ゲームを追って
村から草原の中を伸びる一本道をメロンさんと二人で歩く。時々魔物を倒しては「レベルなかなか上がらないね」とか「弱点はあそこじゃないかしら」とゲームの話題ばかりが続く。
17年間の人生、僕はこんなに一人の女性と接したことがなかった。ゲームの中では少しだけ現実よりも話せることができている気がする。ゲーム上の設定が25歳だからかもしれない。
メロンさんに歳を聞いた。
「あたしは22歳よ」
そう言ったけどそれはゲームの設定年齢だろう。だってぼくだって「25歳」って答えたんだから。
道なりを進んでいくとボロボロの木でできた道しるべが建てられていた。左は『ササラ海岸』。で、右が『ブルーニャ山』とあった。
「こっちね」
メロンさんは右の道を進んだ。あとを追う。
道は山をらせん状に反時計回りにできているっぽかった。
群れカラスが4体現れ、メロンさんの髪を細長いくちばしがつつく。
「なによこれ」
メロンさんは頭の上で木の棒を振り回したけど、群れカラスは近づいては離れまた急降下を繰り返した。僕は肩を何度もつつかれた。僕たちはいったん逃げた。
「ちょっと敵強いわね。こんなんじゃ山頂までたどり着けないわよ」
僕たちがやくそうを飲み息を整えているとイベントが発生した。
山から傷を負ったプレイヤーが何人も降りてくる。その中に明らかに僕たちとはいでたちの違う集団が自信満々の顔で山を下りて行った。
「なんかとんがった帽子かぶっている人とか杖を持った人いましたね」
「あ、魔法使いとか僧侶じゃない? あたしたち無職だもの。どっかに転職できる場所があるんじゃない?」
どっちみちやくそうも数少ないし、僕たちは一度ラーンの村へ戻った。
村に戻り僕たちはもう一度村長のところへ向かった。
あいかわらずルアは寝込んでいた。少しほほがこけたように見える。村長と僕たちはルアの部屋をいったん出て応接間に向かった。
「あの、ブルーニャ山に行ったんですけど、敵が強くて山頂まで登れないのです」
僕が言うとメロンさんが
「どこかに転職のできるところってありませんか?」
と付け足した。すると村長が
「それなら教会にいる『ヒヒリ』シスターに聞いてみてはどうか?」
僕たちは村の教会へ向かった。なかなかすんなりお話が進まない。ま、ゲームってこうだよな。そんなことを考えながら。
教会にもたくさんのプレイヤーがいた。みんな同じペースで進んでいる感じ。メロンさんはヒヒリシスターに事情を説明した。静かな優しい声でヒヒリシスターは言った。
「こちらで転職ができますよ」
「やったー」
僕とメロンさんは顔を見合わせて喜んだ。
「ですが……」
ヒヒリシスターはうつむきながら続けた。
「転職をするには身を清める『ササラの塩』が必要なのですが……、このところ魔物の数が増えてきたせいでササラの塩を取りに行くことができず切らしているのです。すみませんがもし転職を希望……」
「取りに行こう、かろり」
メロンさんはヒヒリシスターの話を最後まで聞かずに教会を駆けだした。僕はシスターに頭を下げメロンさんのあとを追った。
道しるべを左に折れしばらく進むと潮の香りと一緒に真っ白な砂浜と薄い水色の海が一面に広がっていた。
「塩ってどれよ」
浜辺でもたくさんのプレイヤーがあちこち動き回っていた。僕たちも必死にサララの塩を探した。
「ないなあ」
その時頭の中でピポピポピポーンと音が鳴った。続けて
『大変申し訳ございません。ただいまササラ海岸で不具合が起きています。メンテナンスを行いますので22:00よりゲームを一時中断とさせていただきます。プレイヤーのみなさまには大変ご迷惑をおかけします。復旧しましたらアプリ画面にてお知らせいたします。何卒ご了承くださいませ』
浜辺で大ブーイングが起きた。僕もいらだった。いいところだったのに。
「まあしょうがないじゃん。これもゲームの楽しいところよ」
メロンさんがそう言ったので僕もそうだな。と思った。
「今日はもう遅いし、また明日しようよ。明日また18:00はどう?」
僕は困った。明日はハンバーガーショップのバイトがある。終わるのは21:00。でもバイトがあるなんて言えない。
「明日ちょっと用事があって。21:30ころならログインできるかも」
「そっか。じゃあそのころもしできたら一緒にしよう」
「あ、先進めててくださいよ」
本当は一緒に進めたかったけど。僕のために待っていてもらうのも悪い。
「そう? わかった。また今度なんかしようね。じゃあおやすみ」
メロンさんはその場で青い煙に包まれてログアウトした。ログアウトしたその場所の白い砂は一粒も動いていなかった。




