帝王は凡人になりきる
「テオは魔力操作がまだまだね」
異世界の帝王は、転生に成功したのである。
今世の名をテオ・クラウス。
転生して13年の月日が経っていた。
そう言って目の前の黒髪黒目の少年、テオへとそう指摘する少女の名前はセシル・クラウス。
二歳年上のテオの姉である。
セシルの紅く長い髪が風で揺らいだ。
「難しいよ姉さん。コツとかないの?」
「そんなの練習あるのみよ。そもそも家は、代々強い魔剣士を輩出してきた貴族家系よ。これくらい出来て当然でしょ」
「うっ……」
そう。テオは異世界の貴族、レスティン王国のクラウス子爵家の長男として転生をしたのである。
子爵家と言っても貴族階級の中では中下。下上といったところであった。
「こうやって魔力で身体や剣を強化することだってできるのよ?」
そう言って手に持っていた剣を強化したセシルは、近くの木に向かって一閃。
剣閃が走ったかと思うと、木はゆっくりとズレ、地面へと倒れ土埃を上げた。
「凄いよ姉さん!」
「ふんっ、これくらい魔剣士として当然よ」
剣を鞘に納めながらセシルは続ける。
「これくらい出来ないと今後魔剣士としてやっていけないわよ?」
「うっ、が、頑張ります……」
「ならその木で練習がてら薪用に斬っておきなさいね。私は汗を流してゆっくりしているから」
「はーい」
去って行くセシルの背を見送ったテオは、セシルが倒した木を見つめる。
そして倒れた木を片手で持ち上げ、宙に投げ――一閃。
木は綺麗に薪用に切断された。
斬られて地面に散らばる木を、魔力を操って綺麗に積み上げた。
元々魔力の扱い方など向こうの世界でマスターしており、魔力量も訓練のお陰もあったのか、前世の頃と同じ程度にはなっていた。
このまま続けていればすぐにでも、向こうでの帝王として君臨していたテオを抜かすことだろう。
それどころか、実力も前世の比ではないほどに向上していることから、遥かに強くなっているといえた。
「まあそれでも、この力は表向きには隠しておくが」
テオが力を隠す理由。
それはこの世界にどの様な存在がいるかわからないからである。
それは建前で、本当は前世のように畏怖される存在にはなりたくはなかった。
無暗に実力を曝け出してしまうと、変な組織から狙われてもおかしくないというのもある。
これは前世、帝王として生きた時の経験から導き出された憶測である。
まだ転生して間もないのでこの世界にどんな闇があるかわからない。
それが自身に影響する事なら、テオはこの世界の悪という悪を帝王として確実に潰すつもりでいた。
「俺は俺の道を阻む者を決して許さない」
そのためには、この世界でも自身の配下となる仲間は必要であった。
「先ずは仲間を集めるとしようか」
沈み始める夕日を見て、テオは薄っすらと笑みを浮かべるのだった。
21時ごろに3話目を投稿します!