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ロザモンドのお茶会



 1週間後、母と一緒にカリキュア侯爵家の領地の館でお茶会に参加した。

ちょうどその日の前日、王太子ウィリアムが無事に砂漠の国に着いたという知らせも入った。


 カリキュア侯爵は我が国でも一二を争う大貴族なので、お茶会に参加している貴族の数もかなり多い。

そのため、ガーデンパーティ形式で開かれ、庭が主会場だった。

その庭につながる大きな客間も、副会場として開放されており、どちらにも多くの貴族が集まっていた。


 私達は昨夜、領主館の隣にある別館に泊めていただいたけれど、この別館が客人の宿泊専用の館と聞いて驚いた。

部屋数が数十室は余裕でありそうな広さ、そして廊下も部屋も豪華な調度品ばかり。

カリキュア家の財政の豊かさを見せつけられた思い。

この大規模な茶会も規模が大きくて、萎縮しそう。


「ごきげんよう、リリアンヌ様。」

自分の知り合いが誰も見当たらないので、母にくっついていた私に声がかかった。

ちなみに母は何人か友達を見つけて、そのたびにおしゃべりに興じている。

「あ、ロザモンド様。ごきげんよう。お招きいただき、ありがとうございます。」

「こちらこそ、来ていただいてうれしいですわ。…いかがです?あちらでお話しませんか?わたくしの友達に紹介しますわ?」

母をちらっと見てお伺いをたてれば

「行ってらっしゃい。同年代のご令嬢と知り合うのも大切だから。」


ロザモンドに案内されて、庭の奥にあるガゼボまで来ると、数人の令嬢が談笑していた。…宮殿でのお茶会でロザモンドの周りにいた令嬢達だとすぐわかる。


「皆様、リリアンヌ様をお連れしましたわ。仲良くしてさしあげてくださいね。」

ロザモンドの声に、皆、うなずく。

「ええ。もちろんですわ。ロザモンド様。…リリアンヌ様、初めまして。わたくしは…。」

皆さんが、自己紹介してくれる。


「ぜひ、お友達になってくださいませ。」

「もちろんですわ。わたくしこそ、よろしくお願いいたします。」


そして集まった令嬢達と歓談が始まる。


「そうだわ。リリアンヌ様。明日の朝お帰りになると聞きましたけれど、1日延ばされません?明日の午後、皆さんとピクニックの予定ですの。我が領地はこの国の神峰ゴールデン山の麓にございますでしょう?その雄大な山を目の前に見られる綺麗なところがございますの。」

「まあ、そうなのですか。でも、ご迷惑では…。」

「とんでもない!お友達になったのですもの。それに、その場所は、百合が咲き乱れて綺麗なのですよ!」

「え?百合?」

「ええ。百合はお好きですか?」

なぜか、ゴールデン山に心が惹かれた。

もしかしたら、夢の中で見た風景に出会えるかもしれない。

「母に聞いてみませんと…。」

「では、聞いてらして?…あ、あそこにいらっしゃいますわ?」


ロザモンドと一緒に母の所に行き、延泊したいと相談したところ、困った顔をされた。

「わたくしは明後日、人と会う約束がございますので、明朝帰らなければならないのですけれど…。」

「リリアンヌ様だけ延泊、というのはいかがです?」

「でも、帰りの馬車が…。」

「あら、その心配はご無用ですわ。わたくし達も明後日、王都に戻ります。その時、リリアンヌ様と一緒に戻れば良いのですわ。」

「そこまで甘えてもよろしいのですか?」

「ええ。他の友達も一緒ですもの。1人増えても問題ございません。」

「では…。リリアンヌをよろしくお願いいたします。」

「承知しました。あと、今日の夜は、パジャマパーティしますの。リリアンヌ様をお借りしても?」

「ま!ふふ。構いませんわ。」


そして、母がそっと耳元でささやいてきた。

「仲良くなれそうで良かったわね。楽しんでいらっしゃい。」と。


頷いて母から離れ、また、ロザモンドの友達が待つガゼボに戻れば、おしゃべりが再開する。


「ロザモンド様のお茶会は果物のパイがとても美味しいのでお勧めですわ。」

「まあ、そうなのですね。」

「ええ。今日は収穫祭も兼ねていますので、果物の種類も多いのですよ。リリアンヌ様、こちらを召し上がって?数種類の果物が入ったパイで、料理長の自信作ですの。わたくしの大好物なのですよ。」

