王太子からの招待
王太子ウィリアムは父王から届けられたリリアンヌ・ローディア伯爵令嬢の姿絵を見てうなずく。
「確かに、神々の血を引くと言われれば納得の綺麗な子だな。」
プラチナブロンドの長い髪はまっすぐで腰のあたりまで垂らされている。
瞳の色は若葉を思わせる優しい緑色。
微笑みを浮かべた唇はピンク色で、その微笑みはほんのちょっとお転婆っぽい印象が浮かんでいた。
美しい令嬢に囲まれて育ったため、美人だからといってもちょっとやそっとでは心を動かされることは無いけれど、その姿絵には好感を感じた。
「顔は覚えた。よし。…ジョン。」
「はい。お呼びでございましょうか?」
「こちらの手紙をローディア伯爵に届けてもらいたい。そしてその場で返事をいただいてきてくれ。」
「かしこまりました。」
従僕が手紙を受け取り、静かに出ていった。
私、リリアンヌは宮殿での初めてのお茶会では緊張の連続だったので、夕方、帰宅したときは疲労困憊、自室に帰ると部屋着に着替えさせてもらうが早いか、入浴も夕食も取らずにベッドに倒れこんで眠ってしまった。
お陰で夜、屋敷が大騒ぎになっていたことを知る由もなく。
翌朝、侍女のラミィに起こされ、早く着替えて伯爵の書斎に行くようにと言われるまで何も知らなかった。
「お父様が呼んでる?こんな早朝からどうしたの?」
「昨夜、王太子殿下から伯爵様に手紙が来ました。手紙の内容までわたしどもは知らされていませんが、リリアンヌ様に関係しているらしいです。伯爵様が、『リリアンヌと!?』と一度大声を上げられましたから。きっとその手紙について何か話があるのでしょう。」
「王太子殿下?…なぜ?」
「昨日のお茶会でお会いされたのではございませんか?」
「ううん。会ってないわ。昨日は令嬢達しか集まっていないもの。…それより、お腹空いてるんだけど。朝食食べてからじゃダメなのかしら?」
「朝食前に、と伯爵様のご命令です。」
ラミィが急いで着替えさせてくれたので、首をかしげながらも父の部屋に向かう。
「お父様、リリアンヌです。」
「入りなさい。」
父の書斎の扉をノックすれば、待ち構えていたのだろう。入室の許可と同時に扉が開かれ、父に引っ張り込まれた。
「リリアンヌ。昨日、王太子殿下と何かあったのか?」
「え?いいえ。令嬢達としか会っていませんわ。」
「で、ではなぜ、王太子殿下から、お前と今日、王宮でお茶会をしたいと招待があったのだ?」
「え?えええ!王太子殿下からお茶会の招待?」
「そうだ。その場で返事を、と言われたが、王太子殿下からの招待を伯爵ごときが断れるわけがない。やむなく承知した。」
「ええええ!」
「本当に心当たりがないのか?知らずに王太子殿下に何か無礼を働いたりは?」
「王太子殿下のお顔を存じ上げませんが、昨日、令嬢達以外と話をした人は宮殿の従僕の一人だけですわ。その方は王太子殿下ではないはずです。」
「なぜそう言い切れる?」
「王太子殿下の髪の色は黄金を溶かしたようなゴールドブロンドと聞いています。でもその従僕の髪の色は茶色でした。」
「なるほど。確かに王太子殿下ではないな。…では、なぜ!?」
「わたくしだって知りません!」
「と、ともかく。今日の午後、王太子殿下が開くお茶会に行ってきなさい。王家から迎えの馬車を寄こすそうだ。」
「えええええ!行かないとだめ?」
「王太子殿下に逆らえるわけがないだろう!」
「ううう…。わかりましたわ、お父様。」
その時、おなかの虫が盛大に鳴いた。
「そういえば昨日は夕食を食べていなかったな。すぐに食堂で朝食を食べなさい。その後は王宮に伺候するにふさわしく準備をしなさい。」
朝食後、王太子に招待されたお茶会への参加と聞いて驚いたお母様が自分の侍女にも手伝わせて、私は磨き立てられ、なんとか王宮からの迎えの馬車が来るまでには支度を終えた。
なぜ招かれたかがわからなかったので、できるだけ控えめに、目立たないように、と、濃紺の襟が詰まったシンプルなドレスが選ばれ、髪もドレスと同色の紺色の細いリボンでサイドを編み込み後ろはそのまま垂らしたままにして、清楚な感じを押し出している。
…清楚。私とは遠い言葉だけれど。