表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の最高神に勇者として呼び出しくらった話  作者: Monica
第1章 増え続ける魔物の謎
4/22

第4話 出会いと曇りと陰りと

前回のあらすじ


ローズレイ国のなんか二重の意味で偉そうなとんでもないレベルの美女がゼウスと会話。

美女は何か策を講じた様です。


今回は難産でした。

次回は真弓視点で、その次は閑話をちょっと挟んでいこうと思います。


それでは、お楽しみくださいませ。



ローズレイ国、とある草原。2人の男女が呆然とした様子で座り込んでいた。

その者達の名は、『剣人』と『真弓』。

ステラリースを救うために、ゼウスが強引に連れてきた、正真正銘の『勇者』である。


「…どうするよ?世界を救えったって、何すりゃ良いのか…」

「と…取り敢えず、人里を探そうよ。今日泊まる場所や食べ物が無いと、どうにもなんないよ」

「おう、そうだな。服も制服以外持ってきてないから、服の替えも幾つか欲しいし」


ゼウスから『世界を救え』とは言われたものの、何からすべきか。一先ず、人里を探すことを提案する真弓。それもそうだと剣人が頷いた。

一刻も早く安定した衣食住を手に入れたい。


「…で、どうやって探すんだ?」

「えっと…」


そう、問題は人里を如何にして探すかである。

今はまだ日中とは言え、人里を探し、その上で事情を話し泊めてもらう交渉をする必要がある。

もし中々わかってもらえなかったとしたら、人里を探すのに時間を掛けるのは悪手だ。2人はそう判断した。

ましてや今いる場所は周りに木や岩、草花しかない、ただただ広い草原。

正しく『右も左もわからない』状況だ。


「どうしよう…」


早速行き詰まる2人。周りに家屋など何も無い草原でどう人里を探せというのか。

今の2人の気分を例えるとするなら、ケーキの材料と完成した写真のみを与えられ、『これと全く同じケーキを作れ』とだけ言われている様なものだ。


「マズイな…ここで俺達野垂れ死にかよ…⁉︎」


いよいよ絶望しかけた、その時。


「………」

「え…⁉︎あなた達は…?」

「何だ…これ?」


──突如として2人の目の前に、光りながら宙に浮く何かが2つ現れた。

その何かは、しきりに指を指して何かを伝えようとしている。


「もしかして、あっちに人里があるの?」

「俺達を案内してくれようとしてんのか?」 


2人の問いには答えず、急かす様に指を指している。

とにかく、その方向に何かがあるらしい。


「取り敢えず、行ってみようぜ!動かなきゃ何も始まらねぇよ!」

「それもそうだね…!妖精さん、お願い!」

「…『妖精さん』?」

「うん、だってなんか似てるでしょ?」

「…確かに」


真弓の言う通り、その光る何かを定義づけるとしたら『妖精』であろう。よく見れば小さな人間の様な形をしており、服を身につけていた。ご丁寧に羽まで生えている。


「あっちだ、行こう!」

「ちゃんと交渉したらわかってもらえると良いんだけど…」


『妖精』の指す方向に率先して向かおうとする剣人。まだ人里を見つけてもいないうちから泊めてもらう為の交渉を考えている真弓。

2人は一先ず、『妖精』の案内に従うことにした。




目の前を飛ぶ『妖精』についていく2人。

だがやはり、走っても走っても草原が広がるばかりで、人里どころか家屋の1つも無い。


「おい、本当にこっちで合ってんのか?」

「………」


不安になった剣人が『妖精』に尋ねるも、帰ってきたのは『無視』である。


「おい、シカトすんなよ…現状、こっちはお前らしか頼れるのがいねぇんだぞ?」


いつまでも無言を貫く『妖精』達に、殊更不安になってきた剣人と真弓。


「もしかしたら凄く遠い位置にあるのかな…」

「だったら余計急がねぇと!」

(本当…後先考えずに行動するところあるの変わってないなぁ…)


