美の剣技
「ノワール聞いたことない名ですね。どうやってこの場所を突き止めたかは知りませんが、お前等、そいつを殺しなさい!」
ミハエルが命令するも魔剣士達は動かない。
何をしているか、もう一度ミハエルが命令を出すもやはり動かない。
そこへ、ノワールがミハエルに告げる。
「もう死んでいるのだ。動けるはずもなかろう」
「何を言って――……」
直後、複数の魔剣士達が血を吹き出し崩れ落ちた。
「な、なな何をしたのですか!」
突然の事態に困惑し、ノワールへと尋ねるミハエルだが……
「貴様には俺の剣が視えなかった。それだけの事だ」
「そんなはずはありません! これでも次期ナンバーズなのですよ!」
騒ぎを嗅ぎつけたドグマの構成員である魔剣士が雪崩れ込んできた。
「皆さん、アレを使いなさい!」
「ミハエル様!」
研究者が待ったをかけた。
「アレをここで使ってしまえば大惨事に――」
「五月蠅い! お前達、使え!」
ミハエルの命令に魔剣士達は自身の首筋に注射器を刺し中に入っている液体を流し込んだ。
そして……
魔剣士達の筋肉が肥大化していく。
「これはまさか……」
「そうです! これぞ強化人間です! 普通の魔剣士の倍以上の身体能力があります。あなたに倒せますかね?」
「同じだったか」
「なんですって?」
「同じと言ったのだ。洞窟のやつらとな」
その言葉でピクっと反応を示すミハエル。
「まさか! アイクを殺したのは貴様か!」
「気が付くのが遅い」
だがミハエルは笑った。
「何が可笑しい?」
「いえ、この状況を見てわかりませんか? 強化人間の薬は完成したってことを」
確かにミハエルの言う通り強化人間達には理性があり、ミハエルの命令を待っていた。
「なるほど。あの薬はすでにそこの研究者の手によって完成していたということか」
「察しが良くて助かります。ですが、あなたにはここで死んでもらいますよ。やりなさい!」
強化人間達がノワールへと襲い掛かった。
アリスは目の前で行われている戦闘を見ていた。
突如乱入してきたかと思った者は、数十人の強化人間を相手に一人、無双していたのだ。
剣を一閃すれば数人が斬り刻まれる。
自然と振るわれる剣は一つの“美”として感じた。
「綺麗……」
つい呟いてしまったアリス。
ものの数秒で一気に数を減らした強化人間。
「どうして、どうして殺せない!」
ノワールの服には一切の汚れが存在しなかった。
それだけ圧倒的な実力差があるということの表れでもあった。
「くそっ、こうなったら」
何かを企んだのか、ミハエルは数名の魔剣士を率いてこの場から走り去っていった。
置いて行かれた研究者は、自らの身を守る為に残った強化人間へと命令を下した。
「早くやれ!」
だが、すでに強化人間達は物言わぬ死体へと成り果てていた。
「一人そこで命令し、自分は逃げるのか?」
「ごふっ……」
逃げようとした研究者の胸部へと剣が突き抜いた。
剣を抜くと研究者は地面に倒れ、血を流し始める。
「わ、私は命令されてやっていただけであって、こんなつもりは――……」
「死ね」
もう一度突き刺された剣は血球者の胸部、心臓へと突き刺さり絶命した。
その場に残るは繋がれたアリスとノワールのみとなった。
ノワールがアリスに向けて一閃。
殺さると思ったアリスだったがどさりと尻餅を突いた。
同時にガシャンと落ちる枷。
ノワールは手枷と足枷を斬ったのだ。
助けられと分かったアリスだったが、目の前の人物の素性は一切わからない。
だからなのか、アリスはノワールへと問う。
「……あなた、一体何者?」
「我らはネグロヘイム。闇を滅ぼし、陰を統べる者」




