シュトルツ商会
「喜べお前等。来週は学園魔剣大会が開かれる」
教室に入ってきた担任の開口一番の言葉がそれだった。
確かにこのミッドガルズ魔剣学園では、毎年大会が開かれている。
テオの姉であるセシルは、この大会で優勝しており王国の騎士団からも注目を浴びている。卒業後はアリスの姉であるフェリシア・フォン・レスティンが団長を務める騎士団に入団予定となっていたりする。
担任の言葉を聞いたクラスメイト達から「えぇ~」と嫌な声が聞こえてくる。
(俺は不参加だな)
そう思っていたテオだったが……
「なおこの大会は強制参加だ。逃げるなよ……?」
そこへ担任の追撃となる言葉が放たれた。
「それと今回の大会で成績の悪い奴は一週間、朝から放課後までランニングとする」
顔を青くする人が続出する。
ヴェルやリーリア、ヴェントもみんなと同様に顔を青くしている。
唯一平然とした表情をするアリス。
「アリスは嫌な顔しないんだな?」
そんなテオの問いかけにアリスは自信満々な表情で答えた。
「当たり前じゃない。こう見えても強いから。それにテオだって平然としているじゃない」
「俺のは違う。覚悟が出来ているだけだ」
アリスのジト目がテオへと向けられた。
「少しは頑張りなさいよ」
「俺なりに頑張るさ」
(上手に負けるようにだが……まあ別に成績が悪くてもランニング程度どうってことないが)
アリスは「そう。精々最下位にはならないことね」と言って前へと向き直ってしまった。
少しして担任が大会のルールや開催日などを説明していく。
開催は今日から一か月後。
それまでは各自自習ということになった。
自習ということで喜ぶ生徒がいる中、担任はこう告げた。
「分かっているだろうな? 成績が悪い奴はランニングだってことを」
ビクッと全員が震え、「はい!」と大きく返事をするのだった。
それから1週間が過ぎた。
ドグマがアリスを狙う動きが見えなかった。
狙うにしても遅すぎる気がしてならないテオ。
その日の晩、テオは六影の一人グリューンを呼びだした。
グリューンは六影――いや。ネグロヘイムの中で髄一の頭脳派である。
「お呼びでしょうか、テオ様」
「よく来た。忙しいのにすまない」
「何を仰いますか。テオ様のお呼びとなれば、我々はすぐにでも駆け付けます」
そう告げて跪くグリューン。
「今回お前を呼んだのは、ドグマの動きに関してだ」
「と、仰いますと。アリスティアの事でしょうか?」
「そうだ。連中、アリスを襲うにしても遅すぎる気がする」
「はい。私も疑問に思いましたので、王城にメイドとして潜入している部下を呼び出し、情報が漏れたのか問い質しました」
「情報は漏れていないか」
「はっ、仰る通りです」
テオは無言となり思考を巡らせる。
考えられることは幾つもあるが、ドグマにとってまだ時期ではないということだろう。
無言となったテオに、グリューンは冷や汗を流す。
ドグマの情報不足ということに怒ったのではないか? そう思い込んでいたグリューン。
「申し訳ございません。我々の情報不足です。この失態、どう償ってよいか……」
「それは気にしていない。お前達は良くやってくれている」
「勿体なきお言葉です」
「それと現状はこのままアリスの監視を続行せよ」
「御意に」
「他に何か報告はあるか?」
「はい」
グリューンは口を開く。
「以前、テオ様から頂きました資金を基に、ネグロヘイムは商会を設立致しました」
「商会か。俺は聞いていないが?」
少し圧を強めグリューンを問い質す。
グリューンの額から冷や汗が流れ落ちる。
「知らないか?」
「……何を、でしょうか?」
「『報告』『連絡』『相談』の三つを」
「ぞ、存じております」
「ならばなぜすぐに俺に報告をしない?」
「申し訳ございません。その時はまだ小さい商会故、恥ずかしく報告が出来ないでいました」
「その時は?」
グリューンの過去形の言葉に、テオは首を捻りながら言葉を返した。
テオの言葉にグリューンは頷き話す。
「はい。商会の名は『シュトルツ商会』と言います」
「ん? シュトルツ商会?」
「はい」
テオは聞いた事ある名前に思わずそう聞き返してしまった。
シュトルツ商会と言えば約三ヶ月前にこの王都に出来たという新商会だ。
テオだって知っている。
その商会は店員、商品全ての質が良く、さらには独自で開発したというお菓子や家具がが人気の店だ。
出来たばかりだと言うのにすでに大商会にまで上り詰めている。
「そうか」
「申し訳ございませんでした」
「よい。よくここまで大きくしてくれた。お前の手腕によるものだろう?」
「は、はい。私が指導しました。ですがテオ様から教えていただいた知識などを基に開発した商品がほとんどです。全てはテオ様あってこそです」
「うむ」
「他にも新しく酒場を始め、そこで情報などを収集しております」
「酒場か。良いところに目を付けた」
「はい。酔った相手程、重要な情報を話す者がおりませんから」
「流石だグリューン」
「勿体なきお言葉ありがとうございます」
「では引き続き頼んだ。配下達にも報告や連絡、相談などの情報共有するようにしろ。どんな些細な情報でも構わない。良いな?」
「御意に」
テオはそう告げ、グリューンは闇に溶けるかのように消え去るのだった。




