仲間
帰宅すると父がトイレから出てきたところで
「おう」
と言い、居間に入っていった。僕は何も言わず階段を上がる。
部屋の中が寒い。エアコンをつける。脱いだダウンジャケットをハンガーにかける。学校のジャージを着る。
決まった行動をするロボットみたいだ。夜の窓に自分が映っている。でも僕は、映った自分の顔を見なかった。暗い顔をしているのは充分分かっているから。見たくなかった。
机の上にある卓上カレンダーを見る。楽しそうな顔をしたサンタクロースとトナカイ。緑の樫の木と赤いソリ。黄色い星に白い雪。
毎年毎年クリスマスカレンダーのイラストを見るだけで、子供のころから何度も何度もわくわくし、いつもいつもうっとりとした。
でも今は違う。こんな気持ちになったのは初めてだった。辛いんだか、悲しいんだか、もうよくわからない。
僕は卓上カレンダーを伏せた。
それでも僕はトラあなにログインした。もしかしたらメロンさんが話しかけてきてくれるかもしれない……。
でも、メロンさんはログインしていなかった。やめちゃったのかな。
え。 やめちゃった?
考えが頭によぎった瞬間、僕は肩がきゅっと締め付けられるように感じ、自分の心臓の音がそのままダイレクトに耳に伝わる。
やめちゃったら本当に本当に僕とメロンさんのつながりはなくなっちゃうじゃないか。
ログインしたその場所から一歩も動かずに僕はログアウトした。
すぐにroinがあった。水希さんからだった。
『どうしたの? 今ログインしてたでしょ? 一緒にしない? マシンさんたちも呼んでるよ』22:02
僕はだれかといたかった。一人じゃいられなかった。そんな自分を情けないなと思いつつ
『こんばんは。じゃあ少しだけよろしくお願いします』
と返信し、もう一度ログインする。
「かろり。どうしたんだよ。少しレベル上げでもしようぜ」
「これ見てみ。俺もついに買っちゃったよ。シルバーアックス」
マシンさんがニヤニヤしながら自慢げにオノを僕に見せた。
僕を盛り上げようとしてくれている気がした。きっとミズキさんが心配して、僕とメロンさんとのことをマシンさんたちに話したんだろう。
僕たちは4人でブレメの村の外でレベル上げをした。マシンさんたちは、僕とメロンさんのことには何もふれず、いつものように、いやそれ以上に明るくふるまってくれていた。
「ちょこるか」
マシンさん用語の『ちょこっと休憩しよう』。そうやっていつも僕たちは冒険の合間に休憩しながら、トラあなのこと、会社のこと、最近見たドラマやアニメ、食べたご飯、それからちょっとした悩みごとなどを話していた。
マシンさんは汗を手の甲で拭いながら
「いや~疲れたね」
と木にもたれた。そしてまささんが、道具屋で買った『ブレメの焼きイモ』をみんなに一本ずつ配った。
「ありがとう。焼きイモ、うん、おいしそう」
ミズキさんが少し照れた。
みんなが気を使ってくれている。
「あの……。僕のことなんですけど……」
「ん?」
マシンさんが水筒の飲み物を飲んだ。
「実は、いろいろあって……」
僕はマシンさんたちに、メロンさんとのことを話した。
「そっか。う~ん。でもさ、おかしくないか? そんなんで普通そこまで怒る?」
「そうだよ。前の日まで楽しく冒険してたんだろ?」
「でも、僕が不愛想になって雰囲気をぶち壊しにしたんです……」
「う~ん……」
マシンさんとまささんが腕を組んで考え込む。
「で今日、ログインしてないんです。やめちゃったのかもしれません」
「考えすぎだよ。たった一日でしょ。忙しい日もあるよ」
「うんうん。それにさ、かろりのことが嫌ならフレンド削除するだろうし、それに、やめるなら、えと、なんだっけ、キャラなんとかするだろ」
「キャラデリね」
「うん。それ」
マシンさんがブレメの焼きイモを大きくかじった。
「でもさ、かろりってロマンチックだよな。現実で会ってプレゼント渡そうとしたんだろ?」
「いや、もし会えたらって思っただけで」
「ブローチ残念だったね。でも、その気持ち女子はうれしいよ」
頭の中にメロンさんの顔が浮かぶ。
「ゲームで会えるって。もうすぐクリスマスなんだからさ。サンタにお願いしてさ」
「そうだよ。『聖なるトラあなクリスマス』明日からだろ?」
プ~っ。
「おい、まさ。オナラすんなよ」
「マシンちゃんだろ今の!」
3人が大声で笑った。僕も少しだけ笑った。なんだか本当に会える気がしてきた。うん。会える。そして。
プレゼントを渡す方法があるじゃないか。
「ありがとうございます」
僕も焼きイモをかじる。時間が経っても『ブレメの焼きイモ』はホクホクしていた。




