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誘拐



 なんだかガタガタ揺れる振動を感じて、意識が戻ってくる。

「…う…。」

起き上がろうとして、両手と両足も縛られていることに気付いた。

薄暗い視界に目が慣れてくると、どうも荷馬車に乗せられているようだ。

領地では種子や収穫物を運ぶ時、荷馬車に乗っていたからわかる。


状況がよくわからないけれど、誰かに攫われ、どこかに連れていかれようとしているのだろう。

腕を目の前に上げて手首に縛られている縄を見る。

…うん。この縛り方なら、縄抜けできる。

でも、走っている馬車から飛び降りるのはやめた方がいい。

周囲が暗いということは、どうやら夜。しかも知らない土地で走っている荷馬車から飛び降りてもすぐ捕まってしまうだろう。

…気絶しているふりをしておこう。


 やがて荷馬車が止まり、誰かが近づいてくる音がする。


「まだ気づいていないな。」

「誰かに見られない内に運び込むぞ。」


誰かがぐいっと私を担ぎ上げ、歩き出す。

薄眼を開けて見てみたけれど、頭が下になっているので見えるのは枯草ばかり。

扉が開く音がして家の中に入れば、あまり綺麗でないむき出しの木の床。

小屋、だろうか?

ほどなくして、どこかに乱暴に下ろされた。


「ロザモンド様がおいでになるまで閉じ込めておけとのことだ。眠り薬がまだ効いているから騒がれないで済みそうだな。」

「ロザモンド様は何時ころに来られる?」

「夕食後、屋敷を抜け出されると聞いている。」

「やれやれ。あと数時間くらいか?暇つぶしにカードでもやるか。」

「そうだな。」


バタンと扉が閉じられ、がちゃんと閂がおりる音がした。

そっと目を開けてみると、木の床に直接寝かされているのがわかる。

用心深く周囲を見回すと、壁の一隅に粗末な木製の棚があり、麻袋やロープなどが置いてある。

窓も1つあるけれど、高い所にある明かり取り用の窓で、格子もはまっているから出られない。

出口はあの扉だけ。

でも、閂が下ろされているわね。まちがいなくその音がしたもの。としたら今は出られない。


…ここは狩猟小屋か農家の物置、といったところかしら?



耳を澄まして扉の外の様子を窺ってみたけれど、物音はしない。

別の部屋で待機していると考えて良さそうだ。


…ロザモンド様、って彼らは言ってた。

ロザモンド様がなぜ、私を眠らせて監禁しているのかしら?

