第2話 心の準備くらいさせて??
前回のあらすじ
普通に平和な高校生活を送っていた、剣人と真弓。
ある時、生徒指導室に呼び出された。特に呼び出されるような事も無いはず、と首を捻りながらも向かうと…そこには宇宙が広がってた。何で?
今回は真弓視点です。
それでは、お楽しみくださいませ。
私達の目の前には、宇宙が広がっていた。
そう、宇宙。誰がどう見ても宇宙。
まごう事なき宇宙。完全に宇宙。
(プラネタリウムの投影器…?いや、違う)
一瞬、プラネタリウムに使われる投影器でもあるのかと思ったが、すぐにその考えを打ち消す。
学校にそんなものがあるわけないからだ。
どうしてこんなことになってるんだろう。
いくら考えたところで答えは出ない問いを、頭の中で繰り返す。
いつも通りの日常だ。いつも通りだったはずだ。
剣人の家の前で待ってて、お弁当を渡し、世間話でもしながら登校。クラスの人からの『今日も夫婦で登校かよ』なんて揶揄いを軽く聞き流して、親友たちに挨拶。テレビの話とか、新しくできたカフェのマカロンが美味しいだとか、そんな他愛もない話をして。いつも通り授業を受けて、いつも通り、剣人と親友たちと一緒に机を囲んでお昼ご飯を食べる。
_____ここまではいつも通り。
何故か、生徒指導部の『水原 香』先生から呼び出された。何故?特に呼び出される様な事をしていないはず。しかも、剣人と2人でだ。
私達は所謂『優等生』。当然、粗相なんてしない。委員には入っていないし、係の仕事だとしても生徒指導部の先生から呼び出されるのはおかしい。私が知らないうちに何かしたのだとしても、剣人が不良行為をするなんてあり得ない。
剣人はずっと、私のヒーローなんだから。
これまでに何度、剣人に助けられてきたか。風の噂で私のファンクラブができていると聞いたが、私からすれば剣人がモテていないことの方が不思議だ。
優しいし、カッコいいし、誰にでもフレンドリー。おまけに面倒見が良いときている。これだけモテる要素が詰まってるのに、ラブレターが渡されたとか、告白されたとか、そういう話は聞いた事が無い。高校生なんだし、彼女の1人くらいはできていてもおかしくないのに。
_____違った。そうじゃなかった。
変な方向にすっとんだ思考を元に戻す。
今考えるべきなのは、何故生徒指導室の一面に宇宙が広がっているのか、だ。
「…ッ⁉︎剣人、後ろ!」
ふと見回してみると、とんでもないことに気がついた。
「‼︎…何でだ…?何で、入り口が消えてる…⁉︎」
入ってきた入口が跡形も無く消えているのだ。
そして、下を見ると。
「床が…無い⁉︎」
そう、床も消えている。天井から壁一面、床に至るまで宇宙が広がっているのだ。
けれど、床を踏む感覚は確かにある。
「どういう事だよ…⁉︎もうこれ、なんかの仕掛けがあるとかじゃねぇだろ!」
「これはいよいよ、投影器だとかで済ませられなくなってきたね…」
信じたくはないが、今私達は本物の宇宙の中にいるのだろう。そうとしか考えられない。
『生徒指導室はどうなってるか』とか、そもそも学校はどうなってるのか、考えても全くわからない。
「何で…こんな事に…」
答えが得られない、答えてくれる者なんていやしないと思ったが、それでもこの疑問を口にせずにはいられなかった。しかし___
___「それは、私の力でここと私達の世界を同化させたからよ〜」
「「⁉︎」」
____その問いに、答える者がいた。
「…あんたは…誰だ?」
真っ先に反応したのは剣人だった。私は、驚きすぎて声も出なかった。
声のした方を見やると____
「初めましてかしら〜、今代の勇者達。私は…
そうね、本名は名乗れないのだけど…称号くらいならば良いかしら〜。『ゼウス』よ。そう呼んでちょうだい。神としての位は最高位なのだけれど、あなた達は救世主だもの。タメ口で良いわよ〜」
──天女がいた。
まるで伽話に伝わる天女の如く、神々しい女性がいたのだ。純白の美麗な衣装、女性らしい華奢な体。ふんわりとボブカットにされた髪は光り輝く様な美しい金色で、蜂蜜の色ともトパーズとも言える金色の瞳は優しげに細められていた。
そのあまりの荘厳な美しさに、暫く声も出なかった。『喋る』という行為を忘れてしまったかの様に。
「『今代の勇者達』…?どういう、ことですか…?」
暫くその女性──『ゼウス』に魅入っていたけど、この混沌とした状況にも慣れて、少し余裕が出てきたため、私が質問してみる。
色々と聞きたいことはあったけど、1番気になる部分を聞いた。
「言葉通りの意味よ〜。『勇者』は何代も続いている…そして今回の勇者にピッタリだったのがあなた達。それだけの話よ〜」
「その、『勇者』ってのは何なんだ?俺たちに世界を救えとでも?」
「ええ、『勇者』とは世界を救うためだけに存在する。あなた達には、私達の世界を救って欲しいのよね〜」
何故私達が『勇者』に選ばれたのか、『ゼウス』の本名とか、そもそも『ゼウス』って男神じゃなかったっけとか、疑問は尽きないけれど、次に気になった部分について聞いてみることにした。
「『私達の世界』ってのは何なの?貴女は…もしかして異世界の人なの?」
そう、かなり気になっていた『私達の世界』という部分。その口ぶりからして、日本…ましてや地球のことではないだろう。もしかして、今流行りの
『異世界』というやつだろうか。
「あらあら、存外質問が多いのね。まぁ、この状況じゃ仕方ないかしら〜…」
「良いから答えて!この質問と、あと1つは答えてもらうから!」
怖気付いちゃいけない。知りたいことは知れるうちに知っておかなければ。取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。だから、多少強気に出てでも質問する。
「わかったわ〜、まず…私達の世界というのは、あなた達が察している通り、地球のことではない。
地球とは全く別の次元に存在する、地球とは似て非なる惑星…『ステラリース』のことよ〜」
「『地球とは似て非なる』…⁉︎どういう意味だよ⁉︎」
今度は剣人が質問する。けれど、私が本当に聞きたいことはそれじゃない。『ゼウス』は二つ目の質問に換算してしまうかもしれない。そうなっては、私が本当に聞きたいことは聞けない。
「それをあなた達が知る必要は無いわ」
「はぁ⁉︎何だよそりゃ…「待って剣人!」」
「真弓…⁉︎」
「ごめんなさい、ゼウス。もう一個だけ答えて!
