第5話 綺麗すぎる戯言
前回のあらすじ
急に草原に置いてかれた剣人と真弓は、取り敢えず人里を探すことに。妖精の様なものに導かれている途中で豚の様な化け物に襲われている男女2人組を発見。
剣人は引きつけ役を担い、何とか倒そうとすると妖精が体を剣に変化。その剣で殺してしまい、罪悪感に苛まれました。
その後真弓も化け物を殺したらしく、真弓はちょっと限界。『ルーク』と『エレノア』の2人に街まで案内され、宿屋で受付を済ませ、めっちゃ早いけど寝ることに。
剣人は真弓が心配で仕方ない。
今回もまた難産…できれば1週間以内には投稿したいのですが。
一人称視点と地の文が混ざってしまう現象誰か解明して…1行空けてるので読みやすくしたつもりですが、読みづらければ感想欄でご指摘ください。
それでは、お楽しみくださいませ。
「どうするつもりなの…?剣人…!」
幼馴染がゴブリンの様なものを引きつけて逃げる姿を見ながら思う。剣人は、後先考えずに行動することが多い。
その癖、頭の回転は速い。考えるより先に動いていても、思考速度が速いからどうとでもなるケースが多いのだ。我が幼馴染ながら変だと思う。
けど同時に、その姿に憧れてもいる。
「すまねぇ、助かった…」
「ありがとうございます!」
連れ出した2人が礼を言って頭を下げた。
この2人は何故ゴブリンの様なものに襲われていたのだろうか。話を聞いてみれば、この世界のことを知る取っ掛かりになるかもしれない。
そう思って、真弓は話を聞いてみることにした。
「あの、あなた達…」
「⁉︎危ないっ!」
少女が突然叫び出した。振り返るとそこには───
「グウウ…」
「!ゴブリンみたいなの…」
先程2人を襲っていたゴブリンの様なものが1匹出てきた。剣人が引きつけている1匹だけと思っていたが、まだもう1匹いたようだ。
「あなた達!早く逃げて!」
「いや、いつまでも恩人に任せるばかりじゃいけねぇ!俺に任せろ!」
少年はそういうと両手剣を持ち出し、振り下ろした。
「そぉらぁっ‼︎」
ズドォン、と音が鳴り響き、地面に少しばかりヒビが入る。しかし、ゴブリンの様なものは避けており、無傷だった。
「クソッ!テメェ…うぐっ⁉︎」
「む、無茶ですルーク!まださっきのダメージが抜けきってないんですから!さっきまでどれだけ強いホフゴブリン達を相手にしてたと思ってるんですか⁉︎」
『ルーク』と呼ばれた少年が呻き、剣を取り落とす。『エレノア』と呼ばれた少女が慌てて止めた。
あのゴブリンの様なものは案の定『ホフゴブリン』というらしい。
そして話の内容から察するに、『ルーク』と『エレノア』はホフゴブリンの集団相手に戦っていたということだろう。そして残りの2匹が中々しぶとく生き残っていた、そういうわけか。
「お願い、2人は下がってて!」
私にできることなんて無い。でもそれ以上に、目の前で人が傷つくのを黙って見ていられなかった。
「グウウウ!」
ホフゴブリンが大きい棍棒の様なものを振り上げる。
私はそれを咄嗟に受け止めた。
「うっ!っぐ…」
重い。だが、止められない程ではない。もっと言うと、漫画でよくある『真面にくらったら骨が折れる』とかそういうものではない。
勿論、痛いことは痛い。しかし、まだ受け止められる。
「げほっ、げほっ…」
あまりの痛さゆえに咳き込んだ。幸いにも骨に異常はない。
「グルォォ!」
武器も持たないただの人間に受け止められた事が意外だったのか、それとも屈辱だったのか。両方だろう、顔を歪めて棍棒を両手に持ち替え、ありったけの力を込めて振り下ろしてきた。
「はっ!」
私はそれをかわす。避けられたから避けた。当然のことだ。目に見えない攻撃、或いはとても範囲が広い攻撃ならまだしも見えもするし避けられもする攻撃を態々くらう必要性は今はない。
「…えいっ!」
「ギャアッ!」
そして棍棒を振り下ろした衝撃で腕が痺れたのか、動かないままのホフゴブリンの腕を踏みつける。
