勇気と自信
サンタク老師にもらった防寒具を着て小屋を出ると、灰色の雪の降る中いろんなプレイヤーが大声で叫んでいた。
「どなたか一緒に雪の塔いきませんか~?」
「雪の塔、あと2名」
「雪の塔、僧侶歓迎」
パーティーメンバーを募集している。
フレンドリストを開いても、マシンさんたちはログインしてなかった。同様に薄くなっているメロンさんのアイコンを見ると残念でさみしい気持ちになったけど、また自分に言い聞かせる。
きっと会える。
そして僕は、見ず知らずの人とパーティーを組んでみようと思った。それはすごく勇気のいることだった。どんな人かわからない。もしかしたら怖い人かもしれない。強くて上手くて、僕なんか足手まといになってしまうんじゃないか。
だけど、僕はこれまで自分から声をかけたことはない。いつも相手から。マシンさん達とだって初めはミズキさんから誘われた。メロンさんだってそうだ。小雨の降る草原で。
きっと今の僕のように、緊張だったり不安だったりしたはずだ。僕も自分から行動していくようにならなければいけない。
「だれかいませんか~、雪の塔。僧侶さんいませんか~?」
黒い魔法の帽子をかぶった細い男性が大声で呼び込みをしていた。よし。僕は僧侶だし。
「すみません」
声をかけると、魔法の帽子をかぶった男性は呼び込む声を止め僕を見た。
「パーティーに入れてくれませんか?」
「ん? あ、ああ」
しばらく僕を見ている。きっと僕のステータスを見ているんだろう。
「レベル16か。う~ん、少し低いけど僧侶さんなかなかつかまらないし。おねがいするよ。よろしく」
他に戦士さん2人ともあいさつを交わす。
「よし。準備はいいか? 雪の塔へ行こう」
小屋から灰色の雪の一本道を歩く。みんな強かった。途中襲って来た『シロオオカミ男』の群れも、戦士さんは重そうな鋭いオノで、魔法使いさんは『ジュジュマール』の炎のかたまりで蹴散らしていく。僕はほとんど出番がなかった。
灰色の塔が目の前にそびえ立つ。灰色の塔というより、外壁が灰色の雪で覆われているのがわかる。元はどんな塔なのだろう。
戦士さん2人が歯をくいしばりながら入口の門を押している。
「う~ん、びくともしないな。どうやって入るんだ?」
するとムービーが始まった。
「お~い」
振り向くとトナカイのトナーが首にひもをつけ、赤いソリを引きながらこっちにやってきた。
「ふう。えとね、老師がね、お前も旅のお方の手伝いをしてこいって言われたの」
「ちょうどよかった。門が開かないんだよ」
魔法使いさんが言った。
「そうなの? あ、そうだ。それならぼくがあそこまで連れてってあげる」
トナーが灰色の塔の真ん中のバルコニーを、茶色の毛の手で指した。
「さあ、乗って」
僕たちはトナーのソリに乗った。僕たちを乗せたソリがスーッと雪の上をすべる。子供のころ以来の感覚は懐かしく、楽しさを呼び起こす。
トナーが大きく跳ねた。
リズムある明るいBGMが鳴る。ソリは一直線に向かわずに、塔の周りをクルクルと回りながら上昇した。ソリの後ろから虹色のキラキラとした光が出ている。サンタの気分ってこんなかんじなんだぁ。
「ぼくはここで待ってるから、中を確認してきて」
トナーはソリから僕たちを下ろし、その場で寝てしまった。寒くないのかなあ。
中に入ると螺旋状の階段が上下に続いていた。僕たちは最上階をめざした。灰色の雪は塔の中までは入ってこないけど、氷の階段もまた灰色で透き通ってはいなかった。
階段が途切れ、その奥からオレンジの明かりが漏れ、黒い影が揺れている。そして声が聞こえる。
「ふはははは。もっとだ。もっともっと。わたしは大金持ちだ~。ハハハハハ」
男の笑い声だった。
僕たちは最上階の部屋へ入った。ムービーに切り替わる。
