絶望へ
突き付けられた件をまじまじと見つめ、再びエドガー大臣へと視線を戻すガイル国王。
ケインは腰の剣を引き抜きエドガー大臣――否。エドガーへと突き付け叫ぶ。
「エドガー貴様! 自分が何をしているのか分かっているのか!?」
ケインの部下も剣を引き抜きエドガーへと突き付けるも、エドガーの部下も同様に剣を抜き構えた。
ケインの言葉にエドガーは答える。
「分かっていますよ」
ガイル国王はエドガーへと問う。
「エドガーよ。前々からこうするつもりだったのか?」
ガイル国王の視線がエドガーを射貫き、エドガーは笑みを浮かべながら答えた。
「ええ、全ては“ドグマ”の為に」
「ドグマだと……? 貴様もしや!?」
ドグマ。
それは裏の世界を支配する組織のこと。
「何時からドグマに?」
「元から――いえ。十年前からですね。いまではこうして最高幹部であるナンバーズにまで上り詰めましたよ」
「ナンバーズ……」
その言葉はガイル国王やケインですら聞いたことがあった。
ドグマの最高幹部はナンバーズと呼ばれ、実力は最強クラスということを。
「陛下を裏切るのか?」
「裏切ってはいませんよ、元から私はドグマ――いや、この場合は邪神様に忠誠を誓ってますから」
「邪神……そこまで堕ちたかエドガー」
ガイル国王の呟きはエドガーやケインの耳にも届いていた。
「私を殺して何をするつもりだ? 本当に革命か?」
「革命と言えば革命ですね」
いまいちエドガーが何を言いたのか掴めないガイル国王達。
エドガーは続ける。
「この国をドグマの物にし、民を邪神の供物へと捧げる。それこそが私の目的。だから陛下、あなたは邪魔なので消えていただきます。安心してください。王妃も子供も一緒にすぐにあなたの下へと送ってあげますから」
笑みを浮かべるエドガー。
「ふざけるな!」
ケインの叫びが部屋に木霊する。
「ケイン近衛騎士。ふざけるな、とは?」
「――うっ!?」
エドガーから放たれた殺気がケインへと向けられ、その異常なまでの殺気に後退った。
他の兵達もガクガクと震えている。
(強い。いままで実力を隠していたのか……だが!)
ケインはグッと堪え、エドガーの目を見て言い放った。
「俺は陛下に忠誠を誓っている! この程度では引かんッ!!」
目を細めるエドガー。
「助けが来ると思っているのか?」
「俺が耐えればガルフ近衛騎士隊長がお前を――」
「ガルフはこちら側だ」
「――何? そ、そんなはずは……」
他の兵達も、ガイル国王ですら目を見開いて驚きを露わにしていた。
「ガルフ近衛騎士隊長は誰よりも忠誠心が高かったはずじゃ……」
「ガルフ様が」
「そんな。勝ちめなんて……」
ただでさえクーデターで兵が疲弊しているのだ。
そこにガルフやエドガーといった手練れが敵に回っては勝ち目など到底なかった。
そこへエドガーがある提案をした。
「陛下の首をこちらに差し出せば仲間に迎え入れてやらなくもないが、どうする?」
「そんなこと出来るわけがない!」
が、ケインが部下である兵達を見ると、明らかに動揺してたのだ。
だって目の前の男を殺せば命が助かるのだから。
「お前達何を考えている! 目を覚ませ!」
ケインの言葉でハッとなり頭を振るって先程の考えを捨てる兵達。
「そうか。残念だ」
エドガーの部下達が兵達へと斬りかかり、乱戦へと突入した。
少ししてケインの部下達は全滅し、残るはケインとガイル国王のみとなった。
そこへガイル国王がエドガーへと尋ねる。
「一つ聞きたい」
「どうしました?」
「使用人達はどうなっている? 殺したのか?」
「まだこの騒ぎには気が付いていないでしょう。ですが、気が付いて私達に歯向かうようなら殺します」
「頼む。ここに居るケインや使用人、家族だけは見逃してくれ。この首で済むならくれてやる」
「陛下それはあまりにも!!」
ガイル国王の言葉にエドガーは嘲笑する。
「それは出来ない約束ですね」
「エドガーーーーッ!!」
斬りかかるケインの剣を容易く弾き、エドガーの剣はケインオ腹を貫いた。
「――ごふっ」
口から吐き出された血が床へと零れ落ち、ケインは刺された腹部を押さえ膝を突いた。