その痛みに悲鳴をあげ、棍棒を手放した。
「やあっ!」
私はそれを見てすかさず、棍棒を思い切り蹴り飛ばした。
「いっ…たい…!」
凄く痛かった。とにかく武器を持たせないことを第一に考えていて、棍棒の重さを考慮していなかった。
「グウウ…ガァァァッ!」
武器を取られたことに怒ったのか、ホフゴブリンは両手を広げて突進してきた。私は、慌てることなく落ち着いて───
「ふっ!」
「ギャアアッ!」
───腹に思い切り蹴りを入れた。かなり堪えたのか、腹を押さえてのたうちまわっている。
もうこれ以上戦う理由はないはずだ。私は生き物を好き好んで痛めつけるのは趣味ではない。
ホフゴブリンの方だって、武器も防具も無い丸腰の人間相手にやられて、心が傷ついているだろう。武器も無いのだから、もう諦めるだろう。
そう思っていたのだが。
「グウウウウオオオ‼︎」
「ッ‼︎何⁉︎」
ホフゴブリンが、紫色の瘴気の様なものを出しながら咆哮をあげている。ただならぬ雰囲気だ。
「‼︎マズイぞ…魔力で身体能力の底上げをしようとしてる!」
「それだけじゃないです!体も大きくなって…」
紫色のオーラを出し終わった後は、全体的に大きくなっていた。120㎝くらいしかなかったのが、4〜5mくらいには大きくなっている。徐に拳を振り上げ、降ろした。
ドゴオオオン‼︎‼︎
───という様な音が響き、地面がひび割れた。それは、先程『ルーク』が作ったヒビよりも大きい。
(マズイ…あれをくらったら確実に終わりだ!)
死ぬとまではいかなくとも、全身の骨が砕かれ、数年はまともな生活を送れなくなるのは確かだ。
(どうしよう…どうしよう…⁉︎)
一体どうすれば、2人を無事に逃がせるのか。考えても考えてもわからない。魔法でも使えれば良いのにと願うが、そう都合のいい事があるはずもない。
気づくと、両手を広げて2人を庇っていた。
そんなことをしてもどうにもならないとわかっている。巨大化したホフゴブリンの目には、震えながら2人を庇う姿はさぞ滑稽に見えただろう。
そんなことを考えていると───
「っ⁉︎妖精…⁉︎なんで?」
───目の前に、自分達をここまで導いた『妖精』がいた。『妖精』は降りてくると、急に光り出した。
「うっ…‼︎何?何なの⁉︎」
「グウウウ…⁉︎」
そのあまりの眩しさに、思わず目を瞑る。それはホフゴブリンも同じだった。
「…‼︎これは…弓?」
光が収まると、目の前には弓があった。ただし、弓道部に入っている私が見慣れたものじゃない。
剣人とやっていた、RPGゲームに出てくる弓…所謂ファンタジーなゲーム風のデザインだった。
側には、矢が5本ほど転がっている。
「グオオオオオ‼︎」
「…っく‼︎」
迷っている暇はない。ホフゴブリンは正気を取り戻したのか、拳をこちらに向かって振り下ろしてくる。弓矢を手に取り2人を突き飛ばしてかわした。
この様な弓を使ったことはないが、弓道部の練習と同じ要領でやってみた。ギリギリと引き絞り、精一杯の力で放つ。
「やああっ‼︎」
刹那、矢が金色の光を纏った様な気がした。矢はまっすぐに飛んでいき──
「ギャアアアア‼︎‼︎」
──ホフゴブリンの心臓を貫いた。
「え?」
思わず声が漏れた。心臓を貫くつもりはなかった。頬に当てるか、肩に当てるか。そのつもりだった。
「グ、グオオオオオ…」
断末魔をあげ、黒い霧の様になって消えていく。
残ったのは、ビリビリに破れた布と一欠片の宝石だけだ。
「う、そ…」
想定外。その一言に尽きる。跡形も無く消えているのだから、間違いなく──
「死ん、だ?」
──死んでいる。当然、勝手に死んだわけではない。どう考えても、私が、殺し──
「おーい!無事かー⁉︎」
「…っ‼︎」
突如として聞こえてきた声にハッとする。そうだ。あの2人は無事か?向こうを見やると、2人とも走って来るのが見える。
「ハァ、ハァ…ご無事で良かったです…」