「ん? なんだ、お前たちは? 俺の邪魔をするつもりか。」
そこにいたのは人間だった。男の前の馬鹿でかい祭壇の上に、黒く丸い異次元空間のようなものが2つ並んであった。右の空間から左の空間へ、タイヤやペットボトル、家電製品からポリ袋まで、大量の『ゴミ』が流れ込んでいた。
「見られたか……。俺は地上のゴミをサンタの世界に送り込んでいるんだよ。地上ではゴミが溢れかえっていてね。どこも処理でこまっているんだよ。だから俺はこうして引き取り、報酬を得ている。なにか問題でもあるかい?」
男は笑みを浮かべた。
それで雪が汚れて灰色になったのか。それで汚れたサンタの国では樫の木が育たなくなったのか。たしかにゴミで溢れかえさせてしまったほうにも責任はある。
「でもサンタの国は関係ないじゃないか」
戦士さんが一歩前に出た。
「ほう、戦うつもりかね。いいだろう。出てこい、お前たち!」
男が叫ぶと、左の異次元空間から「キキーッ」と声がして、大きな黒い雪だるまが現れ、僕たちに襲って来た。
戦闘BGM。
戦士さん二人が左右に分かれ、『黒だるま』ににじり寄る。僕はみんなに『マモロン』をかける。黒だるまの一体が口から黒い息を吐いた。
「うわっ」
戦士さん二人は目をしかめ、腕で鼻をかばった。
視界が悪くなり、すごい悪臭が漂う。そんな中、魔法使いさんは落ち着いた声で『バイミン』と唱えた。戦士さんの周りに黄色の闘気が現れる。
「あり」
戦士さんたちは黒だるまを水平に、真っ二つに切り裂いた。闘い慣れているなあと思った。
だけど、真っ二つにされた黒だるまは、また合わさって元に戻った。
「どうすりゃあいいんだ?」
後ずさる戦士さん一人に黒だるまが覆いかぶさった。なんとか抜け出したものの、戦士さんの体はヘドロまみれになっていた。
「君」
魔法使いさんに声をかけられた。
「あれおぼえているかい? 『フロール』」
「え? なんですかそれ?」
「やっぱそっか。まだおぼえてないか。フロールがあれば、毒とか汚れを防げるんだよ。そっか、しかたないな」
僕は申し訳ない気持ちになった。声をかけパーティーに参加したものの、やっぱり足手まといになってしまった。気持ちが萎えていく。
「おい、何やってんだよ! 早く回復しろ」
魔法使いさんが叫び、はっとすると、戦士さんが苦しそうに床に倒れていた。
「すみません。フ、『フーワラ』」
急いで『フーワ』の上位版をかける。
「お前僧侶だろ。お前がこのパーティーを守っているんだからな」
魔法使いさんにきつく言われた。
黒だるまは切っても切っても元に戻った。戦士さんはそれでもオノの手を休めなかった。
「そっか。そうだ」
魔法使いさんがなにかを思いついたように言った。
「『ジュジュマール』」
魔法使いさんの手から飛び出た炎のかたまりが、塔の氷壁に向かっていく。
炎が氷壁の一部を溶かし、空いた穴から冷気が流れ込む。黒だるまの動きが遅くなる。
「よし。『オノ砕き』」
戦士さんはオノをヤリのように突き刺した。冷気で固まった黒だるまの体が粉砕された。
「やったぞ」
「どうか勘弁してください。この商売から足を洗います」
男は土下座をし、二つの黒い異次元空間も消えた。トナーの待つバルコニーへ戻る。
「むにゃむにゃ。あ、おはよう。で、どうだった?」
トナーが眠そうに答え僕たちはソリに乗り、そのままサンタク老師の小屋に戻った。振り返って見る灰色だった雪の塔は、とても真っ白できれいだった。
「さっきはごめんな」
魔法使いさんが言った。
「でも、君がいてくれて本当助かったよ。もっと自信持てよ。うまかったぞ」
「うん。俺ら何度も回復させてもらったしな。いなかったらやられてたよ」
戦士さんに肩を叩かれた。力強かった。
ソリは穏やかに降る白い雪の空中を、虹色の光を放出しながら走った。




