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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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振り返って

 ネットで『feeling東店』を検索する。わずかな情報だったけど今の僕にできることをやるだけだ。

 メロンさんはそのお店で緑色のマフラーを買ったに違いない。

というふうに決定づける。そしてその町周辺にメロンさんが住んでいる。決定づけていかないことには一歩も前に進めない。

 Feeling東店は東京の東側の町にある有名なファッションショップだった。僕はまったく知らなかった。さらに、僕の町からメロンさんが住むであろう町までの交通手段を調べる。

 窓の外はもう暗く、でも、あの民家を越え、鉄塔を越え、駅を越え、山を越え……。暗い空の下にメロンさんがいる。いるのは確かなんだ。

 押入れから普段使わない黒のリュックを取り出す。こんなことになるんだったら、もっとかっこいいリュックを買っとけばよかった。

 ぺちゃんこになった黒いリュックの前のポケットには、いつ入れたのか分からないポケットティッシュが入っていた。ゴツゴツと盛り上がった財布の小銭入れを開ける。小銭はたいして入っていない。

 僕は小銭入れから緑色のターバン型のブローチを取り出し、紐を付け、リュックのファスナーに結んだ。初期のラーンの村でメロンさんと装備を買った日のことを思い出す。

 バイトで貯めたわずかな貯金。きっと明日にはほとんどなくなってしまうだろう。また一から貯め直しだ。

 勉強机に伏せてあった卓上カレンダーを起こす。明日は12月25日。クリスマス。


 寝る前にトラあなにログインする。

「こん」

 ミズキさんやマシンさん、まささんから「メリークリスマス」と言われた。

「一緒に祝おうよ」

 とも言われたけど僕は丁重に断った。

「今日はちょっとだけなんです。だからすみません、また今度」

「そっか、まあいつでもできるしな」

 マシンさんの声は僕に勇気をくれる。

 ブレメの村にいるたくさんのプレイヤーたちがクリスマスの衣装に身を包みあちこちで

「メリークリスマス」と掛け声を交わしている。景色は青々とした樹々の取り囲む村の中で冬らしさは感じられなかったけど、現実とゲームが重なり合って、クリスマスムード一色だった。

 僕は村から海のほうへ向かった。メロンさんと最後に別れたレンフィル大陸の船着き場。停留した船がゆらゆら揺れている。僕は船長さんに

「バレットの港町まで」

 と声をかけた。メロンさんと冒険した軌跡を逆戻りしてみようと思った。

 船に揺られていると、メロンさんとカクテルさんの楽しそうな話し声が聞こえてくるようで嫌な反面、あの時の自分にも後悔を覚える。

 バレットの港町は今日も威勢のいい声であふれかえっていた。エミリアさんの喫茶店の前を通る。風化した木の壁。その前には電飾もなにもない小さなクリスマスツリーがぽつんと置かれていた。店の中からはなにも聞こえてこなかったけど、小さなクリスマスツリーはエミリアさんの精いっぱいのお祝い方なんだろうなと思った。

 メロンさんにおごってもらったアイスコーヒー。また飲みに来たい。

 あったと思われる場所に行ってみたけどやっぱり民宿トピーはなかった。あのどしゃ降りの日。一緒に泊まった幻の民宿。美味しかった香り筍ご飯。壁越しに話したお風呂。メロンさんの寝姿、浴衣から伸びた白い脚。海の彼方へ去っていく二つの背びれ。

 高台を見上げると町長の立派な家が見える。バレットの町は今日も元気だった。

 町を出て浜辺を歩く。洞窟のほうから傷だらけで出てくるプレイヤーたちとすれ違う。きっとドロンパの襲撃に耐え、バレットの町に行くんだろう。

 洞窟の中はドロンパが右に左にうようよ歩いている。洞窟の出口の光からメロン頭のシルエットが変に揺れながら僕のほうへ近づいてきたあの日。

 洞窟を出るとササラ海岸が遠くまで続いている。ササラタコとのことを思い出す。そして転職した経緯までも。

 やがてササラ海岸が途切れると、看板が立てかけてあった。坂を上っていくとムーンフラワーとランランさんのお墓がある。僕はブルーニャ山には登らずに、草原の広がるラーンの村への一本道を進んだ。

 ラーンの村で村長の家の前を通ると、庭で犬と遊んでいたルアと目が合い

「あ、おにーちゃん。ひさしぶり。あれ? 今日はおねーさんは?」

 と笑顔でしゃべりかけてきた。

「今日は一緒じゃないんだよ」

「そうなんだ。あ、メリークリスマス!」

「うん。メリークリスマス」

 僕はルアにクリスマスプレゼントを用意していないことに、失敗したと思った。なにかないかな?

 僕はズボンのポケットに手をかけた。

 あ。

「これ、クリスマスプレゼント。ルアにあげるよ。ごめんね。他のがいいのかもしれないけど」

「わあ~きれい。いいの? ありがと」

 ルアは銀のロケットペンダントを首にかけた。サンタク老師からもらった『聖なるペンダント』。もう僕には必要ない。

「中に入っている僕の写真、他のにしちゃって。ルアが会いたいと思っている人に」

「え。うん。わかった。ありがと。おじいちゃん、おじいちゃーん」

 ルアは犬と一緒に村長の家に走っていった。

 メロンさんとの思い出の最初の場所。一度ゆっくり眺め、僕は『鳥の羽』を使ってブレメの村に戻った。


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