希望に向かって
「そういうことじゃったのか。これでサンタの国の樫の木はまたしっかりと育ち始めるじゃろう。だがそれは来年……。暖炉用の樫の木の薪がないとわしの風邪は治りそうにない。そこでじゃ」
サンタク老師はベッドから体を起こし、話をつづけた。
「あなたがたの住む地上で『聖なる樫の木』というものがあるらしいではないか。それを集めてきてはくれぬか?」
「ぼくからもお願い」
トナーの角が合わさる。
僕は組んだパーティーメンバーに「ありがとうございました」と言って別れた。むこうも「またどこかでな。ありがとな」と言って手を振った。
「どうしたんだよ、かろり。いつにもなく頑張ってるな」
マシンさんがモンスターを倒しながら言った。
「なに言ってるんですか。樫の木たくさん集めないと」
僕は僧侶だけど、回復の合間を見ては『兵士のヤリ』に装備を変えて攻撃に加わった。攻撃力は低いけど。
「生き生きしてるじゃん、かろり」
まささんがあっけにとられている。ミズキさんが笑い、僕は額の汗をぬぐった。
「あ、あっちにもいますよ。赤い帽子かぶった敵」
クリスマスイベント中はモンスターが赤い帽子をかぶっていた。あちこちでたくさんのプレイヤーがモンスターを倒し、『聖なる樫の木』を集めていた。
12月22日。二学期の終業式。
「はい、みなさん。明日から冬休みに入ります。宿題に冬期講習もあります。遊びばっかりにかまけないように。目標を持って過ごしてください。それと、いいですか。ここ重要」
担任が黒板を向きチョークで書き始めた。
「これ。これな。風邪をひかないように」
「なんだそれ」
生徒からツッコミをくらっている。コンコンと指で黒板を叩いてから担任は『風邪』という字を消した。
消した黒板からは白い粉が何粒か落ちていった。そのなかの一粒だけがやけにゆっくりと、雪のように落ちていき、粉受けにおさまった。
明後日はクリスマスイブ。
バイトに早めに行く。
「あの、店長」
「ん?」
温かい休憩室で店長は、窓辺の棚にある植物の葉っぱに霧吹きをしているところだった。
「休みにしていた24日と25日なんですけどバイト入れますか?」
「おおお。なんだよ。人少ないんだよ。歓迎だよ。で、何時何時よ?」
店長が笑顔で答えた。
「え~とですね、9時~17時でお願いしたいんですけど」
「大将、がんばるねえ。特別手当もあるから」
「ありがとうございます」
『大将』と呼ばれた。ま、いっか。僕は更衣室へ向かった。後ろから音がした。
「ち、なんだよこれ」
霧吹きの蓋が外れていて店長の手やズボン、床が濡れていた。
クリスマスにシフトを入れた訳。もちろんお金を稼ぐという理由もある。貯めて、日本のどこかに住むメロンさんに会いに行こうと思っている。メロンさんが「いいよ」って言ってくれた場合だけど。ご馳走もしたいし、いろいろ出かけてもみたい。僕が全部おごろうと思う。メロンさんにおごってもらったバレットでのアイスコーヒー代をまだ返していないし。そのころは春休みになるかな。
それと。
いつかのフィレオフィッシュを買いに来た人がメロンさんだったら……。またクリスマスに会いにきてくれるかもしれない。その可能性はゼロではない。
僕はあの日のあのお客はメロンさんだと思っている。