──それはこちらの台詞だ。そう言いたいのをおさえて、なんとか言葉を絞り出した。
「……け、け、怪我、は、ない?」
かなり吃ってしまった。それ程、真弓は動揺している。『生き物を殺してしまったこと』を。
殺すつもりなんかあるわけなかった。寧ろ、殺したくなんかない。ただ、威嚇射撃のつもりだ。致命傷にならない程度の怪我を負ってもらって、すぐに退散してほしかっただけななのだ。
目の前で血が飛び散るところをはっきりとみた。あれが、『殺す』ということ。苦しんだ表情をはっきりとみた。あれが、『殺される恐怖』というもの。
『罪悪感』『後悔』『懺悔』…ありとあらゆるものが、心臓に纏わりついてきて。
──吐きそうだ。
「お前…‼︎凄かったな、今の弓さばき!」
「あんなに綺麗に心臓を狙えるなんて…!素晴らしいです、かっこよかったです!」
「…っっ‼︎」
声にならない悲鳴が喉の奥から出てきて、誰にも聴こえることは無く口の中で霧散した。
そんなに、喜ぶことなのか。殺してしまったと言うのに。でも、自分達も食べる為に殺している。これも、殺さなきゃ殺されるから。だから、おかしいことじゃない?
「そうだっ!剣人は?」
あまりの事態に気が動転してそこまで頭が回らなかったが、唐突に思い出した。剣人は、もう1匹のホフゴブリンを引きつけていた筈だ。
私は『ルーク』と『エレノア』のことなどすっかり忘れて、大切な幼馴染の元へ向かった。
「剣人ー‼︎」
「!真弓…」
良かった、無事の様だ。安心したのも束の間、剣人から聞かれた。
「まゆ、み…ちゃんと、あの2人を逃がせたのか?」
しまった。とにかく剣人に会いたくて、剣人に会えばこの罪悪感もマシになると思って剣人のところに来たから、すっかり失念していた。
「あ…えっと…」
さっきのことが衝撃的だったこともあって、答えに詰まった。もう、正直な話いっぱいいっぱいだ。
ちゃんと突き飛ばして逃した筈だけど、逃した先で新手に出会っていたら元も子もない。
真弓はとうにキャパオーバーしている。頭がパンクしそうな程に混乱していた。
「おーい!お前達!」
すると、ルークの声が聞こえてきた。声のした方を振り向くと、エレノアと一緒に走って来ているのが見える。良かった。無事な様だ。
先刻まで2人のことは頭になく、ホフゴブリンを殺したことに対する混乱と剣人に会いたいと言う感情で頭がいっぱいだったことから無意識に目を背け、2人の無事を喜んだ。
「ありがとう…!ありがとうな、お前ら!」
「凄かったです!あんなに綺麗に魔物を倒せるなんて…!」
ビクッ、と肩を振るわせる。『ありがとうお前ら』とは、私たちに向けて言われた感謝の意。
その内訳はおそらく、魔物を引きつけてくれた剣人と、魔物を倒してくれた…否、殺してくれた私、という感じだろう。
やめてくれ。謝意なんていらないから、剣人の前でそれを言うのだけはやめてくれ。お願いだから。
「え…お前ら、見てたのか?俺が…その…」
やめて。お願いだから。剣人に知られたら、剣人に拒絶されてしまう。もうこれ以上の刺激に耐えられないのに。この上剣人に拒絶されるなんて、絶対に嫌だ。
真弓には、剣人の言葉など頭に入って来ていなかった。
「いえ、貴方ではなく、そちらの女性の方が…」
嫌だ。やめて。
「あぁ!見事な弓さばきだったぜ!」
やめて、やめてよ。剣人に言わないで。
「…!真弓、が…?」
ああ。知られてしまった。
「………っ‼︎」
剣人に拒絶されてしまう。剣人が私の親友でいてくれなくなってしまう。五喜も翠も地球にいる。瀬川くんも宮崎くんも地球にいる。だから、今私と剣人だけ。
異世界でたった1人の親友に拒絶されるなんて、心がどうにかなりそうだ。
ルークとエレノアが、剣人に何か話しかけているのが何となく聞こえてきた。けれど、今それどころじゃない。剣人に拒絶されてしまったらどうしよう、そのことで頭がいっぱいだった。
