緑色の意味するもの
12月24日。
バイト先のハンバーガーショップ。
裏口から入った時点で、もうすでに厨房からはいつもと違う雰囲気が伝わってくる。更衣室で着替え、テレビをつけ、少しのあいだ椅子に座る。テレビでは女性のアナウンサーが男性の天気予報氏と一緒に
「今日、明日はもしかしたらほんのちょっぴり雪が降るかもしれませんね」
などと笑顔で話していた。そのあとの『ホワイトクリスマス』という言葉が聞こえた時に僕はテレビを消し、5分早く厨房に入った。
レジのほうを見ると、めちゃくちゃお客さんがいるというわけではなかったけど
「おう、ちょうどいい。テリヤキ10入ったからたのむ」
と、先に出勤していた先輩に言われた。一人当たりの注文の量が多かった。中にはやっぱりカップルも何組もいた。いったい彼ら彼女らはハンバーガーを食べながらこのクリスマスに何を話すのだろう。
バレットの港町やラーンの村で、メロンさんと一緒にテーブルをはさんで座りあれこれ話をしたことを思い出す。本当に楽しい思いだだった。
夕方が近づくにつれ客足はだんだんと増えていった。
「ちょっと一時間残業してくれないか?」
と頼まれた。僕は「わかりました」と答える。帰ってゲームをしたところで、メロンさんにはもう会えない。
店内が一瞬止まったような大きな音がした。音のほうを見るとお客様が並ぶそばに立っていたクリスマスツリーが倒れていた。
「すみません」
店長が大慌てで厨房から外に出てお客さんに謝っていた。そして僕を呼び
「ちょっとこのままじゃアレだから、ちょっとこれ片付けておいてくれないか」
と言われた。僕はとりあえず床に散らばった装飾品をざっとビニール袋につめ、イルミネーションのコンセントを外し、ツリーをバックヤードに運ぼうとした。
プラスチックの枝葉がドアに引っかかりなかなかうまくバックヤードに入らなかった。角度を変え斜めにし、ゆっくりと中へ運ぶ。それでもドア枠に引っかかってしまったけどなんとか中に運んだ。
引っかかった拍子にもいくつか装飾品が床に散らばったので、一つ一つ拾い上げていく。青い球体、ステッキ、白い綿、まつぼっくり。ん?
メロンさんだ……。
僕は手で、緑色のターバン型のブローチを拾った。
あの日帰りに寄ったモテナスのトラあなショップで売り切れだったブローチ。こんなものがここにあるはずがない。買ったブローチをツリーに装飾するお客さんなんて他にいるはずがない。メロンさんだ。やっぱりメロンさんだったんだ。
やっぱりあの日フィレオフィッシュを注文したのはメロンさんなんだ……。
「それそのままにして厨房もどってこい」
店長が言った。
バイトを終え、裏道の暗くなった道で自転車を漕ぐ。いつもは人の少ない裏道も今日は心なしかいつもより人が多い気がする。風が強く、ときどき進む自転車が押し戻されそうになる。雪の気配は一向になかった。
結局、今さらメロンさんからのブローチを発見ても、いったい僕はどうすればいいのだろう。もうメロンさんとのつながりはまったくないのだから。
モテナスの前を通る。相変わらず青と白のイルミネーションが点滅していた。そして毎回のように僕は『丸吉』を見て、今日は混んでいるかな? と考える。このまま帰ってもどうしようもないし蕎麦食べていこうかな。
僕はクリスマスに一人、蕎麦屋『丸吉』に入った。
「おう、いらっしゃい」
店主がいつもと変わらず声をかけてくる。もう一人女性の店員がスマホをエプロンにしまいながら「いらっしゃいませー」と元気に言った。僕は招き猫の前の席に座った。
「ご注文はなんにしますか?」
女性店員は僕の前に水を置いた。今まではセルフサービスだったのに。
「えと、蕎麦とおにぎり2個。具なしで」
「はい。かしこまりました。え~『蕎麦』と『具なしおにぎり』2個!」
女性店員はその場から大きな声で店主に伝えた。そして僕にぼそっと言った。
「う~ん、なんか流行っているのかな。蕎麦と具なしおにぎり」
「え? なんですか?」
ちょっと意味がわからなかった。
「この前も女の人が同じ注文したからさ。蕎麦と具なしおにぎり。あ、でねでね」
女性店員は奥の部屋へ行き、またすぐに戻ってきた。
「ほら、これ。見て。かわいいでしょ。その女の人にもらったの」
そう言いながら首にマフラーを巻いた。
「なにやってんだよ、バカモン。もどってきなさい」
店主が厨房から控えめに怒鳴った。
「おじいちゃんは古いのよ。だからお客が……」
「そのマフラーってどこに売っているんですか?」
僕は聞いていた。女性店員はまた僕を見て楽しそうに
「『feeling』の東店だってさ」
と緑色のマフラーの先を手ではねた。




