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草原2



段々と風景が寂れてくる。

生き物の姿はなく、木が疎らになり、やがて草原も絶える。

代わりに岩陰に何やらが、こちらを伺いつつ移動している。

大丈夫なのか?

龍と一緒だから、平気か?


やがて、洞窟にたどり着いた。

洞窟は最初から洞窟であったわけでなく、

魔石の鉱脈を龍が食い進んで、穴になったものらしい。

私は金の鉱脈みたいなものかと、理解した。

龍は岩を食うと言っていたが、どの岩でも良いわけではないらしい。

魔力を含んだ岩というものがあって、それは決まった場所にしかなく、

龍の洞窟は豊富な魔力を含んだ良い魔石を食えるらしい。



洞窟に入ると、さっきから周りでウロチョロしていた連中の正体が判明した。

トカゲっぽい。

龍の周りで一定の距離を保ちつつ、慕わしげな顔で龍を見上げている。




ねえ、地龍さまぁ、こいつら何?ほっといて問題ないの?



こやつらは龍の子だ。ほっといて問題ない。



龍の子!



ワシのおこぼれを狙っておるのだ、可愛いやつらよ。



おこぼれ…って?




やがて洞窟の突き当たりにたどり着いた。

魔力を含んだ岩というものを初めて見た瞬間だ。



岩はジーンズみたいなインディゴブルーで、その中にユラユラと光が揺れていた。

これはわかりやすい。

水龍の魔石と比べると、魔成分を薄く岩の中に含ませている感じだ。



その岩に地竜は細い腕?前足?をグイと突き立て、砕く。

なんかドリルっぽい。

大きな塊を取り出すと、バリゴリと噛み砕いていく。

ぼろぼろと食べカスというか、食べ岩が落ちるけど、全然気にしてない。



掘削、食事、時々頭突き、というよくわからないけど、

圧倒的な地竜の食事風景をボォッと眺めた。

いつ終わるのかね?これ、と、時折、我に返りながら。



最初こそいかにもファンタジーな風景に夢中になったが、飽きた。

体育座りで、地竜の食事を眺めていると、

私はいつの間にか、魔石に身体半分くらい埋まっていて、

気づいたら、周りがトカゲだらけだった。



わお!ってパニくりかけたけど、皆んな大人しく、魔石をバリゴリ食っていた。

いや、大人しくないな、あちこちで血塗れのケンカしてるな。まあ、いいや。



なるほど、これがおこぼれか。



観察していると、トカゲと一言で言っても、身体が長いのや、羽根が生えてるのとか、

色々な種類がいることに気づく。



早く、地竜のおじさん、食事終わんないかな、てか、あの龍の名前って聞いてないな。







名前とは何か?



そう言われると、何でしょう?

同族内で個体を識別するために使うもの…とでも言えばいいんでしょうか?



ふむ。

草原を旅するヒト族どもに、草原の王と呼ばれるのは知っているが、

同族内の個体識別?なんのために?



その…親子や兄弟とか…友達とか?



お前は不思議なことをいうな。

草原の旅人どもとは、本当に異なるのだな。



うう…

なんだか自分に自信がなくなってくる…



龍に親も子もない。



いや、その子供がこの辺にいっぱい居るじゃないですか!



龍は自力で動けるようになったら、龍よ。

違いは強いか弱いか。

大きいか小さいか、それだけよ。



うーむ、よくわからんけど、ワイルド。



草原の王の子供とか居ないの?



子供とは、ワシがタネをつけた龍という意味か?



…ま、そういうことですねえ。



それなら何万かわからんが、居るだろうな。



万?何万?

どうやったら、そんな数のメスと番えるんですか!?




番う?


ああ、ヒト族のやり方のことか?