私は、『殺して』しまった。冷や汗が止まらない。お腹が痛い。体全体に冷たいものが伝わる様な感覚がする。
剣人がゲームをするときに横で見ていて、しょっちゅう『殺す』なんていう表現を使っていたけれど。『殺す』という言葉は、全然軽いものではない。
あれが、『殺す』ということなんだ。『死ぬ』って、こんなにも溟いものだったんだ。
ホフゴブリンを殺した私が悪いのか、人を襲うホフゴブリンが悪いのか。私は、絶対に自分が悪いと思っているけど、剣人だったら、『どっちもどっち』なんて言うだろうか。でも、でも、私達人間も、生き物を食べなきゃ生きていけない。浣熊などを害獣と呼び、烏などを害鳥と呼び、蚊などを害虫と呼び、駆除にあたっている。だったらホフゴブリンを殺すのもこれと同じことではないか。こんなことを考える私は最低ではないか、そもそもこんなことを冷静に頭で考えられている時点で───
───私は、狂った人間なのか。
私は何とか2人の方に向き合い、気をしっかり保つようにする。
油断するとまた、罪悪感が流れ込んでくるからだ。
そこで2人は改めて名乗る。両手剣を使っていた少年の方は『ルーク・メイナード』。回復術を使う少女の方は『エレノア・メイシー』と言った。
名乗った後、剣人が色々と聞いた。街まで案内してくれるから、その道中に答えてくれるらしい。私は半ば上の空でそれを聞きつつ、錘が付いた様に重たい足を無理矢理動かし、3人について行った。
道中、『魔物』などに関する説明を聞いた。まず魔物とは、人とは異なる姿をし、武器や知能を駆使して人を襲う『生き物』であること。
『魔石』という宝石を核として魔物の体が作られているが詳しい原理は不明であること、そしてその魔石はギルドや店で換金できるため、魔物を倒すのは小遣い稼ぎ感覚であること。
その説明に胸が痛む。私は間違っていないのか、ここの人達からするとそれが普通なのか。それでも殺してしまっているのだからやはり悪いことなのか。それともこんな風に考えられている時点で私は頭のおかしい人間なのか。
こんな私を、剣人は親友として認めてくれるだろうか。
やはりそこに行き着く。私の胸中は、またしても不安で満たされた。『ここはもう街から近い』と言ったようなことが聞こえてきた。その少し前の話をあまり聞いていなかったが、それを考える余裕もない。
「っと、着いたぜ」
ルークの声に、少し足を止めた。それから、彼が宿を取ると言っているのが聞こえる。漸く、眠れるのか。昼休みに連れ出されたからおそらくまだ13時か14時くらいだろう。それでも、早く寝たい。眠ったら、少しは心の整理がつく筈。ぐちゃぐちゃに散らかった精神を何とか落ち着かせたい。
ルークの案内で、『ラヴ・ストゥール』という、なんとも母性溢れる名前をした宿屋へ連れて行ってもらった。
お金の心配をしたが、ルーク達が払ってくれるそうなのでその点については少し安心した。
受付の人から剣人とクシアが鍵を受け取る。剣人が鍵を開け、私達の部屋に入っていく。2人部屋なので当然広く、ベッドや箪笥もやけに大きい。備え付けの寝着に着替える。その間剣人には部屋の外に出てもらった。一緒にお風呂入ったことも何度かあるけど、流石に高校生だから。
木造だからか、妙に安心できる様な居心地の良さがあったけど、胸中の不安がそれを真っ黒く塗り潰していく。ホフゴブリンを、生き物を殺してしまった。『死ぬ』という言葉の意味すら考えずに。そんな酷いことをした私を、剣人は親友と思ってくれるのだろうか。狂った人間だと断じて拒絶されるだろうか。
もう、真弓の瞳には光など宿っていない。虚ろな目をしたまま、布団に潜り込んだ。真弓の暗い心とは裏腹に、外はまだ、憎らしい程に明るいままだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「…ふぅん」
