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悪役令嬢な私が、あなたのためにできること  作者: 夕立悠理
一章

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20/40

 悪魔のいう通り寮に戻って、悪魔に今日の収穫である魔獣の心臓一つを渡す。

「食べないの?」

 悪魔は、私が渡した心臓をじっと見つめていた。

『……ソフィア』

 そして、心臓を持っていないもう片方の手で私の髪を触る。

「なぁに?」


 悪魔の様子は、最近変だ。

 まるで、私を心底心配しているようなことをいったり、心臓集めをやめるようにいったり。

 くるくると指に絡ませては、こぼれ落ちていく私の髪を、悪魔はどこまでも慈しむような瞳で見つめていた。

「あなた、本当に私の髪が好きね」

『……まぁな』

「ねぇ、悪魔」

『なんだ?』

 悪魔が髪を触るのをやめた瞬間、私は悪魔の手から心臓を奪い取り、無理やり心臓をのみ込ませた。


『……くっ、ずいぶんと手荒な真似をする』

「だって、あなたが食べようとしないから」


 じとりと私をにらんだ悪魔に、にっこりと微笑む。これでは、どちらが悪魔かわからないわ。


 自分で自分に苦笑しつつふと、思ったことを尋ねる。


「悪魔は、あんまり自分のこと話したがらないわよね」

『まあ、そうだな』

「それでね、私、気になるんだけど――」


 悪魔の深紅の瞳を見つめる。

「悪魔は、恋ってしたことある?」

『……っ!』


 悪魔の瞳が大きく揺れた。

 聞いちゃいけなかったことかな。でも……。

「ほら、私は心臓集めをやめないでしょう? そしたら、最終的には私はあなたの贄になる。だから……」

『――そのときのために、我の好みでも把握するつもりか?』

「そう、その通り! さすが、悪魔ね」


 だって、私は悪魔の退屈を殺し続けなきゃいけない。

 そうじゃないと、悪魔は加護の対価を他で求めてしまう。


『……お前が気にする必要はない』

「え? でも……」

 悪魔の恋話、聞いてみたかったんだけどな。

『お前は……』

 悪魔はそこで言葉を止め、皮肉げな表情を浮かべた。

『ソフィア、お前はその存在だけで十分だ』

「それって、私が面白おかしい人間だってこと?」

『そうだ』

 えっ、ええー、ショックだわ。

 私はそんな奇天烈な行動や思考をしていないと思うんだけど。


 落ち込んだ私をフォローすることなく悪魔は、笑うと消えた。


 悪魔め。そう心のなかで毒づいたけれど、悪魔は悪魔だから事実をいっただけになってしまった。


 ……でも、上手くはぐらかされてしまった。

 悪魔の成し遂げられなかったこと、と恋って関係あるのかな。


 気にならないといったら嘘になるけど、悪魔は私のままでいいっていってくれたんだし、まぁ、いっか。


 リッカルド様が、生きていてくれる世界。

 そのためだったら、なんでもできる。


 私が突き放したから、もう、リッカルド様が私に関わってくることはないと思うけれど。

 自分勝手に痛む胸を押さえて息を吐く。


 明日はいったい何個心臓を集められるかな……。

 どうか、はやく心臓を三百個集め終わり、二度とあの笑みが失われることのない世界になりますように。


 そう願って、ベッドに横たわり目をとじた。

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