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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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メロンさんに会うために

「すみません店長。風邪をひいてしまって。今日のバイトお休みをいただきたいのですが……」

 8:50。僕はバイトに電話を入れた。

「そっか。最近がんばってるしな。まあ、無理すんな。ゆっくり休んでまた頼むよ」

 そう言ってくれた店長に申し訳ない。

 12月25日クリスマス。僕は今、地元の駅にあるトイレの中にいる。電話の最中誰かが入ってきて隣のドアを開け閉めした音が響いたけど、たぶん店長には聞こえていないだろう。聞こえていたとしてもかまわない。

 地元の駅までのバス内はクリスマスということもあって、休暇っぽい人もいたし、普段通り出勤しているっぽい人もいて混んでいた。吊革につかまりながら確たる保証もないまま僕は、曇り空の窓の外を眺めながらメロンさんのことを考えていた。

 トイレから出る。バスが行ったあとの駅前は人がまばらになっていた。

 隣町まで電車で行き、新幹線に乗り換える行程は頭に入っている。メモもとった。もうすぐ2番線に隣町までの電車がやってくる。


 2両しかない電車内は空いていた。イスの一番端に座る。いつぶりだろうか、電車に乗るのは。久しぶりの電車は僕を不安にさせる。膝上に置いた黒いリュックに付いている緑色のターバン型ブローチを見てそんな気持ちではいけないと鼓舞する。

 親には普通にバイトに行くと言って嘘をついた。バイトの店長には風邪だと嘘をついて休んだ。メロンさんに会いに行くんだ。

 進行方向の1両目が横にずれ、そのあと僕の2両目が横にずれる。電車の音はガタンゴトンと、本当にそのままの音がした。


 地元の駅周辺とは違ってだんだんとビルの数が増えてくる。空いていた電車内もすっかり満員になっていた。着実に、不確かなメロンさんがいるであろう町に近づいている。無駄骨に終わる可能性もある。でも、会える可能性もある。

 到着したホームに大勢が降りていく。その流れに乗って、僕は買い方のよく分からない新幹線の切符を駅員さんに聞いて購入した。財布の中の一万円札が少なくなる。大丈夫。貯金が全額なくなってしまってもいい。

 駅弁も売っていたけど僕は買う気にはなれなかった。というか食欲がなかった。簡単に駅の売店でサンドイッチとアイスコーヒーを購入する。

 新幹線の座席に体をあずける。もうこれで僕は東京へ進むしかない。もう後戻りはできないし、するつもりもない。

 静かな走行音の中で僕はメロンさんについて考える。本名も顔も知らない。あの日フィレオフィッシュを買いに来たのが本当にメロンさんだとして、蕎麦屋で女性店員にマフラーをあげたとして、それがfeeling東店だとしても、直接メロンさんがその町に住んでいるという保証はどこにもない。

 僕は不安になるたびに何度も何度もリュックに付けたブローチを見つめ眺めた。


 東京駅に到着した。人も多いし、ホームも多い。どこをどう行けばいいのか。僕は近くの駅員にメモ書きを見せた。僕のそばをたくさんの人が歩いて行く。僕はこんな人の多い都市でメロンさんを探し出せることができるんだろうか。

 電車のドアの上部にある路線図を見る。一駅一駅と停車するたびにfeeling東店のある駅へ近づく。メロンさんに近づいている。どこの駅もビル群が窓の外に迫っている。

 お昼過ぎ、僕はメロンさんが住むであろうfeeling東店のある駅前に出た。ロータリーには大きなクリスマスツリーが建っていて、右に左に外に中に、たくさんの人が行き来している。

 駅前に立ってみたものの、これから僕はどうすればいいのだろう。Feelingに行ってどうすればいいんだろう。

 スマホで今一度feelingの場所を確認する。それはすぐにわかった。僕の立っている左にある大きなビル。その3階あたりに黒の文字で『feeling』とあった。ビル内に入っていく人の流れに沿って僕は緊張しながらも重いガラスドアを押し、自動ドアの先に進んだ。

 エレベーターが3階へ近づく。もうすぐだ。もうすぐ。

 あっという間に3階へ到着した。どのお店もクリスマスの装飾がされている。緊張が大きくなる。していたはずの心の準備もそのままに、すぐ目の前に『feeling』の看板があった。