真弓が遠い位置にあるのかもしれないと言い、尚更急がないとと歩を速める剣人。

その様子に真弓は内心呆れつつも、早く人里に辿り着きたいと思う気持ちは同じで合った。


「何か乗り物でもあると良いんだけ」

「うわあっ‼︎」

「「⁉︎」」


───突如として、誰かの叫び声が聞こえた。

その声は男のもの。何やら非常に切羽詰まった様に聞こえる。


「何…?誰の声…⁉︎」

「取り敢えず、向かってみよう!」


訝しむ真弓を剣人が先導していく。

『妖精』達もその方へ向かう。正確には、『妖精』達が2人をその方へ先導しているのだが。


「あれは…⁉︎」


辿り着いた先には。


「くっ…このっ!」


2人の男女が、異形を前に戦っていた。

少年の方は大きい両手剣を持ち、少女の方は天使の翼をあしらった、カモミールの花がついた杖の様なものを持っている。

しかし、少女の方は攻撃している様子は無い。異形の攻撃を必死に避けながら杖を振るう。すると、少年の傷が癒えていく。

だが。


「きゃあっ!」

「エレノア‼︎」


異形が、『エレノア』と呼ばれた少女に傷をつけていく。聞こえてきた悲鳴に、少年は弾かれた様に反応する。その傷は致命傷とまではいかなくとも、放っておくと駄目なものだとはわかる。しかし、少女は自分の傷を放置し、少年を回復させる事に集中している。


「どうなってんだ…⁉︎あの、ゴブリンみてぇなのはなんだよ⁉︎」

「本当に異世界だったんだ…」


今まで『異世界』と言う単語に半信半疑だった真弓達だが、目の前の豚の様な異形の化け物を目にして、やっと認識が切り替わった。自分達は、本当に『異世界』にいるのだと。


「って、ヤベェぞ!早く助けねぇと…」

「でも、どうやって⁉︎私達、武器も何も持ってないよ⁉︎」

「取り敢えず、俺がなんとかする!真弓は下がってろ!」


大切な幼馴染に傷をつけるわけにはいかない。

かと言って、目の前の2人を放っておけるわけもない。剣人は、常に他人のことを考え、大切に思う。しかし、後先を考えずに行動する無鉄砲なところが、彼のほぼ唯一にして最大の欠点である。


「おらっ!」


一先ず、化け物からあの2人への注意を逸らすべきだ。そう考え、化け物の真後ろの位置から石を投げた。


「ギャッ!」


石は化け物に命中し、化け物は怒ってこちらを振り向いた。途中まで追い詰めていた2人のことなどお構いなしに。そしてそれは、剣人の狙い通りでもあった。


「ほらほら、こっちに来い!」


化け物を煽りながら、2人から遠ざかる様に動く。

剣人の化け物に対する第一印象は、『ゴブリン』。

今まで地球でRPGゲームをしてきた剣人の経験に基づくと、ゴブリンなどの所謂『序盤に出てくる』モンスターは知能が低く、単調な攻撃しかしてこない。故に、石をぶつけた時にその方を反射的に振り向くとして、ゴブリンの様なものの真後ろをとった。そして狙い通り、ゴブリンの様なものは両手剣を使う少年と回復術を使う少女の事を放って、剣人を追いかけた。

ゴブリンの様なものをどうやって撃退するかは考えていない。頭にあるのは1つ、幼馴染への信頼であった。


「もうっ、剣人…⁉︎ほら、今のうちにこっちへ!」

「え?お前は一体…」

「良いから早く‼︎」

「お、おう…カミレ!お前も!」

「は、はい!」


剣人がゴブリンの様なものを引きつけている間に、真弓が2人を連れて離れる。剣人が分担作業を行うつもりと言うことは、口にせずともわかっていた。


「どうするつもりなの…?剣人…!」


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「ほらっ!こっち来い!」


走りながらハリのある声を出す。とにかく遠ざけなければならない。だが、このままではどうにもならないことはわかっていた。

ゴブリンの様なものの足は遅い。一方で剣人の足はかなり速い。中々追いつけないことに痺れを切らしたのか、焦った顔を見せる。その場で立ち止まり握り拳を作って、唸り出した。


「グゥオオオオオ‼︎」

「はっ⁉︎」


すると、ゴブリンの様なものは紫色の瘴気を身に纏う。次の瞬間、彼は巨大化した。剣人の背丈の2倍程もある。


(くそっ…このサイズはふざけてるだろ‼︎)


走りながら対抗策を考える。幸いにも敵の注意はまだこちらに引きつけられており、敵は1体だけだ。ゴブリンの様なものはとにかく、『目の前のモノを殺す』ために必死に歩いている様な形相である。まるで、相手を殺さなければ自分が殺されるとでも言わんばかりな鬼気迫る顔をしている。


(俺が何とかしないと…!俺が引きつけたんだから、俺がどうにかすべきだ!真弓に背負わせるわけには…)