龍の一族はな、番ったりはせんのだ。


魔の夜、そう、月が重なる何年かに一度の夜にな、ワシの魔力が欲しい龍たちが集まってくる。



ほうほう。



魔の夜には赤い月が白い月に覆われる赤い魔の夜、

逆に白い月が赤い月を隠して見えなくする白い魔の夜がある。



赤い月が白い月の前に出る赤い夜には、強いメスの龍の元に何百のオス龍が集まり、

メス龍から放出される強い魔を浴びるため、良い場所を得ようと争う。



私はなんとなく御神体を争う裸のごっついおじさん達の祭りをイメージする。



逆に白い夜には、強いオス龍の元にメス龍が集まる。

己のタマゴや腹の中の仔に強い魔力を当てるためだ。

白い夜にはあまり争いは起きない。

魔力の当たる範囲内に居れば良いだけだからな。



私は御神体の元にズラリと並び、お祈りをする清らかなメス龍をイメージする。

なんか異世界過ぎる。



力のあるメス龍は何旬かの白い月をタマゴに注ぐ。

何種類もの強力な魔力を得たタマゴは強い龍の子になる。

しかし強すぎる魔力を浴びると育たなかったり、

タマゴが待ち飽きて、勝手に生まれてしまったりするからのぅ。

加減が必要じゃ。その加減を知る龍こそが強いメス龍とも言える。



異世界教育ママ龍か…



飛べない弱い龍は、生まれた場所で、似たような龍とお互いに魔力を与えあって、

共に仔を育てたりもする。しかしそれで産まれるのは、やはり飛べない弱い龍だ。

たまにワシのように長生きする者もあるがの…


ワシの魔力を浴びた仔はワシの仔と言える。

ワシの周りに居るこの龍の仔たちの中にも、ワシの仔は幾らか居るだろうな。



えっ?

この龍の仔たちの母親はどこに?



そりゃ自分の縄張りに戻っておろう?

タマゴから孵ったのだから、育ちそうな所に置いておくよりほかになかろう?



産み捨てってことですか?



龍は呆れた顔で私を見る。

説明を諦めたようだ。



あの…ちなみにこの洞窟を狙って、別の龍が来るとしますよね?



うむ、たまに来るぞ。



どうします?



そりゃ闘って勝って食うに決まっとる。

負けたら、食われておしまいだ。



仮に自分の仔が、この洞窟を狙ってきたとしたら?



仮にも何も、ワシに挑める程の龍はワシの魔力を浴びとるに決まっておる。

ここを狙うのは地龍であるしな。



どうしてます?



闘って勝って、食らう。



なるほど…

自分の子孫であるかもしれない龍も平気で食らうと…

これは常識が違う。

種の保存とかって概念はどうなっているのか。


魔力かな?

この違和感の正体は?

魔力がDNA的に子供に継承されていくということなのだろうか?


ん?あれ?



ねえ、地龍様?



うん?



魔力って使いますよね?

戦闘の時とか。

魔石から魔力を取り出して、魔術に使ったりもしますよね?



それは使うであろう。

魔力の行使は戦闘の基本であり、要である。



その使った魔力ってどうなるんですか?



呆れた顔で、龍は子供に言い聞かせるように答える。


使った魔力は空に還るに決まっておろう。



え?

でも、そしたら、そのうち魔力って使い尽くされて、枯れて、なくなっちゃいません?



今度こそ地龍は頭を抱えてしまった…



何のために神はあるのだ?

魔力を大地に戻すためであろう?

もちろん、他にも神々が為しておることは多いだろうが、

神が、まず為しておることは、龍脈に魔力を還元することに決まっておろう。

大丈夫か?お主?



き、決まっておろう、って言われたって、知らないものは、しょうがないでしょう!



そう答えると、龍は本当に不思議なモノを見る目で私を眺めた。



魔力を持つ者は、神の行いを、魔力の大いなる流れを感じるのだ。

知るのではない。

驚いた。

これが石ということか。

ここまで生きてきて、まだ驚かされることがあろうとは思わなかったぞ。

石よ…なぜお前は動いているのか?


か、神の御心により、です…



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