フィレオフィッシュ
「買ってきました」
「おう、ありがと。ちょっとコーヒーでも飲んで10分くらい休め」
店長は僕からお釣りと領収書とイルミネーションを取って、さっそくクリスマスツリーにつけに行った。
寒かったけど僕はカウンターでアイスコーヒーを自分で入れた。店長はツリーの前でごそごそと商品を取り出している。先輩が
「これ、もう廃棄にするから、こっそり食べちゃえ」
と『フィレオフィッシュ』をカウンター越しに隠れて手渡してきた。
「ありがとうございます」
僕も小さな声でお礼を言った。
「あれ? なんかこれ長さ足りないな」
店長の独り言が聞こえたけど、聞こえないふりをして休憩室に行く。
フィレオフィッシュを見ると思い出してしまう。メロンさんのことを。だから僕はせっかくのフィレオフィッシュにいっさい手をつけなかった。家に持って帰ることにする。父にでもあげよう。
暖房の効いた休憩室でアイスコーヒーを飲む。だいぶ苦みに慣れてきた。それも意味はない。
どうしてもどうしても気になるので『トラあな情報局』のサイトを開く。クリスマスイベントの情報が更新されていた。
『大好きなあの人に。大切な友達に。想いを伝えたい誰かに。
トラあなでは来たる12月24日0:00分より聖なるトラあなクリスマスを開催します。明日12月17日から、聖なる樫の木集めに参加してみてはいかがですか? 各地に散らばるクリスマス限定モンスターを倒すともらえる『聖なる樫の木』を集め、そのポイントに応じて素敵なプレゼントをご用意しております。そのプレゼントをどなたかに届けてみては』
だれに届ければいいんだ……
僕はスマホを閉じた。
厨房に戻ると、夜のピークが始まろうとしていた。
「おい。ポテト3やっといて」
店長が言い、女性店員がかぶせる。
「ダブルチーズ2。チキン2」
「オーダー入ります。フィッシュ3」
僕は急いで作り出した。チキンとフィッシュも5枚ずつフライヤーに投入する。
18:30になってもピークは続いていた。
「キング2。ヘルシー4。チキン2」
ううう。
「今日すげーな。めちゃくちゃ混んでんじゃん」
厨房係の先輩が言いながら作業を続けている。帽子の中が汗でまみれ暑い。
「テリヤキ3」
「フィッシュ1」
「ヘルシー2」
ん?
僕の直観が働いた。僕はレジのほうを見た。でも、お客さんがたくさんいたし
「ポテト4やっといて」
と店長の指示があってしっかりと見れなかった。僕はポテトを4つフライヤーに入れる。
ステンレス台に戻ると先輩がフィレオフィッシュを作ろうとしていた。
「あ、先輩。それ僕やりますよ」
僕は強引に先輩の作るフィレオフィッシュを代わった。
「やりますよって、おまえ。ま、いいや」
そう言って先輩とポディションを代わった。
メロンさんな気がする。いや、そんなはずがあるわけがない。でも、僕はそう感じた。
バンズの上にフィレオフィッシュを置く。そして僕はその上にタルタルソースを大量にかけた。苦情がくるかもしれないくらいかけた。僕は半ばやけくそだった。
きっと違うかもしれない。メロンさんが店に来るわけない。この店のことなんか知らないんだから。言ってないんだから。でも。
少し泣きたくなったけど、僕は作ったフィレオフィッシュを包んだ。
メロンさん……メロンさん……きっとおいしいですよ……。
タルタルソースが包みの外から見てもはみ出ているのがわかる。レジカウンターへスライドさせる。
受け取った女性店員は、フィレオフィッシュを手に取って少し変な顔をしたけど、忙しさで中身を確かめようとはしなかった。
「おい。次、バーガー3とチキン2」
先輩の声で次の作業に進む。
(もしさ、もしだよ。あたしだなと思ったらフィレオフィッシュのタルタルソース多めに入れてね)
ピークは19:00に終わった。




