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夢の中で会った人



 こくん…。

口の中に爽やかな香りが広がり冷たい水が喉の奥を流れていく。

「…う…?」


 ぼんやりと目を開けると、心配そうにのぞき込む若葉色の瞳と目が合った。

後頭部に手を当てて支えながら私を覗き込んでいる男性を目にとらえる。

肩のあたりで切りそろえられた私と同じプラチナブロンドの髪。そして若葉色の目。


「夢…?」

 思わず、口からこぼれた言葉。

夢の中で目が合ったような気がした男性がそこに居た。

懐かしい、会いたいと思った。その不思議な感情を覚えた当人が。


「夢ではないよ。…気分はどう?」

少し震える声が聞こえた。

上半身を起こそうとしたら彼が背中を支えて起きるのを手伝ってくれる。

座り直すと真っ白い天蓋付きのベッドに寝かされていたことがわかった。

ベッドはカーテンが下ろされて周囲は見えない。


「…ここは?」

「ヴァルハラ…と我々は呼んでいるところだよ。百合の乙女。」

「ヴァルハラ?…百合の、乙女?」


彼が静かに私の手を取った。

その瞬間、右手の甲に百合の花が浮かび上がる。


「やっと。やっと。ここに百合の乙女が帰ってきてくれた……。」


彼が右手の甲に浮かんだ百合の花に唇を押し当てる。


「あの…。百合の乙女…って何ですか?」


静かに手の甲から顔をあげた彼は、泣きたくなるほど切ない微笑みを浮かべていた。


「何も…聞かされていない?」

「はい。」

「…そうか。…では、君がここに来たのは偶然…?それとも、神が我らを憐れみたもうたか?…それにしてもひどく左頬が腫れている。誰に傷つけられた?いや、そんなことより先に癒そう。」


彼が左頬に右手を当てる。

手から金色の光があふれ、温かさに包まれる。


「…うん…。治った…かな。痛みは?」


そっと左頬に触れる。腫れが完全に引いている。


「あ、全然、もう痛くありません。ありがとうございます。」

「よかった。百合の乙女を傷つけた者はいずれ報いを受けさせよう。」

「…あの?」

「ああ。ごめんね。ちゃんと説明するね。…その前に君の名前を教えてくれる?」

「リリアンヌ・ローディア、です。」

「リリアンヌ…!やはり、君が!」

「え?」

「わたしの名前はステラロード。ステラロード・ヴァルハイム。」

「ステラロード様?」

「敬称は要らない。ステラ、と呼んでほしい。」

「…ステラ様?」


何かが胸の奥で疼いた。


「わたくし達、どこかでお会いしたことがありますか?」

「…会ったとも言えるし、今日が初めて、とも言える…。…説明をしたいけれど構わない?」

「あ、はい。お願いします。」


 ステラロードが私の右手をそっと両手で挟み込むように握りしめながら、静かな声で語り始めた。




-----


 何から話そうか。

最初から話すと少し長くなるのだけれど、いい?

…うん。ありがとう。


 このヴァルハラには、神々に魔力を奉納する百合の乙女という…巫女のような役割を持つ女性が200年から300年に一度生まれる。

百合の乙女であることの証明は右手の甲に百合の花の紋章があること…。


 百合の乙女が生まれる時期はだいたい決まっていて、神々に魔力を奉納するクリスタル柱に澱みが溜まり、色がくすんでくる時期と重なっているんだ。

百合の乙女が魔力を注ぐとまたそのクリスタル柱が浄化され透明に輝くようになる。

このクリスタル柱はヴァルハラの民の持つ魔力と呼応していて、柱の色がくすむと民の魔力は弱くなり、透明に輝いていると魔力が強くなる。


 今から1000年ほど前のこと、当時の百合の乙女がゴールデンマウンティン王国の初代王に奪われた。

その時、ゴールデンマウンティン王国を滅ぼそうと当時のヴァルハラ王は考えたようだけれど、百合の乙女がそれを止めたため、一つの契約をゴールデンマウンティン王国国王と交わし、手をひいた。

その契約とは、次代の百合の乙女が生まれたら必ずヴァルハラに帰す。というもの…。

なぜならば、当時の百合の乙女がクリスタル柱に魔力を注ぐ前に純潔を失い、その役目を果たせなくなってしまったから…。

…そう。百合の乙女は婚姻する前にクリスタル柱に魔力を注ぎ浄化するんだ…。


それが叶わなかったので、次代の百合の乙女にクリスタル柱を浄化してもらえるまで我らの先祖は耐え忍ぶことにしたんだね。


 百合の乙女は百合の乙女が産んだ子供たちの子孫からしか生まれない。

つまり、次代の百合の乙女はゴールデンマウンティン王国に生まれる。

その子供が生まれたら、必ず、ヴァルハラに帰す。

そう固く契約していたのに…。

それなのに、今に至るまでその契約は果たされていない。


 1000年という長い間、クリスタル柱に魔力を注ぎ浄化する百合の乙女がいなかったために…。ヴァルハラの民は魔力をほとんど失った…。


 実は800年ほど前のヴァルハラ王が、百合の乙女が生まれているはずなのにどうして帰してくれないのだ!と怒って、ゴールデンマウンティン王国に詰問に行こうとしたけれど、時は遅く、すでに魔力が弱くなっていたから、このヴァルハラから外に出ることもできなくなっていてね…。


 ヴァルハラは滅びるのだろうと、最近の民は諦めてひっそりと生きている。

昔より民の数も減っているし……。


 でも…。

ヴァルハラの神々はヴァルハラの民を見捨てなかった、ようだ。

なぜなら、君という百合の乙女をもう一度、ヴァルハラに送ってくれたのだから…。


 それとおそらく、君はゴールデンマウンティン王国に奪われた百合の乙女の生まれ変わり。

彼女の名前も「リリアンヌ」と言ったんだ。

王国に奪われた百合の乙女には恋人がいた。

恋人の名前が「ステラロード・ヴァルハイム」。

わたしは恋人の妹の子孫…で、彼の生まれ変わりだと思っているのだよ。



-----



 最後まで淡々と、ステラロードは語り終えた。



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