自分で蒔いた種は自分で拾わなければならない。

そう考え必死に武器を探す。しかし、どれだけ走っても見つからない。体力も限界に近づいてきた、その時。


「なっ⁉︎危ねぇぞ、離れてろ!」


目の前に、2人を導いてきた『妖精』のうち1人が現れた。剣人の目の前にピッタリ張り付きながら、飛び続ける。


「………」

「危ねぇから、離れてろって‼︎」


『妖精』は無言のまま飛んでいる。

剣人は、目の前の『妖精』がゴブリンの様なものをどうにかできるとは思っていない。

剣人のイメージする『妖精』は、回復魔法や支援する系統の魔法を使うものだ。全く攻撃できないわけではないだろうが、『妖精』が率先して武器を取ったり魔法を放って戦うイメージは剣人には無い。


「くそっ…こうなりゃ、石を投げまくってでも戦ってやる!」


ずっと逃げていても無駄だと悟り、まともな武器が無くとも戦うことを決意する剣人。その様子に、

『妖精』はそっと目を細めた様に見えた。

しかし、それを気にしている余裕は剣人には無い。

石を拾おうと、周りに手を伸ばして───


「うわっ⁉︎」


───突如、『妖精』が光りだした。眩い光に包まれ、『妖精』の体が見えなくなる程である。

これにはゴブリンの様なものも驚き、目を手で覆っていた。

そうして『妖精』を包んでいる光は消えていった。それは5秒にも満たぬ僅かな時間だったが、確実に敵の思考を一時的に停止させ、大きな隙を作り出した。そして、剣人の目の前には。


「…これは…剣、か?」


1振りの剣が転がっていた。一体何故?さっきまで武器など周りに無かったはず。まさか、あの『妖精』が剣に姿を変えたのか?

コンマ1秒間思考し、剣人は考える事をやめた。

何故剣が現れたか考えたってしょうがない。

それよりも今は、せっかく与えられた武器を使って

早々に敵を撃退すべきだ。

きっと『妖精』がくれたのだろう。

そう結論づけ、剣を手に取った。


「これ、で…あいつを……はっ!」

「ギャアアッ‼︎」


剣人はゴブリンの様なものの脚を渾身の力で斬りつける。敵はそれだけで悲鳴をあげ、のたうちまわった。


「……んのっ…‼︎らァ‼︎」


確実に倒すため、脚をつたって登り、心臓の辺りに剣を翳す。鼓動が速い。手が震える。冷や汗が止まらない。フー、フー、と呼吸が荒くなる。自分は今から、()()()()()()()()

コイツは、人に害なす悪だ。だから、殺さなければならない。今ここで殺さなければ俺達が殺されるんだ。仕方ないことなんだ。

これだけの量の()()()を一瞬で思考し、否、()()()()()()()、しっかり貫いた。刹那、剣全体が金色の光を纏った様な気がした。ぐちゃっとした音が響く。


「ギャアアアア…」


ゴブリンの様なものは断末魔をあげ、黒い霧となり宙に消えていく。

後に残ったのは、腰に巻いていた布と()が手にしていた武器、一欠片の宝石のみだ。


「はぁっ、はぁっ…」


冷や汗を流し、息を荒くする剣人。

───殺っ、てしまった。生き物を。

『殺す』などと言う表現は、普通に使う。しかしそれはあくまでもゲームなどでの話だ。『早くこいつを殺したい』だとか『さっさと殺っちまえ』などと言えるのは、それが架空の物だからだ。現実ではない。

剣人の手には、はっきりと殺した感覚があった。肉の裂ける音、血液によって起こる水音、苦痛に歪む表情。全てはっきりと覚えている。手の震えが止まらない。もしかして自分は、とんでもないことをやってしまったのではないのか。

