ハンバーガーショップのアルバイト
自動ドアが開くと、首のマフラーを巻きなおすお客と一緒に、店内のゆったりとしたカフェのBGMが聞えなくなるくらいの強い風の音がした。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」
僕はステンレス台の前に立って店内の時計を見た。19:57。さっき見た時は54分で、あれから5分はすぎていると思ったのにまだ3分しかたっていない。そんなことばかり繰り返していた。
頭上の液晶が鳴った。『テリヤキバーガーセット』の緑色の文字がディスプレイに映っている。その文字に願望が重なる。
『バーサーカーソード』そしてあの世界では文字が空中に浮かんでいるのに。
バイトを始めて3か月。僕はどのくらいテリヤキバーガーを作って包装紙に包んだだろう。そんなに多くはないか。レベルでいったら6とか? そんなことを考えながら
「テリヤキです」
とレジのほうへ滑らせた。そして時計を見る19:59。
あと一時間。長い。
今日はいつにもましてバイトに対するやる気がなかった。早くトラあなにログインしたかった。今ごろメロンさんはササラ海岸でササラの塩を取って転職しているはずだ。
そしてもう一つやる気のない理由があった。今日は同じバイトの先輩の水希さんとシフトがかぶっていない。17:00にあがったっぽかった。僕よりすこしだけ先にここでバイトを始めたって言っていた。たまに休憩がかぶった時は、お店の商品を店員割引で買ったポテトやハンバーガーを食べきれずに僕にゆずってくれた。一度だけおごってくれたこともある。そしていつも僕はうまく会話をすることができない。何を話していいかわからない。
大学生だと言っていた。僕には大学の世界のことはまったくわからないから推測になっちゃうけど、勉強の時間割みたいなのも高校とはちがうんだろうなと考えている。
お店の赤いユニホームを着た水希さんはすらっとしていて、キャップから垂れる結んだ茶髪の首筋が白いのを僕はいつも調理場からこっそり見ていた。
「お先に失礼します」と言って帰るときの水希さんは、しっかりした、きりっとしたようなユニホーム姿とちがい、少し幼くなったような、僕ら高校生とはちがった大人の子供っぽさのかわいらしさがあった。唯一、勝っているという言い方をするなら、僕の身長が少しだけ水希さんより高いことぐらい。
僕はオーダーされてくるハンバーガーを作った。焼けたパティにピクルスを載せケチャップのボトルを逆さまに持ち、押す。
プスーっと音がしてケチャップはいくつもの小さな点となってパティに飛び散った。補充する。
タイムカードの打刻を見るとカードが上がりきらないうちに僕が引っぱったせいで
インクが上下に伸びていた。更衣室での着替えではズボンに脚を通そうとしたらよろけてそばの椅子に太ももを打った。我慢していたトイレを済ませ、手は水でさっと濡らしてズボンでぬぐうかたちで洗った。
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
従業員専用の裏手から出て自転車に乗る。暗くて鍵が差しづらかった。またがってペダルを漕ぐ。
澄んだ夜に信号機の赤や緑の色が濃く見えた。家まで12分。冷たい向かい風を急いだ。