どうやって私達を呼び出したの…⁉︎」
そう、これも聞いておきたかった。水原先生に呼び出されたはずなのに、その水原先生はどこにもいない。生徒指導室に入った時はそんなところまで頭が回らなかったけど、余裕が出てきたおかげで気になったのだ。多分、この人と会えるチャンスはもう無い。あるとしても…相当先になるだろう。そう見越して、私は質問した。
「あぁ、そんなこと?『水原先生』の体を一時的に借りて呼び出しただけよ。『放送室』とやらには行ったのだけれど、機器の使い方が全くわからなくって…直接呼び出す事になったわ。『たいみんぐ』?が分からなくて御免なさいね。何やら机に布を引いていたりしたけれど、大切な用事だったのかしら」
「あぁ、いや…昼メシを食う準備をしていただけで…ていうか、は?体乗っ取った⁉︎」
聞き捨てならない言葉に剣人が反応する。
今なんて言ったこの人?水原先生の体を借りたって言ったの?
「良かった、『たいみんぐ』の使い方は合っているようね。っと…そんなに大それたことはしてないわよ?私という存在を精神体と肉体に分離して、『水原先生』の精神体を隔離、それからその人の体に入っただけだもの〜…」
「やべぇ、何1つわかんねぇ…」
「それと、水原先生の安否なら心配しないでちょうだい。この学校の人間全員の認識を『水原先生は貧血を起こして保健室で休んでる』っていう風に書き換えたから。水原先生は『保健室』という場所に転移させたわ」
「サラッととんでもないことしてない⁉︎何、『認識を書き換えた』って⁉︎」
最早聞き捨てならない言葉のオンパレードだ。
学校にいる人間全員の認識を書き換えた?
水原先生を保健室に転移させた?
先生の体を一時的とはいえ乗っ取っただけでも驚きなのに、そんな事がいとも簡単にできてしまうなんて。情報量が多すぎて頭が痛くなってくる。
「もう質問は無いかしら〜?それじゃあ、転移させるわね。ステラリースの幾人かに話は通してあるから、安心して良いわよ〜」
「ちょっ待って、心の準備が…」
「安心できることなんて何も…」
──そこから先の言葉は、紡がれることはなかった。
「うふふ、頑張ってちょうだいね、勇者達〜…
強くなって、アイツらを倒して…どうか、『あいつ』を消滅させてちょうだい。」
___ドサッ
気がつけば私達は、綺麗な草原にいた。可愛らしい花々、足首の付け根まで届く草を、風が揺らしていく。そよ風が私達の頬を撫でるなか…私達の思いは、1つだった。
「「いきなりすぎるだろ(でしょ)‼︎」」
もう少し、心の準備というものをさせてほしかった。
感想拝見しました。すごく嬉しい…
モチベ爆上がりです。ありがとうございました。
ここで、本編には殆ど出てこないであろうキャラを紹介していきます。
『水原 香』
生徒指導の先生。担当教科は英語。自分にも他人にも厳しい先生だが、根は優しいので生徒からの人気は高い。
暗いところが苦手。ゼウスに体乗っ取られました。
『瀬川 透』
剣人の親友。父がフランス人でハーフ。普段目を閉じている(糸目)金髪ストレートショートの美少年。しかし中身はゴリゴリのオタク。アニメ、漫画、ゲームには目がない。推しを語る時には目がかっぴらく。最近は光属性と闇属性のおねロリ、獣耳メイドにどハマり。BLもGLもNLも好きな雑食性。
『宮崎 雄吾』
剣人の親友。
ザ・体育会系。自他共に認める体育会系。どこからどう見ても体育会系。紛う事なき体育会系。とにかく体育会系。
一見して強面だが、普通に良い人。漫画でも悪役の悲しい過去を見ると同情する。場合によっては涙ドバー。
モテない事が最大の悩み。でも嫌われているわけじゃない。
『水瀬 五喜』
底抜けに明るい性格をした真弓の親友。運動の申し子で、ヒップホップダンスをやっている。ほぼ遅刻ギリギリに来るため、たまに早く登校するとみんなから『矢の嵐でも起きるか』『剣の雨でも降ってくるか』などと言われている。ふわふわした癖っ毛ロングヘアのため、梅雨の時は爆発が起こるのが悩み。
眉が見えるぱっつん前髪にハーフツイン。
『天宮 翠』
真弓の親友。
黒髪を耳の上くらいの位置でツインテにしている。
ピアノを習っており、音楽方面の知識が豊富。あまり人に頼りたがらず、『自分にできることは自分の力だけでやる』がモットー。真弓や五喜に素直に甘えられないのが悩み。本当は2人の事大好きなツンデレちゃん。