ここは、とある森。地図にこそ載っているが、わざわざ名をつけるほどのものでもない、小さな森。その森の木の上に、座りながら何かを眺めている少女がいた。黒い手袋をはめた手の上に、何か四角い映像の様なものを出している。
「地球人が瞬殺しましたか。それに、あの人間達も…侮れませんね」
紫の瞳を細めながら、極めて平坦な声で言った。薄い水色の髪に木漏れ日が当たり、煌めく。感情を全く表に出さないその様は、まるで氷の様だ。
「けしかけたのがホフゴブリンと言えど、私の魔力を流し込んだのに。あそこまで一方的だとは」
左腕から紫色の瘴気の様なものを発生させながら言葉を紡ぐ。やはりそうなるか、と。もとよりあのような者どもに、勇者を殺すと言った期待など欠片もしていないが。ただ、何もできずに殺されるのは少し想定外であった。
「もしかすると今代の『勇者』…?」
彼女は、あの2人が勇者であることを考えたが、まだそう断じるには早いと思った。勇者である確証とは『勇星力』だが、今彼等はそれを使ってるかわからない。何故なら、自分は神ではない。神ではないから、勇星力を感知できない。そもそも勇者が地球から来るなど初めてのことである。前例がない。
しかし、彼女は用心深く、念には念を入れる性格であった。まだ勇星力の使い方がわからないだけかも知れないし、そもそもどんな出来事も最初の1回は『前例のないこと』なのだ。何も不思議ではない。そう思った。
結局のところ、わからない。勇者かも知れないし、勇者ではないかも知れない。一応、あの2人が『勇者』であると言う可能性は捨てずに、そう言う想定をしておく。想定しているのとしていないのとでは、備えに大きく差が出るものだ。
「一先ず、報告しなくては」
手のひらに浮かぶ映像を握り潰すようにして消した。木から飛び降り、地面に勢いよく着地する。黒いミニスカートが風で少し捲れ、その次に木の枝や枯れ葉を踏む音が聞こえた。
少女は懐から雪の結晶を模したチャームを取り出す。それを握りしめ、何か念じた様な仕草をする。すると、チャームは雪の結晶を模した巨大な斧に変わった。それに腰掛けると、斧は少し宙に浮いた。
「………」
彼等がいた方角を見つめる。憎悪、怒り、絶望、悲哀───僅かな、希望。様々な感情の色が、眼鏡の奥の紫水晶に浮かび上がり、やがては消えた。 拳を握りしめ、悲痛な表情を見せる。
しかしその表情はすぐに冷徹な真顔に戻る。
そうして彼女は、斧に腰掛けたまま空を飛び立っていった。
ここで真弓達の心情について補足を。
ホフゴブリンを殺したことを後悔するなんて、屠殺の現場を見ていないからそういうことが言えるんです。人間が生き物や植物を大量虐殺していること、人間は他の生き物を常に殺していることを大して意識していないから、今真弓はショックを受けてるわけですね。
ホフゴブリンは地球で言うなら『害獣』ですし、ファンタジーの世界では殺すのは当たり前なわけです。
当然ながら真弓や剣人は屠殺をこの目で見たわけではないし、生き物を殺しているという自覚なんか無しに蟻を踏み潰して生きてるわけですから。2人も蟻は避けて通りますが『蟻を殺したら可哀想』ではなく『死骸が靴底に貼り付いたら気持ち悪い』みたいな思考から来るものですし、どうしても踏んでしまうことはあります。
それを考えたこともないからこうして曇ってます。
あと、剣人に至っては自分の手で刺し殺したわけですから、怖いですよね。人ではない姿だとしても人を包丁で刺し殺すのと何ら変わりません。刺した時の肉の感じ、水音、飛び散る血、苦痛に歪む顔。普通に考えたらトラウマになります。
真弓も同じで、心臓を撃ち抜いたと言う事実を視覚的に捉えているので恐怖して当然です。飛び散った血や苦痛に歪む顔、そんなの見たら絶対に怖いと思います。
こんな感じです。なんか変なところあったら御指摘願います。
『ラヴ・ストゥール』
直訳すると『愛の止まり木』的なやつです。
2022/09/24 話の流れを1部修正しました。