自分が当たり前に使っていた『殺す』と言う言葉が孕む危険性を真に理解した。


「剣人ー‼︎」

「‼︎真弓…」


突如聞こえてきた幼馴染の声に、意識を現実に呼び戻す。そうだ。真弓達のことをすっかり忘れていた。

あの2人のことを、ちゃんと逃がせたんだろうか。

自分がいない間に、危険な目に遭っていないだろうか。

しかし、今はそれ以上に、『殺してしまった』。

そのことに対する負の念が強すぎて、剣人の思考はもう限界であった。


「まゆ、み…ちゃんと、あの2人を逃がせたのか?」

「あ…えっと…」


なんだか歯切れが悪い。もしかして、あの2人に何かあったのだろうか。

剣人が更に負の念を強めていると。


「おーい!お前達!」

「!よかった…」


両手剣を使っていた少年の声が聞こえてきた。

その声に一先ず安堵し、走ってくる2人の姿を見て安心しきったのか、力が抜けて座り込んでしまった。


「ありがとう…!ありがとうな、お前ら!」

「凄かったです!あんなに綺麗に魔物を倒せるなんて…!」

「え…お前ら、見てたのか?俺が…その…」


───『魔物』を殺した、ことを。そう言おうとした。

だが、上手く二の句が告げない。


「いえ、貴方ではなく、そちらの女性の方が…」

「あぁ!見事な弓さばきだったぜ!」

「…!真弓、が…?」

「………っ‼︎」


『エレノア』と呼ばれた少女が、魔物を倒したのは真弓であることを告げる。

少年の言葉から察するに、もう1人の『妖精』が、自分と同じ様に真弓に武器を与えるかしたのだ。

そのことに剣人は少なからず動揺し、真弓は『悲壮』を顔面に張り付けて、今にも泣きそうな顔をしていた。


「あっ、貴方もホフゴブリンを倒したんですか?流石です!」

「オレらだけじゃどうにもならなくて、困ってたんだよ…助かったぜ!」

 

2人は至極当然の事かの様に、『殺してくれた』ことに感謝する。それを聞いて、剣人はなんとも言えない様な表情を浮かべていた。

この世界では、これが普通なのだ。

考えてみれば当たり前である。彼等は武器を持ち、人を襲うのだ。その目的は不明だが、自分達の生活を理不尽に奪われたくはないだろう。『奪われる前に奪え』ということか。


「…あれ?お前ら…名前何つったっけ?」


ふと、少年が剣人と真弓に名前を聞いてきた。


「あ、あぁ…俺は剣人で、こっちが真弓だ」


一瞬驚いた後、剣人は2人分名乗る。真弓は手足が震えていて、泣き出しそうな顔をしていた。とても名乗れる精神状態ではないと判断したためである。


「俺はルーク!ルーク・メイナードだ。よろしく!」

「私は、エレノア・メイシーと言います。宜しくお願いしますね!」

「おう、宜しく」


その2人───ルークとエレノアも名乗った。


「えっと、なんて言ったら良いか…道に迷ったんだ。ここがどこかもわかんなくて…」

「んぇ?名前からして菊桜郷の出身だろ?よくここまで来れたな」

「あぁ、えっと…取り敢えず遠くの国を目指してきたから、この辺のこと知らないんだ」


成る程なぁ、と呟くルーク。少々苦しい言い訳だったがどうやら納得してもらえた様だ。『菊桜郷』など初耳だが、今はそれに構っている場合ではない。


「ここは『ローズレイ』って国だ。よく菊桜郷からここまで来れたな。多めに見積もっても10000kmはあんのに」

「取り敢えず、長旅でお疲れでしょうから、宿屋に案内いたしますよ。こちらです」


そうして、4人は歩き始める。約1名、覚束ない足取りで俯いたまま。


「あのさ…アイツらは何なんだ?」


剣人は最大の疑問を口に出す。何故戦っていたのか、そもそもあのゴブリンのようなものはなんなのか。


「んん?『ホフゴブリン』のことか?魔物の一種だな」

「魔物…」

「あぁ、魔物というのは人ならざる姿をし、人ならざる力を使うことのある、人を襲う生き物のことです」


やっぱり、生き物なんだ。

先程ホフゴブリンを殺した時の後悔が、心臓に纏わりついてくる様だ。


「防御するために服を着たり、武器を自分で作ったりもしますね…それから、倒されると『魔石』を落とします」

「魔石?」


また聞き慣れない単語だ。剣人は素直に聞き返した。


「魔石というのは魔物を倒すと出てくる、魔力を秘めた宝石のことです」

「ギルドやそこら辺の店で換金できるんだぜ。

武器の強化とかにも使うし、すげぇ便利なんだ!」

「そう、なのか…」


『魔石』と『魔物』についての説明を1通り聞き終えた。どうやらこの世界は、魔物を倒しそれで得た魔石を換金して生活する者がいるようだ。


「んで、魔物退治やらを生業とするのがオレ達『冒険者』ってなわけよ」

「先程は偶然でしたけどね…少し散歩してたら、偶然集団にに出くわしてしまったんですよ。本当に助かりました」

「そういうことか…ん?街の近くってことは、ここって街から近いのか?」

「あぁ、あと5分も歩けばすぐ着くぜ」


何てことだ。あれだけ走っていて、もうすぐで着けるというところで魔物に邪魔されたのだ。

なんて間が悪いんだ。剣人は心の中で悪態をついた。魔物と会っていなければ、魔物を殺して罪悪感に纏わりつかれることもなかった。

───真弓が、心に傷を負うこともなかった。

剣人は未だ俯いたままとぼとぼと歩いている幼馴染に目を向ける。

剣人は心配で仕方がなかった。幸い、自分はすぐに切り替えができた。剣人としてもあの感触は気持ちの良いものでは全くない。全くないのだが、自分でも驚くほど冷静になれていた。


