手紙
「わかっていてなお、君は変わらないんだね」
リッカルド様が、私の腕を掴んだまま近づく。
そう言うリッカルド様は感情を読み取れない表情をしていた。
「どうしたら、君は自分のことを大事にするんだろう」
「……私の。私の行き着く先は決まっているのです」
──悪魔と契約した。
あの瞬間から私の行き着く先は決まっている。
破滅だ。
でも、私が破滅しようと、あなたの笑顔が奪われないならそれでいいのだ。
頭のなかで、メリア様と心中したリッカルド様の穏やかな笑みがよみがえる。
「ふぅん? じゃあ、その行き着く先とやら、変えてみせるよ」
私の行き着く先を変える?
「そうすれば君は、自分のことを大事にするんでしょ」
「……ええ、まぁ」
変えられるとは思わないけれど。
「約束、したからね」
リッカルド様は笑みをこぼすと、私の腕から手をぱっと離した。
「おやすみ、ソフィア嬢。良い夢を」
「……おやすみなさい」
さて。リッカルド様との会話ですっかり忘れていたけれど、今日は魔獣の心臓を十個も集めることができたのだった。
「悪魔」
私が自室で悪魔を呼ぶと、悪魔は実体化した。
「今日の成果よ」
悪魔に心臓を渡すと、悪魔はそれを一つ一つ美味しそうに食べた。
『今日はなかなか危なっかしかったな』
「確かに、大きな魔獣相手に遅れをとったわね」
お陰で回復魔法を重ねがけすることになったのだった。
『我はお前に死なれては困る』
悪魔が赤い瞳で私を見つめた。
「わかってるわ。贄だもの」
そう、私は悪魔の贄。
私が頷くと、悪魔は満足そうに笑った。そして、私の髪に触れる。
「悪魔? あなた本当に私の髪が好きね」
この前も、耳からこぼれ落ちた髪を触っていた。
『まあな』
くるくると私の髪で遊ぶ。私の髪は今は短いのでそうされると、ときどき悪魔の長い指が首にあたってくすぐったい。思わず笑ってしまう。
『さて、我の復活まで、あと二百七十五個だ。せいぜい励めよ』
翌朝。陽光で目を覚ます。
「う、ん」
よく寝た。すっきりとした目覚めだ。
うん。今日も一日魔獣狩りを頑張らなくっちゃ。
そう思いながら、支度を整えたところだった。
「ソフィアさん、いらっしゃる?」
「はい」
寮母のカーティナさんの声に扉を開ける。
すると、一通の手紙を差し出された。
「あなたのご実家からよ」
「ありがとうございます」
お礼をいって、手紙を受けとる。あの放任主義の私の家から手紙?
今日は槍でも降るんじゃないかしら。
そう思いながら、蝋で封をされた封筒を開け、目を通す。
「……え?」
そこにかいてあった内容は簡単にいうと、私の婚約が決まったことだった。
私が、婚約?
婚約くらい自分でとりつけてこい、といいそうな親だ。それなのに、なぜ。
事実、前の生では私は誰とも婚約していなかった。
手紙を読み進める。
相手は?
「……リッカルド、様?」