断絶
12月23日。
バイトに到着し、休憩室に入ると奥の小部屋にサンタクロースがいた。
「おはようございます」
「おう、おはよう」
黒い髪で白いひげをつけ、がぶがぶの服を着ながらパソコンをいじっていた。
「しかしあれだな、この服暑いな」
店長の顔の下の白いつけひげが動く。
「店長は奥さんとお子さんにプレゼント買ったんですか?」
「なに言ってるの。買うんじゃないんだよ。サンタさんにお願いするんだよ」
冗談で言っているのか、ロマンチックなのか分からなかった。
「俺自身も毎年サンタにお願いしてるぞ」
「なにをですか?」
「『笑顔』に決まってるだろ」
僕はメロンさんの笑顔を思い出した。いたずらっぽく笑ったり、よかったね、と笑ったり、大きく口を開けて笑ったり。
「で、なにをお願いしたの?」
パソコンを見つめたまま店長が言った。
「え。僕は、まだ、なにも……」
「信じてないの? サンタ?」
「そういうわけじゃ……」
「それが大人だと言うなら俺は子供のままでいいけどね」
サンタが言った。
ブレメの村で一人で謝ったあの日からメロンさんのアイコンは薄いままだった。僕がログインしていないときにログインしているのか? いや、そうではないらしい。メロンさんのレベルは転職できるまでもうすぐといった28のままずっと変わっていない。
あのあとサンタク老師の小屋でトナーに僕の写真を撮ってもらい、切り抜いて銀色のロケットペンダントにセットした。
ズボンの上から右のポケットを触るとその『聖なるペンダント』の丸い輪郭がはっきりとわかる。
「明日だな、クリスマスイブ」
マシンさんは気が早く、もうサンタの服を着ていた。
「で、メロンさんはどうなった?」
まささんが聞いてきた。サンタの服を着て。
「いえ、ずっとログインしてないです」
ミズキさんが
「そっか」
と風のない中、静かに止まっている樹々の葉を見ながらつぶやいた。サンタの帽子だけがふっと動く。他の3人はみんなサンタの服を着ていた。
「いや、いいんです。こうやってみなさんと一緒にプレイしてるうちに僕も元気がわいてきたとこなんです。もしメロンさんと会えなくてもそれはそれでしょうがないです」
実際その気持ちもある。少し吹っ切れた自分もいるし、一度でも会えたらなという思いも消えていない。もしかしたらクリスマスを過ぎてもまたどこかで会えるかもしれない。このまま会えないのかもしれない。この先自分の気持ちがどうなるかなんてその時になってみないと分からない。想像以上に落ち込むかもしれない。受け入れるつもりだ。
「じゃあな。明日はいいことあるといいな。メリークリスマス」
「メリークリスマス!」
ちょっと早いけど、みんなで合わせて言った。そして解散した。
大人の3人はきっと僕よりたくさん辛い経験をしてきたはずだ。それでもサンタを信じている。信じているわけではないのかもしれない。それでも心のどこかで『あったらいいな』と思い、明日になにかを馳せているんだろう。なにかはわかんないけど。
僕もなにかサンタにお願いしようかな?
そう思いながらログインする前に一度フレンドリストを見る。
目を疑った。もう一度フレンドリストを開きなおす。
メロンさんのアイコン自体が消えていた。
部屋の中にいる。ダウンジャケットがハンガーで斜めに壁にかけられている。時計の秒針が動いている。エアコンの音がする。外を走る車のエンジン音が聞こえる。
終わった。
クリスマスがどうこう、またそのうちゲーム内で会える、春休みに実際会いに行く、そのどれもが全部可能性を失った。僕とメロンさんのつながりはもうない。
なぜ……。どうして……。
なんでなんだよ。そんなのあんまりじゃないか。消してしまうことはないじゃないか。どうしてなんだよ……。
明日はクリスマスイブ。前夜祭もくそもない。サンタにお願いしようとした僕が馬鹿だった。こんなことってあるかよ。
サンタクロースのバカヤロー! クリスマスのバカヤロー!
床を思いっきりこぶしで叩いた。床に顔を打ちつけた。
もう一度メロンさんに会わせろよ……。
それでも僕はサンタにお願いしていた。




