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逆行

 死因は、池での溺死だった。

 聞いた話によると、そこはメリア様とリッカルド様の思い出の場所であるそこで。


 二人は、心中したのだ。


 溺死はとても苦しいと聞く。

 けれど、離れないように縄で手を繋いで死んだ二人の顔はとても穏やかで。


 ──ああ。


 私は。


 どうしようもなく、間違えてしまったのだと、悟った。




 明日からは喪主として、やるべき仕事がたくさんある。でも、今はショックだから寝込ませて。


 そういって、侍女を遠ざけ、自室に籠る。



 涙は、流れなかった。

 泣くよりも先に考えなければならない。


 どうすれば、どうすればリッカルド様は助かるのだろう。



『我と契約しないか?』


 低く、甘い声が囁いた。


「誰?」

『我はかつて──神だったもの。いまは、悪魔と呼ばれている』


 美しい青年が音もなく、私の目の前に現れた。


 短く切り揃えられた赤い髪は、確かに、この世界の人がありえる色彩ではなかった。赤い髪をもつ人はこの世に存在しないから。


『三年。時を戻す。その間に、魔獣の心臓を三百我に捧げよ。そうすれば、我はまた、新たな神として君臨できる。そうすれば、女神の加護は必要あるまい』



 きっかけは、女神の加護だ。女神に私たちの国から去られたら困るから。ならば、新たな神を立てればいい。悪魔を神に戻すのに必要なものは、魔獣の心臓を三百だとして。

「あなたの、代償は?」


 女神は、恋を。


 それならば、悪魔が神になったとき、加護のかわりに何を、望むのだろう。


 この国の土地はもともと、やせている。

 それを神の加護で維持している状態だ。


『そうだな……』


 悪魔は考えこんだあと、私を指差した。

『神になったところで、永久は退屈だ。我の退屈をお前が、殺せ』


 つまり、私に玩具になれと。

「何年かに一人生け贄を要求するということ?」

『お前次第だ。お前がずっと、我の退屈を殺し続けるのなら、贄はお前一人で十分だ』

「……いいでしょう。契約、するわ」


 にやりと、悪魔が笑った。

 その笑みを最後に意識が途切れる。






 次に私が目を開けたとき、学園の入学式まで、時間が巻き戻っていた。



 私は、悪魔を神に戻すのに、魔獣の心臓を三百集めなければならない。魔獣の心臓──といったら、かなり物騒だけれど。


 魔獣の心臓。それは、文字通り心臓ではなく、通称だ。魔獣を倒したときに、魔獣の体内で精製された赤い鉱石を落とすことがある。


 その鉱石のことを魔獣の心臓と呼ぶのだった。鉱石はとても貴重で、大抵は倒した人が食べて自分の魔力を増やすのに使う。だから、市場には出回らない。


 だから、私は、私自身で魔獣を倒さなくてはならないのだ。そんな私におあつらえ向けの学科がある。


 魔獣騎士科。


 私たちが今日から通う学園の学科のひとつだ。学科は入学後に決めることになっている。以前は淑女科に通っていたけれど。


 女性の魔獣騎士は数少ないだけでいないわけではない。

 ならば、私でもできるはずだ。幸いにして、私の魔力量は多い。


 すべては、リッカルド様が生きる世界をつくるために。


 そのため、まず、私がやらなければならないことは──。






「ソフィア!? その髪、どうしたの!?」


 入学式が行われる会場につくと、友人のマリーが驚いた顔をした。

「うん。私、魔獣騎士科に入ろうと思って。それなら、長い髪は邪魔でしょう?」


 実際、数少ない女性の魔獣騎士の髪は短かかった。

「魔獣騎士科に入るなんて、どうして……。ソフィアは私と一緒に淑女科に入るんじゃなかったの?」

 マリーはとても困惑していたけれど、私は、曖昧に笑って誤魔化そうとした。


 そんなときだった。声をかけられたのだ。

「君も魔獣騎士科、なの? よろしくね」

 聞き間違えるはずのない、声だ。その声をもう一度聞けることに、これ以上ない喜びを覚える。


「はい。よろしくお願いします。──リッカルド様」

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― 新着の感想 ―
×誰より恋し合う二人を選ぶ ◯女が奴隷になって男に尽くす二人を選ぶ って感じですねえ…女神が邪神やんけ 神さま界隈の序列ってどうなってんだ
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