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探偵ではない重村正(かさね むらまさ)は拒絶する  作者: 佐久間零式改
絵は黙して語らぬもの
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絵は黙して語らぬもの 其の二

 あの時は勢いで受けて立ってしまった。


 俺は何故デートをする事になったのだろうか。


 山名豊香という3年の先輩と。


 向こうは、俺の事をある程度、いや、それ以上に知っている気配がある。


 だが、俺は山名豊香と言う人物について何一つ知らない。


 調査しようと思えばできたのだけど、そこまでする必要性を感じなかったため、調べてはいなかった。


 山名豊香が指定したのは、日曜日の午前十時に木曽ヶ原駅の改札前で待ち合わせ、という事だった。


 当日、どこで何をするのかなどか全く聞いてはいない。


 ようは、山名豊香に為されるがままなのが、本日のデートである。


 何かよからぬ事を企んでいるとは思えないので、普通にどこかに行ったりするだけなのだとは思うのだが。


「君は律儀なのだね」


 午前九時五十二分。


 改札前に九時五十分に到着していた俺に、晴天の中、山名豊香は通学路の方から存在感を感じさせながら、ゆっくりと歩いてくるなり、にこやかな笑顔でそう声をかけてきた。


「遅れたら何をされるか分かったものではないですからね」


 山名豊香は何故かしら学校の制服を着ていていた。


 学校で何かしらの用事でもあったのだろうか。


「私が君を取って食うような妖怪か何かに見えるのかい? もしそう見えているのだとしたら、君の目は腐っているとしか言い様がない」


 豊香は愉快そうに右側の口角を上げた。


「いえ、あなたという人物は俺にとっては未知数です。計りかねるといったところですかね」


「私は3年生の間では奇人変人に分類されてはいる。そのように思われてはいるものの、一応は常識をわきまえてはいるつもりだ」


 奇人変人と思われている事が嬉しいのか、不服ではなさそうだった。


 俺をデートに誘うまでのやり取りで分かっているものの、やはり山名豊香はどこか感性がずれた人物のようだ。


「何かしでかしたのですか?」


「いや、日頃の行いだ」


 日頃の行いから奇人変人と目される。


 そう見られるだけの何かが山名豊香には何かあるのだろうか。


「それにしても……」


 これでこの話は終わりだと言いたげに山名豊香が俺の事を上から下まで値踏みするように流し見た。


「何故、制服ではないのだ?」


 と、不服そうにぼやいた。


「は?」


「学生時代は制服デートに憧れるものだとの助言をもらっていたのだが、君は違うのか? 制服デートなどしたくはなかったのか?」


 俺の事を不思議な物を見つめるような目で見始めた。


「俺にはそんな憧れはない」


 そもそも制服デートなどという発想がなかった。


 山名豊香という人物の思考回路は掴みづらいと言わざるを得ない。


「今年で高校生活が最後の私は、一度は経験しておくべきかと思い、制服を着てきた。それではまるで私が初デートで浮かれているようではないか」


 心外だと言いたげに眉間に皺を寄せ、多少怒ったような表情をして見せた。


「ん? 山名さんは……」


 言いかけたところで、右手を前に出されて、


「山名さんとは他人行儀な。豊香、あるいは、豊香さんで良い」


 と、俺の発言を制された。


「そう呼ぶような仲ではまだないような……」


「いやいや、デートをするような仲だ。そう呼んでいい間柄になったとも言えるのではないか?」


「……はぁ?」


 様々な人物を見て来たけれども、山名豊香という人物はどこかつかみ所がない。


「……それはいいとして、今回が初デートなんですか? 嘘とか冗談ではなくて」


「肯定しよう。今回が初デートだ。そして、当然の事だが、男性経験はない」


 山名豊香は胸を張って、そう言い切った。


「はぁぁ?」


 俺はついつい素っ頓狂な声を上げてしまった。


 山名豊香が何者であるかを知るためには、もっと時間が必要だという事が分かり、俺はこの女とデートしなかった方が良かったのではないかと後悔し始めていた。




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