配下に褒美
テオ達はシュトルツ商会の店内へと入った。
店内は広々としており、多くの客が出入りを繰り返していた。
多くの人は目的の品である、お菓子が買えたことに満足したのか、笑みを浮かべながら店を後にしていく。
その光景を目で追うテオ。
(グリューンの言う通り、上手くやっているようだ)
テオ以外のアリス、ヴェル、リーリア、ヴェントの四名は様々な商品を手に取っていた。
四人が手に持つ商品を見たテオだったが、そのすべてがお菓子だったのだ。
「四人とも、そんなに買うのか?」
「なんだテオ。お前は何も買わないのか?」
ヴェルが何も持っていないテオを見てそう言った。
「いや、何を買うか迷っているだけだ。新商品のお菓子だけで良いかなと思っているが」
そう言って積んである新商品のお菓子を一つ手に取った。
「それだけ?」
一つしか手に持たないテオを見てアリスがつまらなさそうに言ってきた。
そう言うアリスは、両手いっぱいにお菓子を抱えていた。
そんなに食べるのか、とテオは思うが声には出さない。
だってそれはこの店内にいるほとんどの客が両手いっぱいに商品を抱えているからである。
一つしか買う予定のないテオは周りから少し浮いているようだった。
「俺は先に会計を済ませるから、みんなはゆっくり見ていてくれ」
テオの言葉に四人は各々返事を返し、広い店内を再び歩き回りに行った。
テオが会計をするとき、美人な女性店員が声をかけてきた。
「お客様、少々お時間よろしいでしょうか?」
(何の用だ? 俺の顔は配下なら知っているはずだ)
テオは「大丈夫だ」と告げると、店員は「ありがとうございます。ではこちらへどうぞ」と誘導してきた。
そのまま後に従い店の奥へと入って行く。
客はなんだなんだと言っていたが、他の店員が「ランダムでアンケートをやっていただいております。今のお客様で最後となります」と客に向けて言っていた。
テオが行く際、アリス達と目が合ったので「少し行って来る」と告げて奥へと消えてい行った。
店の奥へと行き移動の最中、テオは店員へと声を掛けた。
「どこへ向かっている?」
「テオ様、申し訳ございませんがまだ秘密です」
「ほう……?」
鋭い視線を店員、いや、配下へと向けた。
感じる視線に冷や汗を流すが、これはサプライズなので口が裂けても言えなかった。
心の中でテオへと謝る配下の女性。
「まあ良いか」
背中に突き刺さる視線が和らいだことに安堵する配下。
少しして目的の場所へと到着した。
両開きの扉の前に立ち止まった。
扉の両脇にはメイドが控えており、道案内をした配下はテオの後ろへと下がり頭を下げた。
そしてメイドによって扉が開かれた。
ゆっくりと開かれた扉の先には玉座が。
そしてそこへ続くように真紅のカーペットが一本に、玉座へと伸びていた。
カーペットの両脇には六影の面々が、テオが姿を現したことにより跪き首を垂れていた。
「ほう……」
思わず感嘆の声を漏らすテオ。
そこへ跪き首を下げているヴァイスが説明のためくちを開いた。
「これは我々からの、ノワール様への感謝を込めて贈らせていただきました」
「そうか」
そのままゆっくりとカーペットを進み、玉座へと腰を掛けたテオは、肘掛けに肘を掛け頬杖を突き足を組み見下ろし口を開いた。
「面を上げよ」
テオの一言に寄り顔を上げる六影。
「お前達の気持ち、嬉しく思う」
「「「勿体なきお言葉です」」」
笑みを浮かべ六人が同時に頭を下げた。
「ノワール様に喜んでいただき嬉しく思います」
ルージュの言葉にテオは頷いた。
「感謝しよう。俺からお前達に褒美をやろう」
テオはそう言って頬杖を突いているのとは反対の手を握り締め空に放った。
純粋なまでな黒い魔力の粒子が、まるでダイヤモンドダストかのようにキラキラと部屋に散った。
六影の面々は「綺麗」と小さく呟くのだった。




