聖なるトラあなクリスマス
登校し向かった購買部には、すでに餅入りアンパンとクロワッサンしか残っていなかった。仕方がないので、紙パックのアイスコーヒーと一緒に購入した。
昼休みの教室は、いくつかのグループや個人バラバラで昼食を食べている。学食に行く人もいる。僕は今日3人グループに入って、朝買ったパンとコーヒーを食している。
「もうすぐ冬休みだね」
「うん。冬休みは冬期講習と部活で休みがほとんどないよ」
「正月あるじゃん」
「まあね」
そんな話をしながら餅入りアンパンを食べ終わる。
「おまえはいいよな。部活ないから」
「うん。バイトがあるけどね」
クロワッサンをかじりアイスコーヒーのストローをすすると、細長く小さな紙パックはスコー、ジュルルと音を立て縮んだ。
冬休みはトラあなと、あとはまあ勉強もがんばろうと思っている。そして僕はおぼろげながらに計画を立てていた。バイトも多く入ろう。
親に出してもらっていた月のスマホ代。来月1月から、いや2月からにしようかな。平均3万、多い時で4万円ちかい僕のバイト代から自分で払おうと考えている。そして節約して貯めようと思っている。
トラあなを通して、きっと僕より年上だろう人たちと一緒にプレイすることで、自分はもっと大人にならないとなと感じた。実際どうすれば大人になれるのか? というのは分からないけど、僕にできるのは今のところそれぐらいしか思い浮かばなかった。
そして僕が大人にならないとメロンさんに不釣り合いだ。
黒板の上にある時計を見ると昼休みもあとわずか。
「ちょっとトイレ行ってくる」
僕はクロワッサンを口に詰め込み、教室を出てトイレの個室に入った。スマホを開いて『トラあな情報局』を確認する。
『聖なるトラあなクリスマス』本日開始!
いよいよせまったクリスマス。サンタの国ではプレゼントの準備で大忙し。
おや? トナカイが泣いているよ。
各地域のどこかにいるトナカイに会って話を聞いてみよう。
キーンコーンカーンコーン。
僕はスマホをポケットにしまい教室へあわてて戻る。
バイトの店長には明日話し、冬休みのシフトを多めに調整してもらおうと思う。
帰宅しすぐにトラあなにログイン。今日もメロンさんはログインしていなかった。そのうち会える。そう思わないとやる意味がない。
マシンさんたちもログインしてなかったから僕は一人で、その泣いているというトナカイを探した。ブレメの村はいつもよりプレイヤーの数が多く、人の流れについていったら簡単にトナカイを見つけることができた。村を出て森林をほんの少し歩いたところの地面にポツンとレンガでできた煙突だけがあって、その前で赤い帽子をかぶった赤い鼻の小さなトナカイが泣いている。
こんな煙突なかったけど。きっとイベント用にできたのかな。
「どうしたんですか?」
僕はトナカイに話しかけてみた。ムービーに切り替わる。
「え~ん、え~ん。老師が……老師が風邪をひいちゃったよう……。僕と一緒にサンタの国に来てくれない?」
そう言われ、僕は小さなトナカイと一緒に、地面に生えている煙突の中に入った。
体が回転しながら吹雪の中を下へ下へ落ちていく。
なにかにボフッと着地し手でかきわけてみると、どうやら僕は雪のかたまりの中へ落ちたらしい。
雪の世界、と思ったけど、白い雪ではなく灰色の雪だった。
目の前に雪をかぶった小さなトナカイと、その奥に小屋があった。
「こっちこっち」
トナカイに促され、小屋の中に入る。
小屋の中の狭い部屋に見合った、小さなサンタクロースがベッドの上で苦しそうにしていた。部屋の暖炉には火が点いてなくて寒かった。
「おお、トナー。探してきてくれたか……。」
「老師。旅のお方をお連れしました」
老師という小さなサンタは体を起こし、僕を見て言った。
「おお、旅のお方。わしは『サンタク老師』。世界中にプレゼントを贈る仕事をしている……。ゴホ、ゴホッ。サンタとして情けない。御覧のとおり、わしは風邪をひいてしまった。暖炉の薪に使っている樫の木が今年は一本も育たず。そのせいで寒くて寒くて……。
樫の木が育たないのもきっと『灰色の雪』のせいじゃ。なぜそんな雪が降っているのかまずは確かめてきてくれぬか? わしはどうも雪の塔があやしいとおもうのじゃが……。旅の者、どうかお願いじゃ」
「ぼくからもおねがい」
トナーが手を合わせると、頭の両角も合わさった。




