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マリオネットは理解する


「ってことでー、今日からユリアは仲間だぜーってことだ。じゃあ、席は……」


「お待ちになって、先生」



クラウス先生の言葉を遮って、立ち上がったのは他でもない私だった。



「おん?なんだ、デオン。どうした?」



誰に対しても態度が変わらない先生は、変わっていない。しかし、今はそのことを喜べる精神状態ではない。



「その子______ユリア様とおっしゃったかしら。彼女は、明らかに貴族ではないわ。ここは、貴族のためのクラス。そこに、何故そんな平民がいるのかしら」



言葉と共に、ユリア様を睨み付ける。目線までもがいうことをきかない。



「な、何故、と言われましても……」



困惑したようにいう彼女。しかし、私は見た。見てしまった。困った様子の彼女の顔が、一瞬歪に歪んだのを。



「理由も言えないの?周りを見てごらんなさい。我が公爵家には及ばずとも、皆名の知れた貴族よ。自分が場違いなこと、お分かりにならないのかしら?」



この時。私は確か、平民なのにすごいなぁ、としか思っていなかったはずだ。


こんな窓際の席で、こんなことを口にした覚えはない。



「ば、場違いですか、その……」



「カトリーナ」



トワの声が聞こえる。しかし、それを制したのはクラウス先生だった。



「あー、まぁ、落ち着け、デオン。そうだな、つまりお前はマリアローズがこの貴族組に入学初日にいきなり転入してきたのか知りたいということだな。なら、目で見た方が早い」


「目で……?」


「そう。マリアローズ」


「ですが、先生……」


「いーよいーよ。この先にもデオンみたいなやつが出てくることだって考えられる。遠慮なく使っちまえ」


「……わ、わかりました。それじゃあ……」



そう言って、彼女は手を前に出し、



「レディアント!」



と、一言呪文を唱えた。



とたん、光の玉が彼女の前に浮かび上がり、そして_____私の方に、向かってきた!



「きゃあぁぁあっ!?」



悲鳴を上げてひっくり返る。ぜんぜん普通によけられるはずなのに、どうして私はひっくり返っているのだろうか。



「おー、お見事。……と、いうわけだ。今のでわかったと思うが、マリアローズは規格外の魔力の持ち主だ。帰属っつーことは、そんだけ多くのいい人材が集まってる。原石は磨かなきゃいつまでも原石のままってわけだ。納得したか?デオン。お前、入学式に出なかった分出席ひいとくからなー」



その言葉に、堪えきれずに誰かが吹き出すと、一気に教室は笑い声に包まれた。



「あの、ごめんなさい!魔力の使い方がよくわかっていなくて……お怪我はありませんか!?」



ひっくり返った上、自分が追い出そうとした人間の実力を見せつけられ、その上さらに同情されたのだ。屈辱で真っ赤になった私は「結構よ!」と叫んで差し出された手を払い除け、不貞腐れながら席についたのだった。




◇ ◇ ◇




 その後はもう、一言で言うなら最悪だった。


何を考えているのか、私はその後の授業でもことあるごとにユリアにつっかかり、そのたびに彼女との実力の差を見せつけられていた。


それでヘイトが溜まっているのか周りにまで八つ当たりを始め、クラスメイトにもトワにも冷たい目で見られている。


それなのにユリアは私に手を差し伸べる。その顔が困ったような笑みなのが私のしゃくにさわる。またつっかかる……。もはや、完全な悪循環である。私への好感度が下がるたびに、ユリアへの好感度が上がる、という具合だ。



私は何度も何度も「違うの、そんなこと思ってない!」と叫んだ。


何度も何度も勝手に動く体を止めようとした。




でも、そのうちにわかった。理解してしまった。





私には、何もできることがないのだと。






どんなに叫んでも、誰にも届かないのだということを。




そして、もう一つ。どうやらここは、3年前の世界であるらしい、ということもわかった。それも、私が覚えているのとは違う3年前だということが。



違う世界だとわかったのは、どうしても、私の記憶と整合しない部分があるからだ。




例えば_____私は、トワにあんな目で見られたことはない、だとか、もう少し運動神経がよかった、だとか。




第一、私が勝手に動いている時点で異常なのだ。私は一体、どうしてしまったのだろう。これから、どうなってしまうのだろう。




私が知っているトワは、みんなは無事なのだろうか。あの時、光が溢れた時。ユリアが最後に言った言葉。あれは一体、なんだったのだろう。





わからないこと、心配なこと、不安が大きすぎる。






噛み合わない記憶と動かない現実に、半ば泣きそうになりながらも、ピクリとも私の表情筋は動かない。





やるせなさを抱えたまま、とにもかくにもその日の授業は終わったのである。

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