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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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二人のショートボブ

 アルバイト先に到着し、裏口から中に入ると寒さが一気にやわらぐ。通路にはいくつにも重なり合った新品の紙コップが段ボールからはみ出し、だらりと垂れ下がっていた。タイムカードの台には僕がここへ入った時から置いてあるクマのぬいぐるみがあって、「おはよう」と言った気がした。ゲームみたいだなと思った。

 今は15:53。「おはよう」ではないけど「おはよう」。タイムカードを押してスタッフルームに入る。

 ドキッとした。赤が目に飛び込む。そしてさらに。

 ハンバーガーを持ちながら水希さんが振り向いて僕に「おはよ」と言った。「おはよう」の『う』がなかった。

「おはようございます」

 と僕は言って、慌てて男子ロッカーに駆け込む。そして後悔。

 なにやってんだよ。言わなきゃいけなかったろ。。

 自分に猛烈にダメ出しをしながら着替える。そして脳内映像を再生する。

「おはよ」と言って振り向いた水希さん。いつぶりだろう会うのは。もう一週間近く会っていない気がする。僕にとっては長い期間。

 まず赤いユニホームの色が目に飛び込んで、そして衝撃的だったのは背中までの茶髪が黒いショートボブになっていた。そこに一言声をかけるべきだったろ。まて、まだ間に合う。

 僕は急いで着替える。このさい首のボタンは後で留めよう。

 時計を見る。15:58。時間が過ぎるのが早い。ロッカールームから出る。

「水希さん髪切ったんですね」

 自分の声が上ずっていることでさらに緊張する。紙コップを持ちながら

「そうなの」

 とだけ言って、ほほ笑みながら髪をさわりだした。もう一声いこう。

「似合ってますよ」

「ありがと」

 そして僕の頭は真っ白になった。そのあとが続かず僕は調理場へ向かった。後悔の連続で僕はアルバイトを開始した。


 調理場から見える水希さんの赤い帽子から、きれいにそろった黒髪が下り、細く白い首が赤いユニホームにおさまっている。

 どんな理由で水希さんは髪を切ったのだろう。そして僕はひとつの仮設、妄想ではあるが、打ち立てた。

 もしかして水希さんはメロンさんなのではないか?


 んなわけねーだろ。


 僕の中の誰かが言う。またもう一人が、いやいや、可能性はあるぞ。と言う。

 もしメロンさんだった場合、これはものすごいことだぞ。『ものすごいことだぞ』で具体的にはよくわからなかったが。さりげなく「水希さんってゲームやりますか?」と聞いてみるのも一つの手だ。が、聞く時間がない。休憩はとったから、このあと水希さんは帰ってしまう。では水希さんは何時にバイトをあがるのだろうか。あとでシフト表をこっそり見てみよう。

 時間の流れは速くなったり遅くなったりを繰り返した。


 シフト表を確認するまでもなかった。18:00すぎ。水希さんは緑色のマフラーをしながら一度お客用の入口から入ってきて「おつかれさまでした」と言い、バイトをあがった。目が合ったのは一瞬で、また出ていくうしろ姿はメロンさんに見えなくもなかった。


 休憩中、僕はシフト表を確認した。というのは、今後のシフトをだ。

 まず、今日水希さんが18:00にあがったということは、昨日メロンさんが言った「明日は家に帰るのが20時過ぎる」と言ったことにもつじつまが合う。どっかで買い物をして帰ることからも考えられる。

 そして僕はスマホのメモ帳に明日からの水希さんのシフトを簡単に写した。日付はいらない。明日からだから覚えておけばいい。

 なんだか僕は悪いことをしているような気がした。でもしてしまう。時間だけをというか、数字だけをメモる。明日は土曜日。僕も水希さんも明日はお休みになっている。そして次の日……。

 ガチャっと音がして、僕はとっさにポテトを口に運んだ。

「おつかれ」

 店長だった。


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