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山中にて



 ゴールデン山の麓まで馬を走らせると山が意外に近かった。

山まで誰にも会わず、民家らしきものも全く無かった。


「どうしようかな…。」


ゴールデン山は神の山とされているけれど、別に禁足地というわけではない。

でも、金色に輝く聖地として人は住んでいないし、山に足を踏み入れる人はほとんどいないと聞く。

目の前にそびえたつ山には当然、登山道のような道はなく、幹が真っ白で白金の葉をつけた大木が何者であっても入ることを拒むかのように密集して生えている。

この木は美しいので昔、家具を作ろうと伐採しようとした人がいたらしいけれど、伐採の途中で大怪我をする者が続出し、神の山の木を切る者は祟られるという噂が広がって、今は誰もこの山に手をつけていないらしい。


普段の私だったら、この山に入ろうなどと思わなかっただろう。

けれど、襲われた恐怖で気が高ぶっていたからだろうか、何故だか山の中に逃げ込めば安心だとしか考えていなかった。

でも、馬ではこれ以上、進めない。


「ここまで連れて来てくれてありがとう。好きなところに行ってね。」


馬の鼻面をなでてやり、手綱を外してやる。

この辺まで来ると見渡す限り草原なので飢えることはないだろうし、来る途中、野獣や魔獣に会っていないので好きなところに行けるだろう。

馬がのんびりと去っていくのを見送ってから、山の森林に入り込む。

本当に不思議なくらい怖いという意識が全く無かった。


「なんだろう…。ここは何か懐かしいような気がする…。」


足下に注意しながら歩いていくうち少し疲れを覚えた私は立ち止まり、傍らの大木に右手を当てて少し寄り掛かりながら左手甲で額の汗をぬぐった。

その瞬間、右手の平から急に魔力が吸い出され、強烈な金色の光が溢れ、思わず目をつぶる。


「な、何!?」


やがて閉じたまぶたに感じていた突き刺さるようなまぶしさが消えたので、恐る恐る目を開けてみれば、さっきまでうっそうと茂っていた森の中に、金色に輝く細い1本の道が出現していた。


「え……。何、これ?」


その道の果てが見えないけれど、なぜか、この道を行かなければならないと感じた。


「…行ってみよう。」


 細い道はすべすべとしていてまるで光を集めたガラスで作られたかのようだった。

かつんかつん、と私の靴音だけが山の中を木霊する。

振り返ると後ろには金色の道は消え、ただ森が見える。

私の前にだけ、金色の道が一筋光っている。

 どれだけ歩いたのだろう。

果てしなく遠かった気も、あっという間の短かった気もする、時の流れが普段と違うような感覚の中、急に正面が金色に輝く霧のようなもので覆われて先が見通せなくなった。

それでも怖いと思えず、ゆっくりとその霧の中を進む。

金色の光以外、全く見えないのに不安を感じることもなく進んでいくと突然、目の前に広大な百合の花が咲き乱れる野原が出現した。

昼間のように明るい。

歩いているうちに夜が明けた?…そんなに歩いたの?


「ここ…。夢の中で見た場所?」


百合の花々の中を進んでいく。

百合の花は驚いたことに私の肩くらいまでの高さがあり、先に何があるかよくわからない。

それでもまっすぐ歩いていくと百合の花が途切れ、目の前に藍色の水をたたえた大きな池が現れた。

水面にはたくさんの蓮の花。


「間違いないわ。ここ、夢の場所だ……。」


周囲には誰もいない。

…夢の中、なのか。それとも、現実なのか。


「いたっ!」

思いっきり手の甲をつねって痛みに顔をしかめた。

「痛いから、夢じゃない、みたい。でも…。ここからどこに行けばいいの?」


池の対岸まで行けばまた新しい光景が見られるかもしれない。

広い池の岸に沿って歩き始めたけれど、ほどなく喉の渇きを覚えた。

そういえば、お茶会で眠らされてから半日、何も口にしていない。


「この池の水、飲んでも大丈夫かしら?」


池のほとりでしゃがみこみ、池の中を覗き込んだその時、突然、激しい風が起こり背中から池に押し出された。

ばっしゃーん!


「きゃあああああ!」


池に落ちた。

泳げるはずなのに、なぜか身体が言うことを聞かない。手足を動かせないまま、沈んでいく。


「…く、苦し…い?」


意識を失う直前、私の名前を誰かが呼ぶ声がして、金色の光がこちらに向かってくるのが見えた。



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