 店内は落ち着いた大人の雰囲気で、スーツを着た女性店員を3人ほど見かけた。もしかしたらメロンさん、ここで働いているんじゃないか。

 女性店員の一人と目が合ったのでそらす。高校生の僕には場違いな場所なのだろう。僕は聞いてみようと思った。

『ここのお店でメロンさんという人働いてますか?』

 と。でもメロンさんと言って分かる訳がない。

 結局僕は店の前を少しウロウロして1階に降り外に出た。

 大勢の人がいる駅前で僕は一人ぼっちになってしまった気がした。誰も僕を気に掛ける人はいない。

 リュックには手をつけてないサンドイッチがあるけど、その辺にある喫茶店で少し休むことにした。アイスコーヒーを頼み、駅前を見渡せるガラス窓の席についた。

 時間は13:08。ガラス窓の外の空はどんよりと曇っていた。


 14:12。僕は2杯飲んだアイスコーヒーで少し気分が悪くなった。約1時間打つ手を考えた結果、僕はもう一度feelingに行って確かめてみようと思った。

 3階に上がる。さっきよりも緊張は高ぶっている。優しそうな笑みで店内を歩く女性店員に声をかける。

「すみません、こちらで働いている人で22歳くらいのかたっていますか?」

 女性店員は笑みが一瞬消え、不審そうに僕を見て、また笑みに戻った。

「え~と、どういった? お知り合いのかたかなんかですか?」

 返答に困った。自分の置かれている現状はあきらかに不審者だ。

「いえ、ちがうんです。いいんです。失礼しました」

 僕は女性店員に頭を下げエレベーターを降りた。


 今日何杯目のアイスコーヒーになるのだろう。手がかりもないまま、このまま帰ろうと思ったけれど、結局僕は駅前の喫茶店にいた。外はもう暗く、クリスマスツリーのイルミネーションが点灯している。たくさんのカップルや家族連れが駅前を行き来している。ツリーのそばにあるデジタル時計の電光板は17:27と表示されていた。

 予想していたことではあった。不確かな情報となんの計画もなしに僕はこの街にやってきた。

 レジでお会計を済ませ、駅前のクリスマスツリーを円形に囲むコンクリートの上に座る。お尻が冷たい。テレビで言っていたホワイトクリスマスもありそうにない。

 もうそろそろ時間か。帰るしかないか……。

 冷たい風が吹く。コンクリートの上に座りながら、目の前をたくさんの人が通り過ぎる中、僕はトラあなにログインした。


 ブレメの村は晴れ渡っていて蒸し暑い風が吹いている。そんな中でも雪がパラパラと降っていた。青々とした樹々が揺れ、そばを馬車や村人、たくさんのサンタの格好をしたプレイヤーが通り過ぎる。

 トラあなの世界でも今日はクリスマス。晴れ渡る空と降る雪を眺める。

 充分やったじゃないか。やれることはすべてやったじゃないか。


 目の前に白い光が現れた。

「え」

「え」

「メロンさん……」

「かろ、り……」

 僕の目の前にメロンさんがいる。どうして? どうして?

 笑顔で泣いたメロンさんが僕に抱きついてきた。僕は両腕でメロンさんを強く、強く抱きしめた。



 ログアウトをしても僕はしばらくコンクリートの上に座ったまま動けなかった。僕の周りをたくさんの人が行きかっていた。


 12月26日。朝メロンさんから『お誕生日おめでとう』とroinがあった。

 バイトでは昨日のことを店長に謝った。店長は本気で風邪を心配してくれていた。

 バイトを終え、僕はトラあなにログインした。

 フレンドリストを開く。そこにはメロン頭の緑色をした髪の、レベル1と表記されたメロンさんのアイコンが薄く表示されている。

 春休みになったら台湾に行くんだ。

 トラあなの旅の日記帳を開く。メロンさんとの思い出は昨日の分しかなかったけど別にかまわない。僕の頭の中にはメロンさんとの旅の記憶や、現実での出来事がしっかりと残っている。そしてまたいつかメロンさんとの冒険を頭の中の日記帳に記していけばいい。       

 旅の日記帳を閉じる。


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