だが、真弓はどうだ。真弓は誰よりも心優しい。それは、育った環境がそうさせてきた。刺激的なものや過激なものなど一切見たことがない。だから真弓は性知識も極端に少なく、暴力的なものを忌避するわけだ。

当然、生き物をその手で、かつ『自らの意志で』殺したことなんかあるわけない。

有り体に言えば、『箱入り娘』である。


ルークとエレノアを守るために仕方がないとは言え、自分の手で殺してしまったのだ。

クシアの言葉から察するに、弓を使って。

どれだけ悲しんだか。どれだけ自分を苛んだか。もしかしたら、飛び散る血液を目の当たりにしたのかも知れない。それがトラウマになっているのだろうか。剣人には、真弓の背中に『後悔』や『罪悪感』という名の亡霊が、肩に腕を回して背中に引っ付いている様に見えた。

それ程までに、今の真弓は憔悴し切った様な顔をしているのだ。


「っと、着いたぜ」

「!」


ルークの言葉に、意識をそちらの方に向ける。

すると、家屋が立ち並んだ場所に着いた。


「ここが、オレ達が拠点にしている街、『アンスリウム』だ」


多くの人が行き交い、賑わっている。しかし派手な雰囲気もない。雰囲気は正しく、『田舎』以上『都会』未満と言ったところか。

剣人は、なんだかイギリスみたいだなと思い街並みを眺めながら、ルークの後について行く。


「あぁ、見えてきたな。あそこに見える茶色い建物が宿屋だ」


宿屋『ラヴ・ストゥール』。看板にはそう書かれていた。こじんまりとした暖かい雰囲気の宿屋である。

中に入り、宿を取ることにした。諸々の手続きはルークがしてくれている。


「いらっしゃいませ!お部屋のご希望はどうなさいますか?」

「2人部屋を2つ頼む。一泊だ」

「畏まりました。2ペタルダとなります」


とんとん拍子に話が進む。どうやらルーク達が全て払ってくれるらしい。自分達はこの世界の通貨を持っていないので有難い話だ。


「ほい、部屋の鍵。オレたちの部屋はすぐ隣だからな、なんかあったら言えよ」

「わかった。ありがとう、ルーク」

「良いってことよ。晩飯は自分の部屋で食べられるようにしてもらったから。んじゃ、ちょっと早いが…おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみなさい、ケント、マユミ」

「…うん、おやすみ」


寝る前の挨拶を言い合い、部屋に入って行く。備え付けの寝着に着替え、早々にベッドに入ることにした。多分まだ、13時か14時くらいだろう。寝るには早すぎるが、心も体も疲れているから、とにかく寝たかった。けれど、色んなことがありすぎて、眠れない。魔物を殺したことも、街のみんなからのあらゆる視線も。

だが、それ以上に剣人は。

瞳に暗いものを宿した幼馴染が、心配でならなかった。



新キャラの容姿解説


『ルーク・メイナード』

・茶髪。雑に切りそろえたショートヘア。ちょっとツンツンした感じ。

・黄色い眼

・両手剣使い。

・身長 178.2㎝


『エレノア・メイシー』

・薄い金髪、ふんわりとした胸の辺りまであるミディアムロングヘア

・若草の様な黄緑色の瞳

・カモミールの花を模したリボンを髪につけている

・天使の羽をあしらい、カモミールの花をつけた杖を持っている。長さは1メートル弱。

・身長 159.1㎝


ローズレイ国のモデルはイギリスです。


2022/09/23 話の流れを1部修正しました。

2022/12/15 話の流れを修正しました。

2022/12/25 キャラクターの名前を

クシア→ルーク カミレ→エレノアに変更しました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] すると、クシアは思い切り息を吸い込んだ。 「…?クシア?何して」 「おおぉーい‼︎みんなぁぁぁ‼︎聞けぇぇぇ‼︎」 ───突如、大音量で叫び出した。 の部分なのですが、『すると、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