イーブ様の男の隠れ家1
再び目が覚めた。
知らない天井だ…
起き上がろうとして、なんだか、すごい違和感を感じる。関節がうまく動かないような…
手を見る。
ちっちゃくて毛が生えてる。
いや、毛が生えてるっていうか、毛皮?茶トラ?ネコ?
5本の短い指があって、手のひらというか、肉球がついてる。肉球?
異世界?獣人?転生?
そんな言葉がグルグル脳裏を巡る。
オリハルコン製造機…大賢者イーブ…聖遺物…
私は誰だ?何をしていた?ここはなんだ?
他の事を思い出そうとしたら、ビシッと頭に痛みが走った。
禁則事項?
どのくらいそこでぼうっとしてたのかわからないけど、えいやっと立ち上がった。
石の床。
顔を上げて目に入るのは、壁一面の書物。机、その上にある得体の知れない実験器具。
歩こうとしたら、ポテリとコケた。
痛みがない。全くない。もう一度立ち上がる。
膝が上手く曲がってないようだ。
ロボットみたいな感じで、ゆっくりと歩いてみる。
イケるか?と、思ったらまたコケる。
天井は高く、どこまでも本だ。
上の方に置いてある本なんて、取れないでしょ、これ。
浮いて取りに行くし、本はほっとけば勝手に戻る。
誰かが頭に直接ささやくような言葉が聞こえた。
なるほど。って、誰?
どこなの?ここ。なんなの?と思った瞬間に答えも浮かんだ。
大賢者イーブの隠れ家。
なるほどなるほど。
てか、ホント誰?
返答なし…
なんだ?この機能?
歩ける範囲で冒険してみるか…
本棚、本棚、机とその上のデカイ実験器具っぽいもの、本棚、鏡…お、鏡がある!
肘が折れ曲がったままで、膝がよく曲がらないまま、ロボのようにガチャンガチャン歩いて、
鏡に向かった。正確に言うと、鏡じゃなかった。磨き上げた水晶って感じ。へー
やっぱり獣人だね、私…
そうでしょうとも。
多少、表面が凸凹して、反射がいまいち良くないけど、姿は見える。
私はネコの獣人。
トラっぽい色だったけど、やっぱりネコだな、これは。
ヒトとネコのミックスって感じでもない。
ネコが立ち上がって話してる系の獣人だ。
着てる服は黒いワンピースっぽいもの。
裾に赤い飾り刺繍が施されている。
なんとなく感じてたけど、たぶん身長は低い。すごく低い。
1メートル20センチちょっと、くらいかな?
机とか椅子から、この世界の人間ってイーブの身長を推測すると、
そんな感じと思う。
もっともイーブ様が身長5メートルくらいの巨人なら、私の身長も3メートル超えかもしれない。
わからない。
比較対象がないって不安だ。
大きいネコが立ち上がった感じ、いや、バランスが違うね。
10歳くらいの子供に見える。私は成獣なのだろうか?
見渡す限り誰もいなかったので、私は服を脱いでみようかと、思った。
か、確認してみたいじゃない?
何がどうなってるか、くらい。
誰に言い訳をしてるのか。
とりあえず腕を抜こうとしたが、脱げない…
袖がどこかに縫い付けられてるのか?
しょうがない。とワンピースの裾を掴んで、えいやと持ち上げようとしても途中でピシと止まる。
うむ?本気で脱げないぞ?
なんか白い下着、は穿いてる。
が、それ以上は上に持ち上がらない。何?この白いパンツへのこだわり…
何これ?
オートマタだから、服は毛皮に縫い込まれてある。
汚れたら自動で洗浄される魔法陣が縫い組んである。
おーなるほど、オートマタだから、って…
だから、誰?
イーブ様の身の回りをお世話するオートマタ。
中にあったパーツはもうない。
全部、賢者の石になった。
イーブ様ももういない。
おお…
私の中のオートマタの記憶が、霊的なものになって喋っていたようだ…
どういう仕組みなのか?
それにしても
そうか、イーブ様がいないことを知ってるのか・・・そうか。
イーブ様の、男の隠れ家、を維持するのが、オートマタの役目。
ブ。
男の隠れ家…あーそーですか…
賢者の石は何しに来た?
知らないよ…そんなこと…ホントに・・・説明が足りなさすぎるよ、
あの恐ろしい神様・・・てか、ホントに神様だったのかね?アレ。
中身が賢者の石ねえ、と鏡の前で口を開けてみて、びっくりした。
キバがあって、舌があって・・・
その喉の奥が青白く透明に光っている。
すごく神秘的だ。
ちょっとダイアモンドっぽい。あんまりダイアモンドって間近に見たことないけどな。
ふあ~
こ、これはいけない。
一目で生き物でないとわかる気がする。
人前で大きく口を開けるの禁止じゃない?これ?
悪い人に見つかったら、バラバラにされちゃうよね、きっと…
マスクしなきゃって、
マスクなんて無いよね、たぶん。
バンダナ?で口を覆うか?
てか、出口はどこ?
出口はない。
ん?
男の隠れ家だから、隠されてる。
転移陣ならある。
なるほど。
オートマタがお買い物行く時は、マント着て、転移陣で飛ぶ。
帰りはイーブ様を呼ぶ。そしたら呼び戻してくれる。
はー
んじゃ、ま、とりあえず散歩にでも行きますか?
何事も一見にしかずだからねー
イーブ様いないから、帰って来られない。
帰って来られないから、お外行けない。
オートマタは男の隠れ家を維持するのが仕事。
・・・はーあ?!




