王は知る
王城は現在慌ただしい様子となっていた。
夜にも限らず、謁見の間には国の重鎮たちが勢揃いしていたのだ。
そしてこの謁見の間の玉座に座る人物こそ、この国の国王であるフィリップ・フォン・レスティン、その人である。
見た目は30代前半といったところだろう。
その割には体格が良く、鍛えていることが目に見えて解る。
フィリップは全員が集合したことを確認し口を開いた。
そこにはフェリシアやアリスの姿もあった。
「面を上げよ」
王であるフィリップの言葉により跪きながらも顔を上げる面々。
「此度は良く集まってくれた。皆の耳にも入っているだろうが、我が娘、アリスティアが攫われた。フェリシアの手によって先程無事戻ってきた」
アリスが攫われたと聞き貴族たちがどよめくも、フェリシアが連れ戻したと聞き「ご無事で何よりです」と声が聞こえてくる。
「そして今回の首謀者だが、アリス」
「はい、お父様」
一歩前に出たアリスはその首謀者を告げた。
「今回の首謀者はウォルス・マルケーゼ子爵のご子息である、ミハエル・マルケーゼによる犯行でした」
謁見の間が一気に騒がしくなるも、アリスの続きをフェリシアが話す。
「すぐにマルケーゼ子爵邸へと騎士団を派遣しましたが、ウォルス子爵はすでに死んでおりました」
死んでいたと聞き、ヒソヒソと色々な声が聞こえてくる。
「もしや子爵が指示したのでは?」
「ありえるな。アリスティア様と息子を婚約させようとしていたからな」
「結局は身分的に無理な話であったが」
そのような会話が聞こえてきた。
そこへフィリップの「静まれ」という声によって場が静かになる。
「フェリシアよ。まだ続きがあるのだろう? 私もそれしか聞いていない。話してくれ」
「はい」
フェリシアは続きを話す。
「マルケーゼ子爵邸に行きましたら、一部の使用人以外の全て、子爵含む者が何者かに殺害されておりました」
「なにっ!?」
そんな声を漏らし思わず立ち上がるフィリップ。
「フェリシア、それは誠か?」
「はい。残念ながら」
この場にいる貴族の面々もフィリップ同様に驚いていた。
「フェリシア様、それは本当なのですか?」
「はい。この目で確認してます。現在は騎士団で調査を行っているところです」
「そうですか、分かりました」
「ですが誰が何の目的で……」
そこへ一人の貴族がフェリシアへと尋ねた。
「犯人の目星は付いているのですか?」
「ええ」
「一体誰ですか! 教えてください!」
詰め寄る貴族たち。
言おうか迷っているフェリシアへ、フィリップも聞きたいのかそのまま玉座を立ち上がり歩み寄る。
「教えてくれフェリシア」
「ここに居る者か?」
フィリップのその言葉にフェリシア首を横に振って否定する。
「お姉様、もしかして……」
「アリス、あなたも奴を見たの?」
「……はい」
アリスの言葉に小さく「そう」と呟く。
「アリスもなのか?」
「はい」
「フェリシア、その人物は一体?」
「奴はこう名乗りました――」
そこへ、深く深淵から響く様な声が、背後から聞こえた。
「ノワール」
バッとその場の者達が振り向くと、そこには玉座に座る黒衣の人物――ノワールとその配下である六影が控えていた。




