できるような特権階級の者しか行けんがな、カハハ。

我々のような入城待ちの商人には縁のない町よ。


ほー


この世界に来て、初めてまともな人間との世間話を堪能していると、入城チェックの番が回ってくる。

銀貨を渡し、お釣りを受け取る。

見るからに意地が悪そうな門番が入城料のお釣りをすんなりと渡してくれたのも、

おじさんと親しげにお話してたからに違いないだろう。


もう少し一緒に居たかったけど、

おじさんは門をくぐると、じゃあ、しっかりな、と言い放つと、

スタスタと去って行った。



さ、さみしい…

ああ!

せめて名前聞けばよかった。

しょんぼりだ。



商人を簡単に信用しちゃダメ。


そお?良い人だったよ…


商人は利益が価値判断の基準だから、

簡単に信じたら、簡単に裏切られる。

商人は裏切ったつもりなんかなくても、信じたら裏切られた気分になる。

だから、信用したらダメ。


むー?

それはしょうがなくない?

価値観の違いってやつでしょ?


貴族も信じちゃダメ。

自分の領土のためだったら、平気で裏切る。

あと、領民のためだ、って言いながら、本当は自分がやりたいようにやる。


むーん


騎士は信じてもいい人が多いけど、

感情的でわがままで、どんな理由で機嫌を損ねるか、わからないから、

できれば近づかない方がいい。


んー


高潔なのは、知恵をお金に換えられる知識人だけ。

知恵をお金にできない人はダメ。

お金を余らせてる有能なる知識人だけが真に信用に足る。


んん?


って、イーブ様が言ってた。


ズッコケそうになった。

イーブ様って…ホント…


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