老師の話
『聖なる樫の木』がだいぶたまった。僕はサンタク老師のもとを訪れた。
「おお、ずいぶんたくさんの樫の木じゃないか。では暖炉にくべよう」
サンタク老師は一度その長い白髭を手でつまんでベッドから立ち上がり、小さな体で同じくらいの大きさの『聖なる樫の木』と枝の束を暖炉にくべ、火をつけた。
チリチリパチパチと音がし、次第に火は大きくなり、わずかなランプの明かりのみだった薄暗い部屋がたちまちオレンジ色で染まった。
「おお。暖かい暖かい。体に染み渡るようじゃ」
サンタク老師は目をつぶった。そして目を開け
「風邪は治った。今年も盛大に世界各地の人々にプレゼントを届けてまわろう。旅の者、持ってきてくれた樫の木のお礼じゃ。どれが欲しい?」
目の前の床にいくつかのプレゼントが現れた。
『クリスマスケーキ』『サンタの服』『トナーのソリ』『不思議なおもちゃ』『サンタの置時計』などなど。だけど一つのプレゼントだけが薄く表示されていた。
『聖なるペンダント』
「あの……。これ欲しいんですけど……」
「ん? ああ、これ? べつにいいけど、ただのロケットペンダントじゃよ」
「そうなんですか?」
「なあ、トナー」
サンタク老師はまん丸い目で同じくらいの身長のトナーを向き、言った。
「これ、好きな人にあげるプレゼントだよ。旅の人、『好きな人』いるの?」
「え。はい。います……」
「なんか暗いね」
トナーが銀色の丸いロケットペンダントを手に取って言った。
「これねえ。両思いじゃないとただのペンダントだからね」
「どういうことですか?」
僕がたずねると
「いちおう話すか……」
と、サンタク老師はロッキングチェアにピョコっと飛び乗り背をあずけた。トナーはその隣で丸くなり眠った。オレンジ色に染まる壁に、サンタク老師とトナーの影が映る。窓の外は雪がしんしんと降っていた。
「これは昔むかし、まだプレゼントの風習がこのサンタの国にしかなかったころ。当時のサンタク四世はそれまでの文化に疑問を抱いていた。
『サンタの国だけでなくもっとたくさんの世界にプレゼントを運びたい』と。
だが、それはサンタの国を脅かすことにつながりかねないと国の王様は認めなかった。出ていった者は二度とサンタの国に戻れないようにした。
実際に今回の雪の塔での出来事がいい例じゃ。今では行き来ができるがな。
王様は、それはならんと四世に言った。だが、四世は聞かなかった。サンタの国を飛び出すと言い放った。王様は娘との婚約を破棄にすると言った。その娘とはロース姫。サンタク四世とロース姫は婚約をしていた。その時すでにロース姫のお腹には二人の子供を授かっていたのじゃ。
ロース姫は一度はサンタク四世と異国の世界へ駆け落ちしようと決めた。だが、見知らぬ異国の地ではロース姫の身体に負担が大きすぎるということで断念した。
ある晩雪の降りしきる日、ロース姫は旅立つ四世に銀色のロケットペンダントを渡した。『いつもあなたのそばにいます』と。そして四世は『二人の子供にいつかプレゼントを届けると約束する』と言って異世界へ旅立った。
それから何年か経った。四世は少しずつ少しずつサンタの文化を異世界で広めていった。だが、四世は心も身体もボロボロだった。もう充分この世界で役割は果たした。あとは自分の子供にプレゼントを届けたい。だがもう二度とサンタの国へは戻れない。
サンタク四世は首にぶら下げた銀のロケットペンダントを開けた。そこにはお腹の膨らんだ愛するロース姫の写真があった。もう一度会いたい、そしてプレゼントを届けたい。
四世はプレゼントを抱えながら願った。
すると銀のペンダントが光り輝き、四世の身体が宙に浮き、空間を飛んだ。気づくと、目の前にはあの日とほとんど変わらないロース姫と6歳になるサンタク五世の姿があった』
「そんなお話じゃ……。伝説じゃがな」
目をつぶったサンタク老師がロッキングチェアと一緒にゆらゆら揺れる。
「伝説じゃないよ」
目を開け、トナーが言った。
「だってサンタク五世はサンタク老師なんだから」
「ふん。父の作り話じゃよ、きっと……」




