中世欧州詩『アンナ・コムネナ讃歌』
世界の神話伝説や歴史を題材にした詩、第13弾。12世紀のビザンツ帝国(東ローマ帝国)皇女にして中世ヨーロッパ唯一の女性歴史家となったアンナ・コムネナを讃えます。自分が尊敬する作家にして古代ギリシャの竪琴リュラ―演奏家、佐藤二葉先生の漫画『アンナ・コムネナ』にインスピレーションを受け、制作しました。この作品を、アンナ様と二葉先生、ビザンツ帝国の歴史を愛するすべての方々に捧げます。
アンナ・コムネナ、緋色の生まれ。
11世紀の末に即位したる ビザンツ皇帝アレクシオスと
皇后エイレーネ―の愛娘。
才気渙発、ギリシアの古典大いに好み、
ホメロスの詩、サッフォーの歌、プラトン、アリストテレスの哲学愛す。
音楽、算術、天文学、幾何学までも修めしうえに、
自らの手で筆を執り、物語記す稀代の才女。
反面、その性気丈にして負けず嫌い、弟ヨハネスとは犬猿の仲。
それぞれ緋色と紫の 美々しく艶やかなる絹をもて
仕立てし衣をまとう姉弟、
幼い頃より顔合わせれば、皮肉の応酬絶え間なく、
どちらも胸をば反らし腕を組み、あるいは腰に手を当てて、
「「我こそ次の皇帝なり!」」
と、両者一歩も譲らぬ間柄。
一方、夫ニケフォロスは武人なれども学問好み、性穏やかなる好青年。
されど戦場にては冷静、果敢。
遠矢射る神アポロンのごとく、きりりと弓弦を引き絞り、敵を射倒す勇者なり。
政略結婚にも関わらず 二人の仲は睦まじく、
双方見合いて頬 薔薇色に染め、手を取り合いて愛をば育む。
最愛の父アレクシオスの死後、
弟ヨハネス、後を継ぎ、新たなビザンツ皇帝となりにける。
アンナ・コムネナ、これを認めず、
母エイレーネ―と手を結び、弟追い落とさんと謀りたり。
されど企て 上手くはゆかず、
アンナ・コムネナ、捕らえられ、修道院に入れられぬ。
されど尼僧の身となりて、見出したるは第二の人生。
歴史の語り部、書き手、歴史家として生きる道。
早逝したる最愛の 夫ニケフォロスが遺したる 未完の歴史書、その執筆を
妻たるアンナ・コムネナ、引き継ぎて、苦心惨憺の末、書き上げたり。
名づけて曰く『アレクシオス1世伝』と。
アンナ・コムネナ、ビザンツの皇女。
十字軍の遠征始まりし、激動の時代を生きた人。
父を慕い、夫を愛し、弟と争い敗れし後も、
毅然と前向き、世界を見つめ、
ビザンツ帝国と十字軍、その歴史を記し、伝えたり。
自身の死より悠久の 時が流れし今の世まで。
アンナ・コムネナ、緋色の生まれ。
中世欧州唯一の、女性歴史家となりし人。
アンナ・コムネナ、ビザンツの皇女。
中世欧州唯一の、女性歴史家となりし人。