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予知夢?



 その夜。また私は夢を見た。

いつもは静かで穏やかな景色なのに、緊迫した空気が漂っていて。

綺麗な女性と抱き合っていた男性が怒りの形相で、両目から涙を流しながら何かを叫んでいる。

彼を数人の男性が抱き留めてなだめているようだ。

何を言っているかわからなかったけれど、口の動きから「諦めろ」という単語だけ読み取れた。

男性が崩れ落ちて両手の拳を大地に打ち付ける。その手が血に染まって真っ赤になっていく。

彼をなだめていた人たちが一人去り、二人去り、とうとう彼一人になった時、彼は血まみれの両手で顔を覆ってつぶやいた。

声が風に乗って届く。


「リリアンヌ…。俺の、百合の、乙女…。」


そして、彼は自分の胸を自ら短剣で貫いた。







「お嬢様!お嬢さま!大丈夫ですか!?」「リリアンヌ、どうした!?」

「う、…あ!?」

「ものすごい悲鳴が聞こえました!どうされました!?」

「あ…、ラミィ、お父…さま……。」

「真っ青ではありませんか。本当に大丈夫ですか?」

「わたくし、悲鳴を?」

「すごい悲鳴でしたよ。」

「誰かがリリアンヌの部屋に侵入したのかと思って駆け付けたのだ。」

そういう父の手には、剣が握られている。

その後ろには真っ青な顔をした母と心配そうな顔をした侍女達も立っている。


「だ、大丈夫…です。ちょっと怖い夢…を見ただけなので。」

「夢?どんな夢を?」

「ごめんなさい。覚えてません。何かすごく怖かったのですが。」

「お嬢様、やっぱり夢の魔術師をお呼びになられたほうが?」

「大丈夫だって。ラミィ。」


でも、今回は許されなかった。

屋敷中に響き渡るほどの悲鳴だったらしい。

父は魔術庁へ「夢占いに長けた魔術師にカウンセリングの依頼」を申請し、それが耳に入った王太子が私の体を案じて、王宮付きの魔術師を連れて駆け込んでくると言う騒ぎになってしまった。



「あの…。王太子殿下も側にいらっしゃるのですか?」

本来、カウンセリングはカウンセラーと2人で行われると思っていたので困惑する。

「君が心配だし、君のことは何でも知りたいから。それに、忘れないで。私は闇の属性を持っている。人の精神に干渉する力を持つから、わたしが自分でカウンセリングしても良かったんだけど。私情を挟むと見えなくなることもでてくるから、やむなく、王宮の魔術師を頼んだだけなんだ。わたしのことは置物だと思って。ね?」

「…はい。」


王宮付きの夢占いの魔術師は高齢の女性だった。

「お嬢様。わたくしは夢の内容を聞いて何をその夢が示しているのか占います。覚えている限りで構いません。どのような夢をご覧になりましたか?」


その時、なぜか、あの2人の話をしたくない。と思った。

なぜかはわからない。


魔術師が両手で私の両手をしっかり握り、魔力を流してくる。

やわらかい光が私の両手を包み、心がほぐれる感じがする。


「えっと…。一面百合の花が咲いている野原に居るんです。その野原の真ん中に藍色の池があって、蓮の花が咲き乱れているんです。」

「なるほど…。ところで、蓮の花、とは?」

「えっと…。」

困って、王太子を振り返ると、彼はうなずいて説明してくれる。

「王宮庭園の1つの池に蓮の花が咲いている。後で見せよう。」

「なるほど。すでにその花を、お嬢様はご覧になっているのですね?」

「はい。」

「それで、その野原にお嬢様は立っている。と。お1人ですか?」

「はい。」

「他に人や動物などはいますか?」

「いいえ。」

「昨夜は怖い夢を見たと言うことですが、毎回、怖い夢を見るのですか?」

「いいえ。怖かったのは昨夜だけです。」

「なるほど。ではなぜ、怖かったのですか?」

「血が飛び散った…からだと思います。」

「誰の?」

「わかりません」

「…お嬢様、毎回、夢では百合の野原に立っているのですね?」

「はい。それは確かです。でも、見たことが無い景色なんです。両親に聞いても心当たりが無いと言われました。わたくしが知っているのは王都と領地の館だけで他に旅行したこともありません。」

「つまり、見たことが無い所に立っているのですね?」

「そうです。」

「…としたら。予知夢かもしれませんね。」

「予知、ですか?」

「将来、そのような百合の咲き乱れる場所に行かれる可能性がある、ということです。」

「なるほど?」

「待て。予知だとすると、その場所で血生臭い事件が起きるということか?」

「可能性はございます。…将来、王太子妃となれば暗殺もありえましょう。」

「なっ!」

「百合の花が咲き乱れる野原…。王太子殿下、どこかご存じですか?」

「いや、わからぬ。調査させよう。そしてその場に彼女が近づかないようにしよう。」

「それがよろしいかと。」


 私の見た夢は予知夢とされて、王太子は場所を特定するため私に夢で見た風景を描くようにと頼んできた。

私は地平線まで一面の百合の花とその奥に蓮の花が咲く池を描いた。

あまり上手ではないけど、イメージは伝わるだろう。

私もその場所が本当にあるなら行ってみたかったから、調べてくれるならありがたい。


でも、私はあれが予知夢だとは思っていない。

たぶん、あれは、ずっと過去に起きたこと…だと思う。あくまで勘だけれど。







「おそらく、そこは、ゴールデン山にあるのだろう。」

「父上?」

「ウィリアム。王家の庭にある蓮の花は神々の国から嫁いできた最初の王妃が自国から持ち込んだ花とされている。」

「そ、そうだったのですか?」

「百合の花が咲き乱れる野原は探せばどこかにあるかもしれないが、蓮の花が咲いているのは、この王宮のみ。としたら、あの山しかない。」

「で、では?」

「将来、リリアンヌ・ローディアがあの山に行く、ということではなかろうか。…だが、それは許さない。絶対に、だ。」

「父上?」

「ウィリアム。彼女は絶対にあの山々に近づけてはならん。あの山々の近くの街に行くことはもちろん、入山は絶対にさせるな。」

「理由をお聞きしても?」

「そちの方がわかっておろう。彼女が見たのは確かに予知夢なのであろう。全属性持ちであれば予知夢を見ることもある。あの山で彼女は命を落とす運命なのだ。」

「そんな運命は認めません!」

「だから、だ。」

「わかりました。」

「幸い、ローディア伯爵の領地からはゴールデン山に行くことはできぬ。あの山に登るにはカリキュア侯爵の領地が一番近い。リリアンヌ・ローディアとカリキュアの令嬢が親しいと言う話は聞いていないが、今後、彼女がカリキュアに近づかないように注意せよ。令嬢達は茶会だなんだと親しい者を集めたがるものだからな。」

「あわせて承知しました。」




 リカード王はウィリアム王太子が退室した後、ため息を吐き出した。

「百合の乙女を神々の国が呼んでいるのやもしれぬな…。…それでも。渡せぬ。」



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