彼女から話を聞いた方が良さそう。

その前に、すぐ逃げられるよう、縄を緩めておかないと。





 どれくらい時間が経ったのだろう。

外が騒がしくなってきた。

まだ眠っていると思わせるため、目をつぶったまま床に転がっておく。


がちゃんと閂が外れる音がして誰かが入ってくる。


「まあ。薬が効きすぎたかしら?まだ意識が戻っていないようね?」


ロザモンドの声が上から降ってくる。


「ウォーターボール!」


ロザモンドの声が響いて、顔面に水が大量にぶつけられた。


「うっ!」


鼻に水が入り、思わずむせた。


「気が付いて?」


髪の毛をグイっと上にひっぱられ、顔が起こされる。

うっすら目を開くと、木の床に膝をつき、左手で私の髪をひっぱりあげているロザモンドが見えた。

目がギラギラして口元の笑みは歪んでいる。


「ロザ…モンド様?」


髪をひっぱられたまま背中を壁によりかからせながら上半身を起こされる。

と、いきなり平手打ちが飛んできた。


「この売女!」

「うっ!」

「どうやってウィリアム様の婚約者に収まったの?」

「…え?」

「わたくしがウィリアム様の婚約者になるはずだったのに、いきなり横から奪っていったのはなぜ!?」

「…奪ったつもりは…。」


またも、頬を叩かれる。


「お黙り!特に王家にメリットがある家柄では無いし。容姿も人並み程度で何か特別変わったこともないくせに。としたら、その身体で篭絡した、のかしら?」

「そんなこと考えたこともないわ!」


またも、激しい平手打ちが飛んできた。口の中で鉄の味がする。


「それ以外、考えられないじゃないの!」


ロザモンドがゆらりと立ち上がった。


「くす。でも、いいわ。婚約は破棄すればいいんだもの。ウィリアム様を誘惑したその身体。他の男に汚されれば、ウィリアム様はお前と手を切るでしょう。」


顔がさっと青ざめる。


「バルク。」

「は。お嬢様。」

「この女を犯しなさい。身体中にお前の痕跡を残すのを忘れないで。何度も犯して動けなくしてちょうだい。そして明日の朝早く、その女を我が家の庭に全裸で放置しなさい。ぐちゃぐちゃに汚れたままの状態でね。まだ滞在中の貴族達がその女が穢れたことを目に焼き付けられるように。」

「承知しました。…少々傷つけても?」

「構わなくてよ。命さえあれば。」


ニタリとロザモンドが私に笑いかける。


「バルクはね、今まで何人もの女を残虐な方法で犯しているから愉しめてよ?…さ、おまえ達、わたくしの護衛をしなさい。一人で抜け出してきたから帰りが怖いわ。バルク。わたくしが居なくなるまでお待ち。その女の金切り声なんて聞きたくないから。」

「承知しました。」


ロザモンドが出て行き、バルクと2人きりになる。


「夜は長い。ゆっくり楽しませてやるよ。」


バルクが手を伸ばして顎をぐいっと引き上げた。


「へえ。なかなか綺麗な顔してるじゃないか。…お嬢様がおっしゃったとおり、すでに男を知っているのか?」

「し、知らないわ!」

「ふうん?どっちだろうな?どっちでも構わないけど、知らないんなら、俺が初めてってことか。…初めてでも優しくしてやらないけどな。」

「な、縄をほどいて。」

「ダメだ。…そろそろお嬢様も遠くに行ったかな?」


バルクが身体を私から離し、立ち上がってズボンのベルトに手を掛けた。

…チャンス!


私はバラりと縄を落とし跳ね起きる。

「てめえ!?」

驚いた表情を浮かべたバルクの急所を容赦なく蹴り上げた。

…領地では農村を回ることが多く、ならず者が居ないとは限らなかったから最低限の護身術は父から教えられている。

ここで相手を可哀そうと思ったら、だめだ!


床に崩れ落ちて唸っているバルクには構わず、部屋の外に飛び出し、扉を閉め、がちゃんと閂を下ろす。


小さな小屋だった。

廊下をまっすぐ走り、正面の扉を少しだけ開いて外の様子を窺う。

ロザモンド達だろうか、遠くの方に砂埃が見えた。

扉の外には私が乗せられてきただろう幌付きの荷馬車が止まっていて、その横の杭に馬が1頭つながれている。


この馬を借りよう。

乗馬も得意だから鞍が無くても問題ない。

馬の手綱を杭からほどき、ひらりと飛び乗った。


ここがどこだかわからない。

小屋はぽつんと枯野原の中に建っていて、街道がどちらにあるかさえわからない。

本来なら、砂埃が見えた方…。ロザモンドが去って行った方角に走るのが正しいのかもしれないけれど、彼らにもう一度捕まるわけにはいかない。


その時、ゴールデン山が近くにそびえているのに気が付いた。

ゴールデン山は金色に発光している不思議な山なので、暗い夜でもそこだけうっすらと明るい。


…そういえば、ゴールデン山の麓に百合の花の咲く野原があると、ロザモンドが言っていたっけ。

本当かどうかわからないけれど、令嬢達皆の前で話をしていたからそういう場所があるのかもしれない。

行ってみよう。

追手が来るとしても、山に向かったとは思わないだろう。たぶん。

私は馬の首を山に向けて走らせた。




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