「ロザモンド様、ありがとうございます。ぜひ、いただきます。」


ロザモンドがテーブルの上のパイから一切れ、小皿に取ってくれたのを受け取る。

他の令嬢達も、思い思いにパイを取って食べ始めている。

「あ…。本当に美味しいです。果物をワインで煮ているのですか?」

「あら、おわかりになりました?ワインも我が家で造っているのですよ。」

「それは素晴らしいですわ。」

本当に美味しくて、ぺろりと1切れ食べてしまう。

「こちらの紅茶も、我が家で採れた茶葉をブレンドしていますの。いかが?」

「いただきます。…わあ。爽やかな風味ですね?ミントを入れてます?」

「オレンジミントが入っていますの。」

「ああ、それで…。とても美味しいですわ。」

「リリアンヌ様は素材の味がおわかりですのね。なんだかうれしいですわ。わたくしと趣味が合いそう。」


 その時、くらっと目が回った気がした。


「あら?どうなさいました?」

「すみません。立ち眩みしたようです。」

「あら。大変。ごめんなさい。日差しが強かったかしら?外ではなく、室内でお話したほうが良かったのかも。」

「いえ、大丈夫です。たぶん、こういう大きなお茶会への参加は初めてなので、緊張したんだと思います。」

「では。少し室内で休んだ方が良さそうですね?休憩室に行きませんこと?」

「ありがとうございます。お言葉に甘えます。」


ロザモンドの友人達に会釈して、ロザモンドと一緒に邸に戻る。

「こちらのお部屋をお使いになって?」

お茶会に開放されている大きな部屋の隣にある客間に案内してくれた。

「少しお休みになったら、また戻ってきてくださるとうれしいけれど、ご無理はされないでくださいね。…ドーラ。リリアンヌ様のお世話を頼みます。」

客間に立っていた1人の中年の侍女に、ロザモンドが声をかけてくれる。

「ロザモンド様、ありがとうございます。」

「どういたしまして。王太子妃様の御身は大事ですもの。くれぐれもご無理されませんように。」

にっこりと笑ってロザモンドがお茶会に戻っていく。


「お嬢様、お疲れのように見えます。こちらのハーブティはいかがでしょうか?」

「この香り、カモミール?」

「はい。さようでございます。」

「ありがとうございます。いただきます。…あの、わたくしに付いていなくても大丈夫ですので。これいただいて一休みしたら、またロザモンド様の所に戻りますから。」

「承知しました。…では、ご用がありましたら、テーブルの上のベルをお鳴らしくださいませ。」

「ありがとうございます。」


侍女が出て行ってくれたので、ほっとした。

基本、なんでも自分でできるので、侍女にかしずかれるというのがあまり好きではない。


「それにしても、ロザモンド様、意外と優しいのね…。」

王太子妃候補から外されたことを当たり散らしていた人物とどうも結びつかない。

カモミールティをこくりと飲みながらつぶやく。

「あの方とならお友達になれそう?」

あくびが出る。

「…思ったより疲れた、のかしら…?」


かちゃん。と小さな音がして、カップが床に落ちた。

その音が合図だったのか、静かにドーラと呼ばれた先ほどの侍女が入ってくる。

「お嬢様?」

ソファで眠り込んでいるリリアンヌを見ながら小さな声で呼びかけ、反応が無いのを確認すると扉の方を振り返る。

「寝たわ。」

するりと1人の男性が入ってきて、眠っているリリアンヌを担ぎ上げる。

ドーラが暖炉の方に歩み寄り、暖炉の中に手を入れてレバーを引くと暖炉の横に隠し通路が現れ、リリアンヌを担ぎあげた男性がその通路に入って去っていくのを見てから、彼女はまたレバーを引いて壁を元通りにし、床の上の砕けたカップのかけらとお茶を素早く掃除し、テーブルの上の茶器もすべてワゴンに乗せ、何もなかったかのように退室していった。



 その後、ローディア伯爵夫人は時々、自分の娘リリアンヌを探したけれど、ロザモンドとその友人に囲まれている娘のプラチナブロンドの髪を見つけ、お友達との仲を邪魔するわけにはいかないわね。とほほえましく見守るにとどめた。

もちろん、自分も話しかけてくる夫人が多くて、なかなか一人になれなかったことも理由の一つだけれど。



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